最も大切なのは、親が子どもに「何を」伝えたいのかを、親自身が明確にすることです(画像:『10歳からの言いかえ図鑑』より)

年末年始のお休みは、いつもよりも子どもと過ごす時間も増え、日々忙しさのあまりにスルーしていたことに目を向けざるを得なくなる機会でもあります。普段から気になっていることがより一層、目につき、親子関係のトラブルに発展してしまうことも。ゆえに、年末年始の後は、親子や家族に関する悩み相談が増える傾向があります。

また、長かった自粛ムードもそろそろ氷解し、今年は久しぶりに親戚などが集まるという方も多いのではないでしょうか。すると否が応でも、ほかの子どもと比較したりする機会も増えてしまいます。穏やかに年末年始を過ごすかかわり方はもとより、普段のかかわりにプラスになるヒントをお伝えできればと思います。

子どもの自立を願う親の気持ち

子どもに「意欲をもって積極的に行動してほしい」と自立を願う親の気持ちは多かれ少なかれ誰にでもあると思います。しかし裏腹に、「やる気がない」「ダラダラしている」など日常の中で憂慮する場面に出くわすことも多く、ついつい叱咤激励のつもりで、強制するような言葉を使ってしまうことがあります。

「しっかりしなさい!」「早く!」「ちゃんとして」。このような声掛けは、どなたにでも経験があると思います。しかし、いくら言っても相手に届かないフレーズでもあります。それは、いずれも感覚的な表現だからです。

例えば、「しっかり」というイメージは、なんとなく想像できます。ただそれは「イメージ」に過ぎないので、ぼんやりとわかったような、わからないような感じで伝わるのです。親は、今までの経験値から「しっかり」のイメージが自分の中で出来上がっているかもしれませんが、子どもはそうではありません。

親が子どもに「何を」伝えたいのか

どうしたらよいかよくわからずに、いつも同じことで叱られていると、「できない自分」という刷り込みが起こり、何かをやろうとする原動力や自信を失うことにもつながります。ですから、親の頭の中の「しっかり」を具体的に言葉で、子どもに伝える必要があります。「洋服のボタンを留めて」なのか「忘れ物をしないようにカバンの中をチェックして」なのか、その時に応じて、具体的な行動を促す言葉かけをしましょう。

そして、最も大切なのは、親が子どもに「何を」伝えたいのかを、親自身が明確にすることです。自分の中での意思が明確に把握できていないと、相手にわかるように伝えることは不可能です。しかし、その意思を自覚することが難しくなっています。親も余裕のなさから、ご自身の気持ちに向き合うという時間を逸しているからです。

自分の気持ちは自分にしかわからないものなのに、その自分でさえ、それをつかみにくくなる傾向が昨今とても多いのです。情報過多、ストレスの多い現代人には、自分に向き合うという時間が持てずに、常に外に向かってアンテナを張っている状況です。自分の気持ちに向き合うことは、内側にアンテナを向けることで、ある意味とても面倒なことなので、ついつい目をそらしたくなるものです。

自分のいやな面は見たくないですし、自分の本当の気持ちを優先したら、行動できなくなることもあるので、それを恐れるのです。ただ、それを続けていると「退化」が起こり、自分の気持ちに気づけなくなる、本心を認めづらくなるといったことが起きてしまいます。結果的には、ますます自分の気持ちがわからなくなるというスパイラルにはまり、よろしくありません。ですから、親も自分に向き合う、自分のための「ひとり時間」が必要です。

子育て中は、なかなか難しいとは思いますが、短時間でも意識的に創り出すことが必要です。

何を伝えたいのか意思がはっきりつかめると、曖昧な感覚表現ではなく、的確に物事を伝えられるようになります。具体的に言葉を選ぶことができると、より相手に伝わりやすくなるのです。

伝える内容が明確になれば、あとはタイミングです。危険が伴うようなときは選べませんが、そうでないときは、伝える場面も大切です。

子どもの気持ちも自分の気持ちも大切に

まず、間際は避けましょう。「学校に行く間際」「出かける間際」「何かが始まる直前」など、急いでいるからこそ、威圧的な物言いになる場面ですが、すでに次の行動に対しての意識が向いているので、何かを言ったところで、右から左に流れてしまいます。

また、誰かと比較することも厳禁です。ほかの子がいる前で、「○○ちゃんはできているのに」などと比べるような言い方は避けましょう。


次に、言葉と表情や態度の一致です。伝えたい内容と表情が一致していないと、どちらが本心なのか戸惑います。基本的には、コミュニケーションのやり取りの中で、表情や態度、声色など、非言語が相手に与える影響は、言葉の内容よりも大きいので、そこに乖離があると不安になります。

笑顔で叱られても「たいしたことではないな」とか、表情が乏しく褒められても「これは別の意味があるのかな」といった具合です。

子どもに限らず、あらゆる対人関係でも同じようなことがありますので、ぜひ、心がけていただければと思います。

子どもの気持ちも自分の気持ちも大切に。いかに相手に伝えられるかは、自分の問題でもあります。親子のよりよいやり取りを考える際に、本書を活用していただけたら幸甚です。


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(大野 萌子 : 日本メンタルアップ支援機構 代表理事)