微分を活用し、大きな成果を挙げたガリレオ・ガリレイ(写真:berezko/PIXTA)

微分・積分は「現代社会の礎」と言われるほど重要な数学理論であり、理解すれば「世界の見方がガラリと変わる」とも言われています。本稿は『見るだけでわかる微分・積分』より一部抜粋・編集のうえ、微分の成り立ちをたどることで理解を深めていきます。

ついに微分の登場! 戦争と大砲から生まれた数学

現代社会を支える微分積分ですが、その成り立ちをたどることで、より理解を深めることができます。ここでは、微分の成り立ちについてお話ししたいと思います。

微分の考え方が登場してきたのは、16〜17世紀ごろのこと。実は、微分が発展する原動力になった最初のニーズは「戦争」でした。当時は大砲で敵を攻撃するのが最も効果的な戦いの手段だったのですが、砲弾を正確に敵に当てるために数学の力が必要だったのです。

もともと大砲は、軍人が勘と経験で撃っていましたが、それだと外すことも多くて困っていました。

数学を使って砲弾の届く距離などを正確に計算することができれば、命中率を格段に上げることができます。そのため、砲弾の軌道を正確に知りたいというニーズがあったのです。

この研究テーマで大きな成果を挙げたのが、ガリレオ・ガリレイです。彼は、砲弾の軌道を水平方向と垂直方向の2方向に分けて考えるとよいことに気付きました。

図表2−3に、砲弾の軌道についてのガリレオの考え方をまとめました。


(出所)『見るだけでわかる微分・積分』より

まず、撃ち出された砲弾は、撃ち出された方角にそのまままっすぐ飛んでいこうとします。しかし、重力があるので、砲弾はだんだん下に落ちていきます。

この、「まっすぐ飛ぶ」運動と「下に落ちる」運動という2種類の動きが合成されて、砲弾の軌道が決まると考えたのです。

この研究がきっかけとなって、砲弾の軌道は放物線(=ものを投げたときのアーチ状の軌道)と呼ばれる数式で表されることがわかったのです。

砲弾の軌道がわかれば、砲弾がどれだけ離れた相手に当たるかどうかも計算で出せます。つまり、どれくらい近づけば敵に命中させられるかが正確にわかるということなので、これは戦略的に大変有利になります。

砲弾の“進む方向”を知るには?

砲弾の軌道の研究はさらに進みます。

どれだけ遠くまで届くかが計算できるようになったわけですが、今度はさらに、砲弾がどの方角へと飛ぶかも計算したいというニーズが出てきました。というのも、砲弾が進む向きは時間がたつと変わっていくからです。

図表2−4のように、砲弾の進む方向(図中の矢印)はたえず変わっていきます。砲弾が敵の城や船に命中するとき、どの方向から当たるのかによってダメージも変わってくるでしょう。


(出所)『見るだけでわかる微分・積分』より

ですので、砲弾の進む方向(=砲弾がどの方向から当たるか)がわかれば、より効果的にダメージを与える戦略を考えることができます。となると、砲弾の進む方向についても、数学を使って計算できるようになりたいですね。

すでにヒントはあります。というのも、先ほど話したように、砲弾の軌道は放物線と呼ばれる曲線(図2−4のようなアーチ状の曲線)で表せるとわかっているからです。

すでに砲弾の軌道のことはわかっているので、砲弾の“軌道”と“進む方向”の関係が分かれば、進む方向についても計算できるに違いありません。結論から言ってしまえば、「短い時間を考える」という微分の発想によって、この問題を解決することができます。

砲弾は、時間とともに飛んでいく方向が変わっていくわけですが、例えば0.1秒や0.001秒などの短い時間を考えてみましょう。それだけ短い時間であれば、砲弾が飛ぶ方向はほとんど変わりません。

より正確に言うと、実際は短い時間であっても少しは変わっているのですが、時間が短すぎて、無視できるほどしか方向が変わらないということです。つまり、非常に短い時間であれば、砲弾はまっすぐ飛んでいると考えてもよいのです。

微分積分という緻密な予測をするための数学が、このような「ズボラな」発想に支えられているというのが、微分のおもしろいところです。

まっすぐ飛んでいるとみなせるのであれば、話は簡単です。あとは、具体的にどの方向に飛んでいるのかさえわかればすべて解決します。結論を言ってしまうと、砲弾がどの方向に飛んでいるのかは、図表2−5のようにグラフに一本の線を引くだけでわかります。


(出所)『見るだけでわかる微分・積分』より

この線は、曲線(この場合は放物線)に接している直線で、数学の用語で「接線」といいます(“接している線”という意味)。この接線が、その瞬間に砲弾が飛んでいる方向を表しています。なぜそういえるかは、放物線をズームアップして見てみると分かります。

放物線と接線が接している点のことを接点というのですが、その接点の周辺を虫メガネで倍率100倍にズームアップしたのが図表2−5の右側の図です。

微分の発想

このように、ズームアップして見ると、放物線と接線がほぼ重なり合って、見分けがつかなくなっていますね。つまり、放物線そのものは曲がった線(=曲線)ですが、その一部をズームアップすると、接線(=直線)と区別がつかなくなるのです。

実は、これと似たようなことを私たちも日常で経験しています。私たちが住んでいる地球は、宇宙から見ると丸い形をしています。でも私たちは、水平な大地の上で暮らしていると感じているでしょう。

それは、私たちよりも地球の方がはるかに大きいので、球面上に住んでいることを実感できないからです。だからこそ昔の人類は、世界はお盆のように平らだと思い込んでいました。

それと同じように、全体としては曲線のグラフでも、その一部を虫メガネで拡大して見れば直線に見えるわけです。あるいは、自分がアリよりもずっと小さな小人になって曲線の上に降り立ったと考えてもいいでしょう。

地球に住む私たちが大地を平らだと勘違いしていたように、あなたは曲線のことを直線と思い込むに違いありません。この“ズームアップ”は、先ほどの“短い時間を考える”ことと同じ意味になります。つまりは微分の発想です。

例えば、砲弾が時速100キロで飛んでいるとすると、それは1秒で約28メートル進むことを意味します。28メートルというと、バスケットボールのコートの縦の長さと同じなので、けっこうな距離です。砲弾が28メートルも進んでいる間には、その進行方向もそれなりに変わってしまうでしょう。

では、その100分の1の時間、すなわち0.01秒ではどうでしょうか? 0.01秒で進む距離は約28センチです。これだと、千円札を横に2枚並べたくらいの長さなので、砲弾はほんの少ししか進んでいないことになります。なので、砲弾の飛ぶ方向もほぼ変わらないでしょう。

「グラフの接線を求める計算」だと教わる理由


つまり、砲弾は放物線に沿って動いているのですが、ほんの短い時間を切り取れば、砲弾はほぼ直線的に進んでいると考えてよいのです。より具体的に言うと、接線の方向に進んでいると考えることができます。

つまり、砲弾が敵に当たる瞬間も含め、ある瞬間における砲弾の進行方向を知ることは、軌道の曲線の接線を求めるという数学の問題に置き換えられるのです。

このように、微分とは、“その瞬間の変化を考えること”です。それは、グラフでいえば「接線を求めること」を意味します。こうした背景があるので、高校では「微分とはグラフの接線を求める計算のこと」だと教えているわけです。

(冨島 佑允 : クオンツ、データサイエンティスト)