by NASA's Marshall Space Flight Center

土星の衛星であるエンケラドゥスでは、生命にとって重要な水、有機化合物、水素などが存在することが判明しており、地球外生命体が存在する可能性を持つ星として有望視されています。新しい研究により、エンケラドゥスには生命の生息に適した環境が備わっている可能性があることがわかりました。

Observations of Elemental Composition of Enceladus Consistent with Generalized Models of Theoretical Ecosystems | bioRxiv

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.10.29.564608v1.full

Enceladus has All the Raw Materials for Life - Universe Today

https://www.universetoday.com/164050/enceladus-has-all-the-raw-materials-for-life/

Enceladus: Uncovering the Potential for Life in Saturn's Ocean Moon

https://ts2.space/en/enceladus-uncovering-the-potential-for-life-in-saturns-ocean-moon/

エンケラドゥスに関するこれまでの知見の多くは、1997年に打上げられた土星探査機・カッシーニによってもたらされたものです。カッシーニは2017年に土星の大気圏に突入しミッションを終えましたが、科学者たちはその後もカッシーニが残した膨大なデータの分析に追われています。

アメリカ・サンタフェ研究所のダニエル・ムラトーレ氏らは、2023年10月29日にプレプリントサーバーのbioRxivで発表した研究で、エンケラドゥスに存在する化学物質や元素の比率と、エンケラドゥスに存在する可能性のある生命による物質の代謝をモデル化しました。



by Thomas Thomopoulos

この研究の焦点は、エンケラドゥスの海におけるアンモニアと無機リンの発見です。エンケラドゥスの氷の隙間から吹き出る間欠泉を観測したカッシーニのデータの分析により、氷の下の海には高レベルの無機リン酸が含まれていることが示されました。研究者らはこれについて「このリンの存在に関する報告は、エンケラドゥスの噴出物から地球の生命体の多くの元素成分である炭素、窒素、水素、酸素を同定した以前の研究に続くものです」と説明しています。また、続く研究によりエンケラドゥスの海にはアミノ酸の前駆体、アンモニウム、炭化水素など生物に共通する化学物質が多く見つかりました。

ムラトーレ氏らはさらなる分析で、地球の海で確認されている炭素、窒素、リンの比率であるレッドフィールド比を手がかりに、エンケラドゥスの海に生命が住む可能性を模索しました。

レッドフィールド比は、アメリカの海洋学者であるアルフレッド・レッドフィールドにちなんで命名された言葉です。レッドフィールドは1934年、海洋バイオマス全体における炭素:窒素:リンの比率が一貫して106:16:1であることを発表しました。その後の研究により、この比率は地域や植物プランクトンによってわずかに変化することや、正確な比率は166:22:1であることなどが明らかにされました。

ここで重要なのは、元素のレッドフィールド比には地球上の生物全体に適用できる普遍性があるため、地球外生命体探査においても重要な指標になるという点です。これについてムラトーレ氏らは、「このような普遍性から、レッドフィールド比は特にエウロパやエンケラドゥスのような海洋世界において、宇宙生物学的な生命検出のターゲットとなるシグネチャーと考えられています」と説明しています。



by blueforce4116

ムラトーレ氏らが、レッドフィールド比を用いてメタン生成古細菌がエンケラドゥスで繁殖できるかのモデルを開発し、カッシーニのデータに当てはめて検証しました。その結果、エンケラドゥスの海にはリンが高濃度で存在しており、その全体の比率は地球の生命に似た細胞に限定されている可能性があることがわかりました。

エンケラドゥスの海にアンモニアやリンが存在し、その比率が地球の海のレッドフィールド比と一致しているという今回の研究結果から、研究者らはレッドフィールド比がエンケラドゥスやエウロパなどの天体で生命を探す際のサインとして重要なことや、これらの天体の化学組成を完全に理解するためのさらなる調査の必要性を強調しました。