ブラム・ストーカーが1897年に発表したホラー小説「吸血鬼ドラキュラ」に登場するドラキュラ伯爵のモデルは、15世紀のワラキア公国君主であるヴラド3世であるといわれています。串刺し公(ツェペシュ)としても知られるヴラド3世が、涙に血が混じる病気に苦しめられていたという論文が発表されています。

Count Dracula Resurrected: Proteomic Analysis of Vlad III the Impaler’s Documents by EVA Technology and Mass Spectrometry | Analytical Chemistry

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.3c01461



Testing of Vlad the Impaler's letters show he may have had condition causing his tears to be mixed with blood

https://phys.org/news/2023-08-vlad-impaler-letters-condition-blood.html

ヴラド3世は、ルーマニア南部に存在したワラキア公国の君主として知られています。ヴラド3世が「串刺し公」と呼ばれるようになったのは、反逆者や敵であるオスマン帝国の捕虜を串刺しにして自国の領土にさらすという刑を大量に執行したからだといわれています。一説には、ヴラド3世は8万人ものオスマン帝国民を処刑し、その多くが串刺しにされたといわれています。



ルーマニア国立公文書館とミラノ工科大学の研究チームは、ヴラド3世が自らしたためた3通の手紙からタンパク質やペプチドを分析しました。



手書きである手紙の場合、書いた人はほぼ必ず紙に触ることになります。そのため、書いた人の皮膚から紙にさまざまな化学物質や分子が移ります。研究チームは損傷を与えずに紙から物質を得るため、手紙にエチレン酢酸ビニルを塗布し、紙から物質を取り出しました。そして、質量分析を用いて抽出したタンパク質やペプチドを調査しました。

調査の結果、500種類以上のペプチドを含む物質が発見され、そのうち100種類ほどが人間由来のものであると判明しました。この人間由来のペプチドの中に、炎症反応あるいは繊毛病や網膜疾患と関連するタンパク質に由来するペプチドが発見されたと研究チームは報告しています。

さらに、細菌由来のタンパク質が3つ同定され、そのうちの一つは病原性のグラム陽性菌であるMycoplasma Penetrans由来だと判明しました。このMycoplasma Penetransは性感染症の原因菌として知られています。ほかにも、ペスト菌に関連するペプチドが検出されたほか、ショウジョウバエ由来のペプチドも見つかったそうです。

加えて、3通の手紙のうち、1475年に書かれた手紙2通からは、繊毛病や網膜疾患に関与するタンパク質に関連するペプチドや炎症反応に関連するタンパク質に属するペプチドが検出されただけではなく、網膜と涙に関連するペプチドが検出されたとのこと。研究チームは、検出されたペプチドだけでは完全に判断できないとしながらも、ヴラド3世が晩年に気道の炎症や目の炎症で血涙を流す症状に苦しんでいた可能性が高いと指摘しました。



研究チームは、「今回の研究結果は、重要な手紙を分析することで手紙を書いた人の姿を明らかにできることを示しました」と述べ、「血を混じった涙を流すという症状は、偶然にもドラキュラのイメージが強いヴラド3世のイメージにマッチしています」とコメントしました。