ルール違反の記者からの質問にも答えるジャニーズ側の姿勢が一部共感を呼んだ(撮影:尾形文繁)

疑念や批判に対してほぼゼロ回答だった前回9月7日のジャニーズ事務所の会見。はたして昨日10月2日の会見はどう受け止めればよいのか。会見を時系列に検証し、ジャニーズ事務所の最大の目的であるBCP(事業継続計画)の行く末を検証してみたい。

10月2日の会見の注目点は大きく3つあった。

ジャニーズ事務所の存続(社名はその一部)

藤島ジュリー景子氏の去就

補償

9月の会見終了後、マスコミの多くは上記の問題に対してゼロ回答だったことを批判した。私は、ゼロ回答は時間的な制約などによるものであり、「10月にあらためて経緯報告をする」と述べた東山紀之社長の言葉からも、全く無策であるはずがないという趣旨の内容を、前回会見後の記事で書いた。

そして、予告通り開かれた2回目の会見。定刻の14時に始まり、経営陣が登壇した……ものの、見ていた誰もが、会見席に代表取締役の藤島氏がいないことに気付いた。親族であり代表取締役にとどまった藤島氏が不在ということは、とてつもないマイナスからの会見スタートとなるのは明らかだった。インターネットのリアルタイムのコメントでも、藤島氏がいないことが猛烈な勢いで書き込まれていった。

最強弁護士軍団を従えて

会見は整然と開始された。前回の会見も決して乱れたものではなかったが、今回は明らかに雰囲気の違いを感じた。それが何なのかは最初わからなかったのだが、どうやらそれが「司会」だと気がついた。

今年は特に重大事件の会見が相次ぎ、ビッグモーターや前回9月のジャニーズ事務所の会見は、いずれもPR会社やコンサルティング会社が司会をしていたが、それがあまりプラスに働いた印象はない。コンサルによる進行はあまりメリットがないのではと思っていたところ、今回は男性の司会の落ち着いたトーンで始まった。

登壇したのは前回同様、顧問弁護士の木目田裕氏と東山社長、子会社社長の井ノ原快彦氏。さらにもう一人、今回の改革の一つとなるCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)に就任した山田将之弁護士が、藤島氏不在の中で東山社長と井ノ原氏をはさんで着座する陣形となった。

このあたりは、さすがジャニーズ事務所である。一流弁護士事務所の一流弁護士を並べ、先述の司会も、紅白歌合戦司会まで務めた元ベテランNHKアナウンサーの松本和也氏だということで、最強の布陣による開戦となった。

東山社長による説明が始まったが、藤島氏不在については何も触れない。10分ほど過ぎた辺りで東山氏は、井ノ原氏を指名し、今日ここにいない藤島氏の言葉を代読させたのだった。

危機対応コミュニケーションは真実を伝えるだけの場ではない。燃え上がる批判の炎をいかに抑えられるかが重要である。責任者である藤島氏が不在であることだけでも十二分に記者団への挑戦状となっているが、その言葉を本人以外が代読するという手法も、当然不利以外の何ものでもない。

藤島氏の不在はやはりマイナス

今回の会見にこれだけの最強の布陣を敷くことができる会社が、そんなこともわからないはずがない。緊迫した雰囲気の中で、井ノ原氏の代読により、藤島氏の心情は語られていった。

藤島氏はパニック障害であり、このような極端な緊張感を呼ぶ場に耐えられないというのが、不在の理由だが、当然それで納得する取材陣はいない。当たり前の話ではあるが、手紙のように事前に準備できるものはいかようにもプロが手を加え、万全の情報管理と表現のブラッシュアップが可能となる。つるし上げられて切羽詰まって発する言葉とは雲泥の差となる。

内容的には母・メリー喜多川氏との特殊な母子関係や幼少期からの自分の立ち位置など、これまで語られなかった話もあるものの、「このまま質疑応答に進めば間違いなく火だるまになることは避けられないだろう」とこの時は感じていた。

また、前回会見の際に反発が大きかった「ジャニーズ事務所」の名称継続についても、新社名「SMILE-UP.(スマイルアップ)」と発表されていたが、犯罪の重大さに比して、「スマイル」という言葉を選ぶセンス、さらには解散した「SMAP」との語呂の類似など、これまたツッコミどころが満載であった。

しかし、藤島氏は手紙の中で代表取締役退任という自身の去就について表明した。藤島氏が代表を辞めた場合、事業承継税制の特例措置対象から外れることで、多額の相続税が発生することになるが、それを受け入れると表明したのだった。こうした金銭的負荷を負う、すなわち罰を受ける姿勢を示すことは謝罪において重要である。

このように情報開示がなされる流れの中で、藤島氏不在という最大の問題が少しずつ薄まっていく変化を、会見を見ていて感じた。そうはいっても質疑応答になれば、必ずこの点を攻撃されるのは明らかで、不調を押してでも会見に出席しないという選択は決して望ましいものとはいえない。

救世主現る

この流れを変えたのは、会社側の説明が終わった後の質疑応答だった。

司会の松本アナウンサーによる穏やかな声で、挙手した記者にマイクが渡され質疑応答は進んだ。質問する報道陣は話のプロではないため、見当違いや、自説を延々と述べるなど、適性に疑問を感じるケースは少なくない。

本件は加害したジャニー喜多川氏の犯罪行為であることは間違いないものの、何十年もの間、そうした犯罪行為を見て見ぬ振りをして放置してきたマスコミにも批判の目は向けられている。そのことを取材陣が当日意識していたかどうかは、不明だった。

質疑応答が進む中、質問者以外の声が入り始めた。執拗に質問を求める記者や、質問者の当て方、振り方に文句をいう声が聞こえ始めた。司会者は「1社1人1回でお願いします」としきりにいさめていたが、それを無視して質問や抗議の声が映像を通じても聞こえた。報道で「大荒れ会見」といわれているのはこの部分を指していると思われる。

いわゆる正統派マスコミの代表である新聞社の人間が、ルール違反や意図不明、自己主張を繰り返す姿勢に、一般視聴者からも多くの批判が寄せられた。逆にどちらかといえば普段は日陰扱いの媒体社の質問のほうが、よほどまともだったという感想も見受けられた。

この「大荒れ」ぶりに困惑する司会者、ルール違反の質問に対しても答えるジャニーズ側という図式が、流れを変えたと私は見ている。この騒ぎは藤島氏不在という大きな失点をかき消し、同時にジャニーズ側に同情や共感すら呼んでしまったといえるだろう。ジャニーズ事務所を攻撃的に問い詰めた一部の記者は、皮肉にもジャニーズ事務所を助けた救世主になったのではないだろうか。

会見の成否の判断

大荒れの中、質問した記者の態度をいさめる井ノ原氏の発言には拍手まで起きた。結果として、この日の会見によって、少なからずジャニーズ事務所は事業継続の可能性を、ぎりぎりで保てたといえるのではないか。会見の結果さらに大批判を呼んだビッグモーターの二の舞にはならなかったといえるだろう。


井ノ原快彦氏が質問した記者の態度をいさめる場面もあった(撮影:尾形文繁)

もちろんこの先の成功が約束されているわけではない。これまでのスポンサー各社はコンプライアンスを理由に広告起用から撤退した。単なる声明や改善の意気込みだけでは意味がない。確実な実行の証拠が求められている。それがなければ、スポンサー復帰は考えられない。

10月2日の会見は、ジャニーズ事務所が最後の防衛線は守ったと思うが、まだ前途は多難である。

(増沢 隆太 : 東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家)