スタートアップに挑戦する人は増加していますが、転職前に考えておいた方が良いこともあります(写真:buritora / PIXTA)

スタートアップへの転職は、キャリア選択の一つとしてスタンダードなものになりつつあります。しかし、誰も彼もがスタートアップで成功するとは限りません。

フォースタートアップス代表・志水雄一郎氏は著書『スタートアップで働く』で、スタートアップについて「知らない悪」を乗り越え、「視座・視野・視点」をコントロールすれば人生や未来は変えられる、と説いています。

スタートアップで働く「前」に始められる4つのポイントについて、同書から一部を抜粋してご紹介します。

スタートアップで働く「前」に

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スタートアップで働くうえでも、今後の日本で生きるうえでも、「視座・視野・視点を高めるためのインプット」が大事になる。

では、何をもってそれが可能になるのか、またどういったインプットをするべきなのかを見ていこう。

まず、僕自身の経験から振り返ってみたい。

僕はもともとスタートアップのことをまったく知らずに働いてきた。

あるとき、たまたまSNSで、ある起業家が「今日は経営会議にベンチャーキャピタリストが来ます」という投稿を目にした。僕はすぐに連絡をして、「この人に会いたい」と取り持ってもらい、実際に会って20分ほど話す機会を得ることができた。

そこで「ともに日本の未来をつくりたいけれど、僕自身は何もまだやれていない。ただ、僕には意志があり、挑戦すれば可能性があるかもしれない。

だから、1カ月に2回ずつ、1年間は食事をおごり合いませんか」と持ちかけてみたら、相手が快諾してくれた。

その相手は、たまたま日本最高のベンチャーキャピタリストとして名高い一人だった。実際に1年間、食事をともにして「最近見聞きし合ったこと」について話し合うことになった。

日本について、世界のトレンドについて、現状のスタートアップの問題について……。時に業界内のゴシップなどの他愛ない話も交えながら、1時間の食事と、その後にお茶をしながらまた1時間。

豪勢な食事でもなく、それこそ800円のラーメンの後に、ドトールコーヒーショップで250円のコーヒーを飲んでいた。1年間でお互いのこともわかり、また自分が知らなかった多くのインプットを得ることができた。

結果的に僕は日本でもトップの実践を持つヘッドハンターになれたのだ。

インプット源をたくさん持つ

この1年間の取り組みは、僕にとって大きな意義があった。

会って話すことが決まっている以上、自分から話のネタを持っていかないと関係がいつ途切れてもおかしくない。相手からすれば、人としての魅力も話の内容もつまらない人になれば、この定例会はいつなくなってしまってもよいものになる。

インプットとアウトプットを常に繰り返せたのも大きかった。

僕という存在は身一つで、持っている時間は24時間365日。相手もまったく同様だ。

僕が常に相手にお願いしていたのは、「一緒に取り組むことがお互いにとって一番にメリットのあることだからやりませんか」ということだ。そして、お互いでちゃんと「やり切った」と思えれば次に進んでいく。

水は上から下にしか流れない。だから、自分にとって一番大事で、一番影響力のあることから始めることが大切だと思っている。枝葉ではなく幹になることに取り組むのだ。

僕にとっては今の仕事は、いわば「役得」であり、インプットの場になっている。

直近も、僕は子会社のベンチャーキャピタルの投資委員会で、経営者たちと現状の課題や支援策について話し合っていた。

そういう機会があると、経営者は何に関心を寄せていて、どうやって進化していくのかといった話が日常的になる。こういったことは教科書に載っているものでもない。

さらに代表的なスタートアップカンファレンスに参加し、起業家や投資家の考えにも触れる。

日本の代表的な経済団体にも属していて、体系的に社会や企業のトレンドと未来が向かう先を知ることができる。そして、それを構成しているメンバー、構成しているスタートアップ群がつくる未来と、現状で直面している課題も理解していく。

そのように情報のインプット源をたくさん持っていることが、今の自分につながっている。過去の歴史やディシジョンを学ぶこともやるが、「今、社会で何が起きているのか」を取得するための情報源を持つスタイルだ。

内発的動機の重要性

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人はいつでも変わることができる。

それは実際に僕自身も変えられたし、変わったと思っていることが大きい。変わるためには機会や環境の問題もあるが、最初は「ペインを乗り越えようとすること」がきっかけの一つになると、僕は思う。

ペインとは、強い課題感のことだ。

またも僕自身の経験だが、20代の頃に「借金を返さなければいけない」という現実に直面したこともあれば、自分が「知らない悪」にすっかり毒されていたこともそうだ。

「自分が負けている理由はインプットが足りていないからだ」とか、「現状がわかったのに課題解決にも努めない自分は駄目だ」とか、いろいろなことを考えた結果として、「自分がやらなければならない」と心に炎が燃えたのだった。

こうして自分がやるべきことだと決めて、内発的な動機ができると、人は何をしてでもやろうとする。

それに、他者から言われたことだけをこなせる人もいるが、僕からするとそれだとパフォーマンスが十分に発揮できず、その生き方はとてももったいないとも感じる。

やはりみずからが意志を持って動くことで、人は変わっていける。

投資家が起業家を見極める目の一つに「なぜ、その人が、それをやる必要性があるのか」という観点がある。その理由がつながるからこそ出資ができるのだ。

起業すれば心が折れることなんて毎日あるものだ。それほど大きくない課題から大きなハードシングスまで、規模を問わず日々起きている。僕だって心が締めつけられて、逃げたくもなる。それに、逃げたいと思うのは誰であっても持つ感情だろう。

しかし、それでも「やる」と決めたからこそ、その仕事から降りないし、自分の心を強くしてでも折れずに進むことを選ぶことができる。僕自身にリーダーの経験はそれほどないが、起業してフォースタートアップスを経営してきて、初めてそういったものが養われてきた気がする。

だからこそ、みずから決めた強い動機の重要性が、身にしみてわかる。

自分自身を見つめ「旗」を立てる

自分を知る

キャリアの選択とは、自分の「際(きわ)」を知ることでもある。

誰にも最大の可能性とチャンスがある。けれど、転職をはじめとしたキャリアへの評価は他者がする機会が多いものだ。

評価を受ける機会を持つことで、今の自分の立ち位置や、社会との境界線といったものが見えてくる。

実際に転職面接を受けてみてもいいし、転職エージェントをはじめとする人たちへ相談してみるのもいいだろう。

そのように自分の市場価値を知ろうとする際に、転職エージェントを使おうとするのであれば、エージェントのランキングが上位の人に聞くといい。上位には上位の、下位には下位の理由があるものだ。

また転職オファーをもらったからといって、必ずしも転職をしなければならないわけではない。現職でのストーリーと、新天地でのストーリーを天秤にかけて、どちらが良いかを図ってみる。

これまでにいただいた縁や恩を重視して、やはり今の場所でともに戦ってより良い未来をつくったほうが良いのか。はたまた外のほうが自分の人生に責任を持って、もっと前向きなストーリーがつくれるのか。

そうやっていろいろな判断をしていく中で、初めて自分がわかることもある。

もし「転職をせずに、現職を続けていく」と決めたときにどうすべきか。僕はこの過程こそが大事だと思う。そう決めたのであれば、現職で最大値に脇目も振らずに頑張ることである。

ごを立てる

僕はインテリジェンス創業者である起業家の宇野康秀さんの影響をずっと受けている。

インテリジェンスという会社と出会ったとき、宇野さんは、「僕らは人的インフラを構築し、日本の成長に寄与するんだ」といったメッセージを出していた。まだ彼が30歳のときのことだ。

会社説明会で一生懸命に語る姿を見て、僕はファーストキャリアを宇野さんと歩む選択をしようと決めた。

僕は、日本の再成長を実現するために、スタートアップ支援という巨大な産業が必要であり、そのイニシアチブをフォースタートアップスとして獲ろうと言っているわけだから、僕と宇野さんとはとても近い発想だと思っている。

ただ、このように思えるようになったのも、40歳を過ぎて日本の「知らない悪」と対峙してからのことだ。

僕がインテリジェンスで転職サイトDODA(現doda)を立ち上げたのは、リクルートに対抗するためであった。

当時のリクルートには転職サイトの「リクナビネクスト」と人材紹介の「リクルートエージェント」という2つの事業が存在していたが、リクルートではこの2つの事業が連携していなかった。

DODAは、転職サイトと人材紹介が連携した中間商材として、勝ちを狙ったモデルだった。

そのときの僕は宇野さんのように、また今の僕のように、インフラや日本の再成長といった話はしていなかった。

しかし、40 歳を過ぎてから、日本の社会や構造とその課題を知ったときに、人的インフラがとても大切で、チャンスと可能性しかないのに、あまりに目が向けられていないと感じた。

「知らない悪」に染まって、課題解決に向かえていない自分の人生を恥じたところから、フォースタートアップスは始まっている。

エバンジェリストになろう

世界を見渡せば、起業家が人類にイノベーションを起こし、未来のアップデートも行えるという素晴らしさを見て、「同じ人間が手掛けているのならば、日本人にだって実現できるはずだ」と僕は思った。


ただ、日本にはそのための情報を持ち、「視座・視野・視点」を変化させられる人がいないから、僕自身がエバンジェリストになろうと決めた。

そして、「あなたは僕よりもすごいのだから、頑張ったら絶対に成功できる。頑張れよ!」と起業を後押ししたり、スタートアップのCxO(Chief x Officer)にアサインメントしたりを続けてきたのが、フォースタートアップスの基礎になっている。

(志水 雄一郎 : フォースタートアップス 代表取締役社長)