発達障害」とは「脳とのつき合い方が少し不器用なだけ」と医師が話す理由とは(写真:maroke/PIXTA)

昭和や平成の時代よりも、知られるようになってきた「発達障害」。しかし、まだまだよくわかっていなかったり、誤解されている部分も多いといいます。

脳内科医・小児科医として子どもたちの脳を見てきた加藤俊徳さんは、「発達凸凹の子たちは脳とのつき合い方が少し不器用なだけ」と語ります。この記事では、加藤さんの著書『1万人の脳画像を見てきた脳内科医が教える 発達凸凹子どもの見ている世界』をベースに、発達障害の新常識についてお伝えします。

脳の強みから見る発達障害

――近年子どもの発達障害が話題になることが多いですが、加藤先生のお考えでは、「発達障害」とはどういうものでしょうか?

加藤俊徳(以下、加藤):私は、世の中に広がっている発達障害という言葉自体、実態に即していないように感じています。

私は日本で発達障害が話題になるずいぶん前から、実際には30年以上前から、発達凸凹のある子どもたちを診察してきました。特別なことは、言葉の未熟な子どもたちを外見の症状からだけでなく、最新のMRI技術を使って脳の発達を見ながら診察することです。一般的に、発達障害は外から見た症状で判定されます。その症状をどう見るかで、人によって診断が違ったり、脳の働きが外に出ていないなら容易に見逃してしまうこともあるでしょう。しかし、脳画像を撮って脳を見れば、その症状を科学的な事実に基づいて裏付けをすることが可能となり、強力な医療技術になることは一目瞭然です。

まわりが「なぜ、あんなことをするんだろう?」と不思議に思ってしまうような言動も、脳から見れば理にかなっているんです。人は脳の持てる力で、その能力を活かして、最大限のことをしているだけです。

――その子の弱みが出ているというよりも、脳から見れば「強み」が出ているということでしょうか?

加藤:本人は脳の強みを最適に使っているのに、周囲がすべて弱みと捉えてしまうことが、どんどん生きづらさを生み出す原因です。

たとえば、みんなが話し合いをしているときに、一人でしゃべり続けてしまい、場の雰囲気を台無しにしてしまう子がいるとしましょう。この子は、みんなを困らせるためにやっているのでしょうか?

そうではありません。この子は、しゃべることができるからやっているのです。黙ってみんなの話に耳を傾けることはできなくても、しゃべることができるという強みを活かしているのです。これも脳画像を見るとわかります。

私は脳の中で、それぞれ役割分担されて集まっている神経集団の場所を分類し「脳番地」と名づけています。今の例の場合、伝達系脳番地が発達している一方で、聴覚系脳番地が未発達であることがわかるんです。

このように脳番地の強みと弱みがあることで、お友達の話を聞くよりも一方的に話すことが起るのです。これをしゃべりすぎる子としてしまい、伝達系脳番地の強みを見逃して、「黙ってもっと人の話を聞きなさい」と繰り返し言われ続けられたらどうでしょうか。本人にできることを無視して、苦手なことができないかぎり、「もうしゃべるな」と言われ続けたら、話さなくなり、話せなくなり、強みが弱みに代わっていきます。

このように、「脳の強み」の視点から子どもの脳の世界がわかれば、彼ら彼女らの言動がまったく違って見えるのではないでしょうか。

凸凹があるから困っているわけではない

――本書には、発達凸凹子どもの「脳個性」として41の妖精(ブレインチルドレン)が出てきます。たとえば自分のことばかり機関銃のように話す子の脳を動かしている妖精「フレンドリー」は、人見知りしないで誰とでも話せる強みがあるのですよね。困りごとにばかり目が行きがちですが、同時にこんな強みがあるのかと発見できます。

加藤:強みに目を向けることが大事です。強みによって、将来の展望が開けます。発展的に伸ばしていくことができるからです。弱みのほうはそうではありません。弱みを消せば将来の安全性やリスク回避にはつながるかしれませんが、将来の展望や未来の可能性、夢には結びつきませんよね。

お子さんの発達凸凹を心配している方には、この本を参考にしながら、ぜひ強みに注目してもらいたいです。

――強みに注目するというのは、すべての人にとって大切なことですね。

加藤:そもそも、人間は誰でも発達に凸凹があります。脳発達の仕組みで言えば、経験したことが凸になり、していないことが凹になっているだけです。当たり前の話ですよね。その結果を発達の凸凹として認識しているのです。

「凸凹があるから困っている」と考える人もいますが、それは違います。凸凹のある子が、困る場面に遭遇したから、頭がはたらかなくなっているのです。本人はそれを「困った」とは思っていないことが多いですけどね。自分の言動で周りの人が困っているとしても、それが子どもはなかなかわかりません。

周囲から見て問題行動があるならば、どういうときに問題行動を引き起こし、どういうときには起こさないのかをよく観察し、対処することです。

――脳の発達が未熟である凹の部分は、トレーニングなどで発達を促すことができるのでしょうか?

加藤:未熟な脳番地に焦点を当てたトレーニングで、きちんと成長していきます。強みのある脳番地を強化し、効率的な発達を促すことも可能です。脳の成長の仕組み3原則は、「1、脳は一生成長していく」「2、脳は脳番地ごとに成長する」「3、脳番地には強みと弱みがある」です。

家庭では、環境を適切に整えることで成長を促すことができます。

女子では発達障害の診断が9年も遅れる理由

――一般的には、症状から発達障害の診断をするというお話がありました。子どもの場合は、周囲の大人が問題行動等の症状から発見することになると思いますが、診断を間違うこともあるのでしょうか?

加藤:診断を間違えたり、発見が遅れたりすることは多いと思います。

とくに幼児期は、ADHD(注意欠陥多動性障害)であっても、あるいはADHDにASD(自閉スペクトラム症)が併存したADHDコンプレックスであっても「ASD」とだけ診断されている場合が少なくありません。

ADHDの中でも、多動性・衝動性は目立ちやすい症状ですが、それがない場合もあります。注意欠陥障害(ADD)と呼んでいます。これは多動性・衝動性と比べて表に出ないことが多く、見つけにくいのです。

また、ASDのわかりやすい症状の一つに言葉の遅れがあります。発語が少なく、言葉の発達が遅いように見える場合、ASDと診断されがちです。しかし、実際に診察してみると、言葉の理解は発達していて強みになっている子もいます。

加藤:子どもが何も話さない、何もしない場合には、他の症状を起こす可能性があっても表に出ていないことが多いので、脳を見ない限りは気づけません。それで家族だけでなく医師の見積もりの精度がかなり低くなってしまうのです。

デンマークの研究者ダルスガードらによるADHDの研究によると、男児は8歳、女児は17歳が発症のピークで、男児は女児よりも1.7倍多く発症しています。

このデータをそのまま受け取ると、男の子より女の子のADHDは発症が遅いように感じますがそうではありません。男の子のほうが多動性・衝動性が目立つことが多く、周囲にも迷惑がられるため、本人が困っていなくても早く診断されている一方で、女の子のADHDは、本人が不注意で困っていても発見されにくいと考えられます。とくにADDでは強みも弱みもともに目立たず、周囲に迷惑をかけることが少ない傾向があるので、見逃されてしまうのです。

正しい診断をすることは強みを伸ばすことにつながる

――早めに発見できれば、脳の強みと弱みに合わせた対処ができるはずですよね。

加藤:そのとおりです。発見が遅れれば、その間適切な対処ができず困りごとが増えてしまいます。実際、学生の間は症状が目立たなかったけれど、社会人になったらいろいろなことに対応できず、うつを発症してしまうケースもあります。確かに診断は難しいのですが、きちんと診断せずに「大丈夫です」と言ったところで、大丈夫ではないんです。


発達障害は、ADHD、ASDだけでなく、発達性協調運動障害(DCD)といって手足の動きと目の動きがスムーズに連動しない症状による障害など併存疾患として報告されており、さらに、抑うつ障害や不安障害、強迫性障害、睡眠障害、肥満などと密接に関係していることが明らかになっています。

これらの発達障害に関わる疾患は相互に密接に関係しており、併存する頻度が高いのです。

たとえば、睡眠障害は日中の脳の覚醒状態を低下させ、ADHD様の症状を引き起こします。

逆に言うと、睡眠をしっかりとり、環境を整えると困りごとの因子は減らすことができます。困りごと因子が減って、強みを伸ばしていくことができます。

そういったことを含めて正しい診断をし、対処していくことが大切です。

(取材・構成 小川晶子)

(加藤 俊徳 : 医学博士/「脳の学校」代表)