奈良博「正倉院展」10月28日から 「国家珍宝帳」筆頭の名宝も公開 観覧券は5日販売開始で先着順

古都・奈良の秋を彩る恒例の「正倉院展」が奈良国立博物館(奈良市)で10月28日(土)から11月13日(月)まで開かれる。正倉院に伝わる59件の宝物が出品され、うち6件が初公開。今年は入場時間が例年より1時間前倒しされ、午前8時からとなる。観覧券は事前予約の日時指定制、先着順で、10月5日(木)から販売を開始する。

正倉院は、東大寺の重要な資材を保管するため、奈良時代に作られた倉。調度品や楽器、服飾品、仏具、文書など約9000件の宝物が1300年もの間、倉の中で良好な保存状態で守り抜かれ、継承されてきた。毎秋恒例の同展では、そのうち約60件を一般公開している。


今年の注目は、刺し子縫いの袈裟「九条刺納樹皮色袈裟(くじょうしのうじゅひしょくのけさ)」。756年、聖武天皇遺愛の品を東大寺の大仏に納めた際のリスト「国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)」の筆頭に記載されている重要な品で、同館の三本周作主任研究員は「聖武天皇は、初めて出家した天皇。袈裟は、聖武天皇の仏教へのあつい信仰心の象徴といえるもので、正倉院宝物の中でも屈指の名宝」と評する。

「宝物」のイメージそのままの華やかな品々も多数出展される。代表格は、螺鈿飾りの四弦琵琶「楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)」。槽(背面)にきらびやかな螺鈿(貝殻片をはめ込み、文様を作る装飾技法)が施され、弦が張られた面の撥受け(ばちうけ)部分には、中国・盛唐期の画風に基づく山水画を描出。シルクロードを通じてもたらされた、奈良時代の異国趣味が伝わってくる。



「平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)」(螺鈿飾りの鏡)は、正倉院に9面伝わる螺鈿飾りの鏡の中でも大型で、高度な技術と優れたデザイン性を兼ね備えた名品。ヤコウガイと琥珀(こはく)で花模様を表し、地の部分には細かいトルコ石をちりばめた、ぜいたくな鏡で、中国・唐製と推定されている。

一見、本物のカメと見まがう、ふた付きの容器「青斑石鼈合子(せいはんせきのべつごうす)」は、はっきりとした用途は分かっていないが、道教思想に基づく仙薬(せんやく)を入れていたという説も。蛇紋岩(じゃもんがん)でふたとなるスッポンの形を彫り出し、腹の部分に八稜形(はちりょうがた)の皿が収まる構造で、甲羅には反転した北斗七星が金と銀で描かれている。リアルな動物彫刻としても楽しめる逸品だ。

宮内庁正倉院事務所(奈良市)では、長い歴史の中で、残片となったものの研究も進めており、今展では、バラバラになった厨子や文書などの復元についても紹介。
三本研究員は「天皇ゆかりの宝物から、東大寺で使われていた仏教関係の工芸品、平城宮の宮廷文化を感じ取ることができる楽器や踊りの衣装、調度品、アクセサリーまで、奈良の都の最先端の文化を一望できるようなラインアップ。貴重な宝物を多くの人に見てもらいたい」と話している。