食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。CASE4 ヤマモトタロヲ 飲食店 オーナー

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おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

ヤマモトタロヲ 飲食店 オーナー

1973年、愛知県生まれ。料理人。飲食店、雑貨店計8軒を経営する〈puhura〉代表。多摩美術大学で建築学を学び、料理の道へ。多店舗展開する企業で、メニュー開発やマネジメントなどを数多く経験し、2011年独立。

本連載「HOME SWEET HOME」の記事一覧はこちら。

団欒が主役。風が抜ける高台に構えた住まい。

カフェかヴィンテージショップか。一見“キメキメ”の自宅は、家族と仕事仲間との団欒の場。コレクション満載だが、ブランド一辺倒にならない、古いものを残して、生かす空間作り。

広いウォークインクローゼットを備えた玄関からして贅沢。シューシャインの道具一式が整然と並び、リビングへ続く廊下にはいくつもの帽子が美しくディスプレーされている。アポイント制の、ヴィンテージショップのエントランスみたいだ。

「そのクローゼットは女中部屋だったようなんです」と、部屋の名が記された配電盤を指して見せてくれた。古くて無骨な配電盤は、部屋のインテリアに似つかわしくないように思えるが、「わざと残してもらったんです」と、話す。1961年にできた建物の、犁憶瓩鯏舛┐訛膸なパーツだと考えたからだ。

1.憧れだったカイ・クリスチャンセンのユニット式ウォールシェルフを導入。にぎやかな中に秩序を感じるディスプレー。2.ダイニングには、フランスのファーマーズテーブルを3.自慢のウッドパネルに、アートや家族の写真をずらり。ハンス・J・ウェグナーのラウンジチェアなどリビングの家具は北欧ヴィンテージが中心。

立地も造りも魅力の「気のいい」部屋。東京都渋谷区のヴィンテージマンションの一室を、ヤマモトタロヲさん自らの設計でリノベーションした。ビストロ、ベトナム料理店、洋菓子店などのべ9軒の店も自分で設計してきた。空間作りは仕事の一部。今すぐ店が始められそうな家の雰囲気も当然というわけだ。夜は店を見て回るのもまた仕事のうち。結果、洋食がちになるので、朝は和定食にしている。

収納として使っている玄関脇の土間と、3畳のクローゼットが付いた、50屬1LDK。築年数は62年。30畳のリビングダイニングキッチンは間仕切りがなく、二面採光と開放感は抜群だ。

初めは同フロアの別の部屋を借りて住んでいたが、今の角部屋が売りに出た瞬間、購入に名乗りをあげた。高台にあり、低層階でも見晴らしがよく、風が抜ける。いわく「気のいい部屋」。

内装は、アイコンともいえる壁一面のウッドパネルに合わせ、天井と床を木に張り替えた。ただし、シーリングライトはそのまま。配電盤しかり、残せるものは残し、生かす。それが古い建物の味、時代感を備えた犖沈瓩世らだ。家具も、木のものが中心。フランスのファーマーズテーブルと、日本のガラス戸付きの棚が違和感なく並び、システムキッチンを補修したラワン材のラフさとグラデーションを成す。壁にもウォールシェルフをしつらえ、アートピースや器のコレクションを飾っている。ぱっと見、道楽者の独身貴族の部屋のよう。が、実際は妻と、4歳と2歳の娘と、ミニチュアシュナウザーの家族で暮らしている。

体調に合わせ皿数を増減する朝の和食。

「調子のいいとき」の豪華な献立。焼き魚と焼き野菜がメインで、納豆、野菜の和え物(写真はきゅうり)、酢キャベツ、酢玉ねぎと彩り豊か。ここに土鍋で炊く白米のご飯と味噌汁が加わる。時間がないときはメインを割愛、飲み過ぎた日の翌朝は、酢キャベツと酢玉ねぎ、玄米甘酒の三点セットだけで済ます。

料理から空間、町へ、その核となる店と家。妻の郁美さんは、系列店で唯一の雑貨店を仕切るビジネスパートナーで、インテリアのプロでもある。もの選びの好みはほぼ一致するが、稀に些細なことで摩擦が生まれるのだとか。

「例えば植木鉢や花瓶の置き場所。朝起きると、少しだけ違う位置に動かしてあり、僕がそれを戻して出かける。帰ると、また元の位置に、という繰り返し。長く連れ沿うにつれ、そんなことも少なくなって、それはそれで寂しいのですが」と、笑う。

大学は美大で建築を学んだ。公務員だった父は堅実を絵に描いたような人で、就職を考えて美大進学には反対したが「建築ならば」と許しを得た。料理人として飲食業界に入り、やがて皿の上の味作りから、味わう空間作りへと興味が広がっていったのも自然なことだったのだろう。今は、町作り。8軒の店のうち7軒は、代々木公園界隈にある。年季の入った元蕎麦屋だったり、急な階段でしか上がれない古いビルの2階だったり、カフェや菓子店などをやる上で、決して優良物件ではないが、「残せるものは残し、味として生かす」店に、愛着を抱くファンは多い。今や影の狡内会の重鎮疆な存在。「やり手」と囁かれるが、健全な経営を続けながら、利益の追求だけに終始しない仕事をしてきたことは、店を覗けばわかる。単身者とファミリーが入り交じる町で、幅広い層が集う居場所を作り、契約満了以外で閉めた店は一軒もない。創業時からのスタッフ同士で家族になった者もいる。

店と温度差のない、行き届いて居心地のよいボスの家は、時にスタッフたちも集い、食卓を囲む場にもなっている。

ESSENTIAL OF TARO YAMAMOTO

コーナーごとに、違う表情があるインテリア。

( DRESSING )広い廊下を「支度部屋」に。玄関とリビングをつなぐ廊下の幅は、170僉どっしりとしたベンチシートを置いて、なお広々としている。身だしなみの最終チェックはここで。

( AUDIO )店とお揃いのオーディオシステム。〈ラックスマン〉のアンプと〈ハーベス〉のスピーカーの組み合わせ。系列店の中でオーディオにこだわった洋菓子店〈ホルン〉の喫茶スペースと同じだ。

( PLANT )大小のグリーンを、部屋全体に。時に、自宅から店へ“引っ越し”させるなど、いくら整理しても増え続ける観葉植物。バランスよく配し、日当たりと風通しがよい空間をより有機的に。

photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

No. 1225

No.1225 『美味しいパンには、理由がある』 2023年09月28日 発売号

リニューアル二冊目は、まるごと一冊、パンの特集です。 朝、昼、夜に、おやつの時間と、美味しいパンは私たちの必需品。 探究心と遊び心を持つパン職人のおかげで、日本のパン文化は今日も進化しています。 生産背景がわかる国産小麦にこだわり、地方では薪窯でパンを焼く人が増え、 室町時代から続く麹屋の麹を採用した発酵パンも作られています。 活躍シーンも広がり、ワインに、ビールにぴったりなパンも登場。 お取り寄せできるお店も増え、食べ方も、買い方も、多種多様になりました。 北海道から沖縄まで、評判のパン屋を巡り、美味しいパンが生 …

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