対中輸出に依存してきた韓国経済(写真:Graphs/PIXTA)

朝鮮半島に位置する韓国は歴史的に見て、大陸国家である中国・ロシアと海洋国家である日本・アメリカの緩衝地帯として存在してきました。冷戦以降は急成長した中国に接近し、長らく経済を対中輸出に依存してきた韓国ですが、今は大きな転換点を迎えているとフリーライターの沢辺有司氏は語ります。韓国の方針転換に伴い、日韓関係は今後どのように変化していくのでしょうか。

※本稿は『いちばんやさしい地経学の本』から一部抜粋・再構成したものです。

朝鮮半島はユーラシア大陸の東のバッファゾーン

朝鮮半島の2つの国、韓国と北朝鮮の地経学を見てみましょう。まずは韓国です。

地政学的に見ると、中国大陸から海洋につきでた朝鮮半島は、各国のパワーがせめぎあうバッファゾーンになります。具体的には、ランド・パワーの中国・ロシアと、シー・パワーの日本・アメリカが牽制しあう場所になります。

ロシアを中心にユーラシア大陸を俯瞰してみると、西のバッファゾーンがウクライナとすれば、東のバッファゾーンが朝鮮半島ということになります。

さて、朝鮮は中国と国境を接しているので、歴史的にはつねに歴代の中華帝国の脅威にさらされてきました。中国の侵攻に対してときに激しく抵抗しますが、それが無駄とわかると、忠誠心を示して属国としての立場を受け入れます。その意味では、よくも悪くも、朝鮮にとって最も関係の深い国は、ランド・パワーの中国です。

1950年にはじまった朝鮮戦争は、1953年の休戦により、北緯38度線を国境として南北の分断が固定化されました。これにより南の韓国は、北朝鮮をはさんで中国大陸から切り離され、実質的に「島国」となり、日米のシー・パワー陣営に入ります。日本からは経済支援をうけ、アメリカからは安全保障の協力を得ます。

韓国には、サムスンや現代といった企業がありますが、こうした世界的企業が育ったのは、朴正煕(パク・チョンヒ)政権(1963〜1979年)の時代です。朴政権は軍事独裁を敷きながら、外貨を導入し、自由競争をうながし、「漢江の奇跡」とよばれる経済発展をもたらすことに成功しました。

ちなみに、中国の臂平はこの朴政権の手法をヒントに改革開放路線をとります。一方、北朝鮮の金日成はこれを採用せず、経済は停滞しつづけました。

日米のシー・パワー陣営の一角として経済発展を遂げた韓国は、冷戦後に台頭した中国に接近し、日米との関係は悪化しました。

対中輸出依存がチョーク・ポイント

韓国経済は輸出によって成り立っています。輸出依存度の高さが韓国経済の特徴です。

韓国の輸出依存度(GDPに占める輸出額、2021年)は、35.6%です。主要国ではドイツの38.6%に匹敵する高さです。ちなみに、中国は19.0%、日本は15.0%、アメリカは7.6%です。輸出依存度が高いということは、輸出の好不調が経済に与える影響が大きいということです。しかも、韓国の輸出依存は、そのまま対中輸出依存となっています。韓国の輸出全体に占める対中輸出の割合は25.3%で、これに香港を加えると31.1%に達します(2021年)。

韓国国内では「安米経中」という言葉があります。これは「安全保障は米国、経済は中国」という意味です。韓国経済は中国に依存しているのです。もしも韓中関係に問題が生じれば、韓国経済は大きな打撃をうけます。つまり、韓国にとっての地経学的なチョーク・ポイントは、対中輸出依存ということになります。

実際、このチョーク・ポイントが狙われています。

2016年、在韓米軍が地上配備型ミサイル防衛システムTHAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)の配備を計画しました。

すると、中国はこれに猛反発しました。THAADは北朝鮮の弾道ミサイルを想定したものでしたが、そのレーダー探知能力があまりに広いため、中国の防衛態勢まで監視されることを恐れたのです。しかし、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権は配備に踏み切りました。

すると中国国内では、THAAD配備のため土地を提供したロッテをはじめ、韓国企業に対する不買運動が広がりました。韓国への中国人観光客は激減しました。中国政府は韓国との取引を制限する「限韓令」を敷いて、事実上の経済制裁を行い、韓国産業は大きな打撃をうけました。

そもそも韓国の対中輸出は伸び悩んでいる

韓国にとって対中輸出依存からの脱却は、重要な課題として認識されるようになります。そもそも、韓国の輸出品は以前ほど中国で売れなくなっています。対中輸出額は2000年から2013年まで伸びつづけていましたが、それ以降は伸び悩んでいます。


出所:Korea Statistical Information Service

原因は、中国製品の品質の向上です。韓国製品の優位性がほとんどなくなっているのです。韓国製のスマホや自動車は中国市場から締め出されようとしています。第3国の市場では中国が韓国のライバルになっています。それでも中国は韓国の半導体を必要としていて、輸入量を増やしています。ただ、この半導体製造においても中国は韓国のライバルになろうとしています。

つまり、韓国にとっては中国をいつまでも市場として期待できない段階にきています。

対中輸出依存から脱却を図るとき、そのお手本となるのが、オーストラリアでしょう。

オーストラリアは一時、対中輸出依存度が40%近くに達していました。しかし、2020年から中国の経済報復をうけ、石炭などを輸出できなくなったことから、日本やインド・韓国など他国への輸出を増やすことで危機を回避しました。中国による対オーストラリア経済報復は失敗に終わったといわれています。韓国もこうした輸出先の多角化が求められています。

実際、韓国は2022年の対中輸出が4.4%減少したかわりに、中国以外への輸出が9.6%増加しています。韓国は、中国以外への輸出拡大へ軸足を移しています。

こうした動きと連動するように、韓国国内では対中感情が悪化しています。例えば、中国人による韓国の土地や住戸の爆買いが一因となって不動産や住宅価格が高騰していることや、前述のTHAAD配備に対する中国の経済報復、新型コロナウイルスが武漢から発生したことへの反感が高まっています。

そして現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、日米のシー・パワー陣営へ回帰しようとしています。韓国はいま、長らくつづいた「対中依存」から「脱中国」に舵を切ろうとしています。

日韓の地経学的攻防は終息へ

日韓の関係は、韓国が「歴史」カードを切ることで悪化し、これに対し日本は「経済」という地経学的なカードで対抗します。

韓国が持ち出す歴史カードには、徴用工問題(日韓併合時代に徴用工として日本で強制的に働かされたと主張する韓国人が日本企業に損害賠償を求めた訴訟問題)や慰安婦問題(戦時中、日本軍が慰安婦を強制連行したとする問題)があります。

しかし、徴用工問題は1965年の日韓請求権協定によってすでに解決されていて、慰安婦問題も2015年の日韓慰安婦問題合意で解決済みとされています。

韓国では独立以来、反日教育がされています。冷戦中は日本の支援を必要としていたので日韓友好を守り、歴史カードを切ることはありませんでしたが、冷戦後の親中派政権は反日政策として歴史カードを切ることが増えました。

日本は「輸出規制」で韓国に対抗する

こうした韓国の攻撃に対し、日本は「経済」のカードを切ります。


文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2018年10月、韓国の大法院(最高裁判所)は、元徴用工問題をめぐり日本企業に対する賠償命令の判決を下しました。すると日本政府は2019年7月、半導体素材のフッ化水素とフッ化ポリイミド、EUVレジストの韓国への輸出を規制しました。

韓国には、半導体分野で世界1位のサムスンと3位のSKハイニックスがありますが、その部品や素材の多くは日本に依存しています。日本政府は韓国のチョーク・ポイントを研究したうえで、半導体の3素材を狙い撃ちにしました。

さらに同年8月には、輸出手続きを簡素化できる、いわゆる「ホワイト国」(グループA)から韓国を除外しました。韓国はこれに反発し、日本を「ホワイト国」から外し、さらに、日本の輸出規制について世界貿易機関(WTO)に提訴しました。

こうして日韓は地経学的な攻防を繰り広げましたが、尹錫悦政権のもとで両国は歩みよりをはじめています。韓国はWTOへの提訴を取り下げ、日本をホワイト国に復帰させました。これに対し日本政府は、3素材の輸出規制を廃止し、韓国をホワイト国(グループA)に復帰させました。

チョーク・ポイントを狙った日本の地経学的戦略は、一定の効果を発揮したといえます。今後の日韓関係にも生かされる戦略と考えられます。

(沢辺 有司 : フリーライター)