ラッシュ時は多くの人で混雑するJR新宿駅の改札口=2020年(撮影:梅谷秀司)

春と秋は定期券を買い替える人が多い時期だ。鉄道各社の運賃値上げの動向も見ながらこのまま更新するか、区間を変えるか、あるいは物価高の中、負担感が高い6カ月定期をやめて期間を短縮しようか……などと考えている方もいるのではないだろうか。

2023年3月にJR東日本がオフピーク定期券の販売を始めてから9月で半年が経過した。同社の深澤祐二社長へのインタビュー記事(2023年9月11日付「JR東日本社長『新幹線の車内販売は当分続ける』」)によると、東京の電車特定区間内で完結する通勤定期券購入者のうちの7%がオフピーク定期を購入しているといい、キャンペーンの実施でさらに切り替えを促すことで、2024年4月までに17%をオフピーク定期にしたい考えだ。

「オフピーク定期」ならJRが安い?

JRは私鉄と競合する区間などでは通常より割安な特定運賃を設定しており、これは定期券も同様だ。例えば、京急電鉄と競合する品川―横浜間の距離は22.0kmで、通常の運賃なら通勤定期1カ月1万1850円のところが特定運賃で8950円となっており、京急より安い。それでも私鉄より割高な区間はあり、本当はJRのほうが便利だが諦めているという方もいるのではないか。

だが、通常の定期券だと競合私鉄より高いものの、オフピーク定期なら安くなるという区間もある。そこで今回は私鉄とJRの競合区間において、私鉄の定期とJRのオフピーク定期の運賃を比較してみた。前述の品川―横浜間のように通常の定期でもJRのほうが安い区間は存在するが、その場合でもより安くなってお得だ。

では、まずは品川―横浜間の比較を見てみよう。この区間はもともとJRの定期のほうが安いので、オフピーク定期だとさらに割安である。とくに6カ月の場合、京急が6万3720円(10月1日運賃改定後は7万2090円)なのに対してJRのオフピーク定期は3万8410円と、値上げ前との比較でも40%も安い。

【品川―横浜間】
<京急(改定後)>
1カ月:1万3350円 3カ月:3万8050円 6カ月:7万2090円
<JR通常>1カ月:8950円 3カ月:2万5530円 6カ月:4万3090円
<JRオフピーク>1カ月:7980円 3カ月:2万2750円 6カ月:3万8410円

一方、品川―久里浜間で比較するとちょっと事情が変わってくる。JRは特定運賃を設定している区間にもかかわらず、1カ月、3カ月、6カ月すべてで、オフピーク定期でも京急の安さにかなわない。さらに、京急は10月1日から近距離は値上げする一方、41km以上の遠距離は値下げするというユニークな運賃改定を実施。これにより、品川―久里浜間は改定前よりもさらに差が付くことになった。


品川付近で京急線と交差するJR線。品川―横浜間はJR定期のほうが安いが、久里浜までだとJRオフピーク定期と比べても京急のほうが安い(写真:Ryuji/PIXTA)

【品川―久里浜間】
<京急(改定後)>
1カ月:1万9770円 3カ月:5万6350円 6カ月:10万6760円
<JR通常>1カ月:2万8140円 3カ月:8万0200円 6カ月:13万7660円
<JRオフピーク>1カ月:2万5010円 3カ月:7万1270円 6カ月:12万2340円

オフピーク定期だと「逆転」する例も

千葉方面では東京メトロ東西線に対抗してか、東京―西船橋間で特定運賃を設けている。JRは、6カ月定期については「週3勤務でも元が取れる」と言われるほど割引率が一気に高くなり、私鉄と比べて安くなることが多い。東京―西船橋間も、6カ月定期だけはもともとJRのほうが安いが、オフピーク定期ではすべての期間でJRが安く、6カ月だと9000円近い差となる。

【東京(日本橋)―西船橋間】
<東京メトロ>
1カ月:9270円 3カ月:2万6420円 6カ月:5万0060円
<JR通常>1カ月:9620円 3カ月:2万7440円 6カ月:4万6290円
<JRオフピーク>1カ月:8570円 3カ月:2万4450円 6カ月:4万1250円

東急東横線と競合する渋谷―横浜間も同様だ。通常の定期券だと1カ月、3カ月は東急より高いが、オフピーク定期で比較するとすべてJRが安く、とくに6カ月定期では約1万円の差となった。

【渋谷―横浜間】
<東急>
1カ月:1万1510円 3カ月:3万2810円 6カ月:6万2160円
<JR通常>1カ月:1万2290円 3カ月:3万5050円 6カ月:5万9120円
<JRオフピーク>1カ月:1万0940円 3カ月:3万1200円 6カ月:5万2630円

10月1日運賃改定の京王とJRオフピーク定期の差はどうか。これは比較してみるとかなりインパクトのある結果となった。

まずは井の頭線と競合する渋谷―吉祥寺間。もともとJRのほうが安かったが、オフピーク定期の安さと京王の運賃値上げにより、従来は6カ月定期で6600円程度の差だったのが、最大1万6630円に拡大。京王の定期代の3分の2でJRオフピーク定期が買えてしまう。3カ月定期でも約7000円もの差があり、オフピーク定期なら京王の7割程度の値段で買える。


JR中央線と京王井の頭線が乗り入れる吉祥寺駅(撮影:風間仁一郎)

【渋谷―吉祥寺間】
<京王(改定後)>
1カ月:8610円 3カ月:2万4540円 6カ月:4万6500円
<JR通常>1カ月:6950円 3カ月:1万9810円 6カ月:3万3480円
<JRオフピーク>1カ月:6200円 3カ月:1万7670円 6カ月:2万9870円

新宿―八王子間は通常の定期券だと1カ月、3カ月についてはJRのほうが高かったが、京王の値上げによってすべての期間でJRのほうが安くなる。オフピーク定期との比較だともともとJRが安く、6カ月定期では実に約1万8000円差と圧倒的だ。

また、新宿―高尾間はすべての期間でJRのほうが高かったが、こちらは6カ月のみ約9000円差でJRオフピーク定期のほうが安くなる。同区間の値上げ前の京王6カ月定期は7万4250円、JRの通常の定期は8万3160円だったのが、値上げ後は京王が8万2680円、JRオフピーク定期は7万3970円なので、ほぼ逆転した格好だ。

【新宿―八王子間】
<京王(改定後)>
1カ月:1万5310円 3カ月:4万3640円 6カ月:8万2680円
<JR通常>1カ月:1万4970円 3カ月:4万2660円 6カ月:7万1950円
<JRオフピーク>1カ月:1万3320円 3カ月:3万7960円 6カ月:6万4020円

【新宿―高尾間】
<京王(改定後)>
1カ月:1万5310円 3カ月:4万3640円 6カ月:8万2680円
<JR通常>1カ月:1万7310円 3カ月:4万9330円 6カ月:8万3160円
<JRオフピーク>1カ月:1万5400円 3カ月:4万3870円 6カ月:7万3970円

「安さ」でオフピーク通勤は広がるか

西武新宿線とJRも圧倒的な差がある。新宿―拝島間は、定期券の場合はもともとJRのほうが安く、西武とJRの通常の通勤定期6カ月で比較しても約2万2000円の差があったが、JRオフピーク定期だと約3万円の差だ! 当然、もっと短い期間でも無視できない差となっており、1カ月だと約4000円、3カ月だと約1万2000円の差でJRオフピーク定期のほうが安い。いくら競合区間だからといってここまで安くしなくても……と思ってしまうほどだ。青梅線・中央線利用者は運賃面ではかなりの恩恵を受けているということでもある。


西武新宿線の拝島行き急行(写真:tarousite/PIXTA)

【新宿―拝島間】
<西武>
1カ月:1万7140円 3カ月:4万8850円 6カ月:9万2560円
<JR通常>1カ月:1万4640円 3カ月:4万1720円 6カ月:7万0350円
<JRオフピーク>1カ月:1万3030円 3カ月:3万7120円 6カ月:6万2600円

いかがだったであろうか。オフピーク定期だと、区間によっては4割以上の差があったり、金額にして約3万円も違ったりすることに驚いた方も多いのではないか。

競合路線の旅客に運賃の安さを訴求して移ってもらえれば、JRにとってはピークシフトが進むだけでなく増収になるし、客を奪われた競合鉄道会社もオフピーク定期などの導入を検討することになれば、さらに通勤時間の分散が進むだろう。JR東日本の深澤社長も、オフピーク通勤は「多くの鉄道会社が参画すればより効果は大きくなる」と言っているが、こうしたやり方で他社を牽引していくのも一つの手ではないだろうか。


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(北村 幸太郎 : 鉄道ジャーナリスト)