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 なぜ、ロシアや中国などの社会主義国は、国際社会の批判を無視して、他国を侵略し、自国の利益を拡大しようとするのか?
「日本人から見ると理解不能な行動の裏には地政学の理念がある」と語るのが、経済評論家の上念司氏だ。

 なかでも、昨今のウクライナ侵攻で知られるロシアの行動原理にあるのが「ドイツ地政学」だという。かつては世界大戦時にナチスやスターリンに大きな影響を与え、現在のロシアにも連なる「ドイツ地政学」とはどんなものなのか。

 上念氏の新刊『経済で読み解く地政学』(扶桑社刊)から一部抜粋・再構成してお届けする。

◆ナチスやスターリンに影響を与えた「ドイツ地政学」とは?

 イギリスの地理学者であるハルフォード・マッキンダーの生み出した「ランドパワーVSシーパワー」という考え方があります。

「ランドパワー」とは、ロシア、中国、ドイツ、フランスといった大陸国家を指します。これら大国は領地内で自給自足を完結させるために、より広い領地、すなわち「生存圏」を得るために、国土を防衛し、新たな領地を獲得するために強力な陸軍を必要とします。

 一方の「シーパワー」はアメリカ、イギリス、日本、オランダ、スペインといった海洋国家が中心です。分散的に存在する独立主体の国家が、ネットワークのように結びつき、「自由で開かれた交易」を重んじます。海上の交易路を防衛するため、強力な海軍を必要とします。

 これら「ランドパワー」と「シーパワー」は常に対立するとしたマッキンダーの思想が、ドイツ人の思想家であるカール・ハウスホーファー(1869〜1946)らの思想と融合し、「ドイツ地政学」を生み出します。

◆「ドイツ地政学」5つの要点

 ハウスホーファーが掲げた理論の要点は、以下の通りです。

(1)生存圏と国家拡大理論
(2)経済自給自足論(アウタルキー)
(3)ハートランド理論とランドパワーとシーパワーの対立
(4)統合地域(パン・リージョン)
(5)ソ連とのランドパワー同盟による世界支配

(1)から(3)は、マッキンダーをはじめとするそれまでの地政学の大家たちがつくり上げた理論を援用したもので、(4)以降がハウスホーファーのオリジナルの地政学です。

◆「生存圏の確保のためには他国侵略もやむをえない」

 ハウスホーファーは、完全に縄張り意識を重視した圏域思想でもって、国家が自給自足するために必要な生存圏(レーベンスラウム)のために、国家にとって必要なものはすべて自分たちの勢力下に収めるべきであるという思想の持ち主でした。

 彼の地政学では、国家を一つの有機体として捉え、我々が食べ物を食べなければ死んでしまうように、国家が生存するためには栄養を確保する必要があると考えます。そこで、国家が生きるために必要な資源や土地(生存圏)を獲得しなければならないと考えました。

 ただ、資源や土地を奪い合えば、当然争いが起きます。仮に複数国家で土地を奪い合った場合は、その中で最も強い民族が最終的にはその土地に君臨する。

 結果的に、世界は地域ごとの強者が支配する圏域に分かれた、多極化世界が、バランス・オブ・パワーで話し合いをしながら国際秩序を決めていく「パン・リージョン(統合地域)理論」を打ち出しました。

◆「ドイツは欧州の覇者に、日本はアジアの覇者に」という帝国主義

「パン・リージョン」とは、世界を縦割りに三つか四つのブロックに分けたものを指します。

 ハウスホーファーはそれぞれのブロックをアメリカ、ソ連、ドイツ、日本などの強国が指導するという未来を予想していました。それぞれの地域が牽制し合いながらパワーを均衡させることで、世界が安定すると考えたのです。