どれほど忙しい人でも、1日のうちにちょっとした静かな空白の時間を見つけて大切にすることで、熟慮したり、知恵を得たりすることが可能となります(写真:Fast&Slow/PIXTA)

私たち現代人は、かつてないほど騒音の影響を受けている。ここで言う「騒音」とは街中に響く音だけではない。日々接している大量の情報という騒音や、ネガティブな考えが頭から離れない「頭の中の独り言」という騒音もまた、増加し続けている。

これほど多くの刺激が人々の注意を消費している今、私たちはどうすれば心の平穏や明確な思考を維持できるのだろうか? これら危険な3つの騒音から逃れる方法はあるのだろうか?

今回、日本語版が9月に刊行された『静寂の技法』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。

静かな空白の時間を作る

ミシェル・ミルベンは、オバマ大統領のホワイトハウスの顧問と、議会連絡担当補佐官を務めていたときに、静寂と静かな熟考の時間を見つけるのは不可能に思えることが多かった。だが、現役の聖職者でプロのミュージシャンでもあるミシェルは、静寂がスピリチュアルな意味で必要であることに気づいていた。


政権の最後の数年間にワシントンで大統領と議員たちの関係を管理する仕事をする間ずっと、彼女は空白を守るために意識的に自分の日々の手筈(てはず)を整えなければならなかった。

ときどき、静かな時間の区分をいくつも文字どおりスケジュールする必要があった。それらの静寂の時間は、どれほど短くても、不可欠だった。

それらは、意思決定するときに自分の倫理に忠実であり続けるため――他者との関係で、ポジティブで誠実であり続けるため――に、一番の方法となった。

ミシェルは手を休め、深呼吸し、目を閉じる。「これは私自身の、ちょっとした力場(りきば)なのです」と彼女は言った。

彼女は今日、エクスプラネーション・キッズ(ニュースに出てくる世界の出来事や問題について子どもたちが抱く大きな疑問への、年齢にふさわしい答えを提供するスタートアップ)の創業者・CEOとして、自分の聖域を意識的に守るよう、取り組み続けている。

ミシェルは学生時代から、「リアリティ・チェック」にスプレッドシートを使い、自分の1日にいつ静けさのための時間を見つけられるか調べてきた。

スプレッドシートのセルの1つひとつが午前5時から午後10時までのどこかの、15分の時間区分を表している。

彼女はまず、自分の役職に伴う主な責務や、母親への定期的な電話、食事など、しなければならないことを入力し、それからセルフケアなど、やりたいことも少し入力する。それからゆったりと座り、自分のスケジュールを点検すると、実際、「隙間時間」が必ず見つかる。

そうした「隙間時間」は、いちばん仕事から守りやすい。だから彼女は毎朝、聖書や心を動かされる引用を読む時間を少しだけ確保する。その後、静かに観想する。本人の言葉を借りれば、「神に私の心を支えてもらえるように」。その後、1日の仕事に取り掛かる。

エクセルのスプレッドシートは普通、静けさの感覚を呼び起こしたりはしない。だがミシェルにとって、特にホワイトハウス時代以降、そのスプレッドシートは自分の聖域の境界を定めるツールになっている。人は、他の重要な用事と同じように静寂の時間をカレンダーに確保することができる。

「聖域」の重要性

アメリカの元国務長官ジョージ・シュルツは在任中、毎週1時間の枠を決め、そこには絶対に何の会議も約束も入れなかった。そしてその時間には、ペンと紙だけを用意してただ座り、何であれ頭に浮かぶことについて考えた。秘書には、電話はすべて取り次がせなかった。「妻か大統領のどちらかからでなければ」

私たちは何十回ものインタビューを行っている間に、時間と空間の両方における聖域の重要さについて、何度となく聞かされた。

多くの人が「朝のマインドセット」を守ろうとする。日の出前に、他者の心のインプットを受けずに済む、純粋な注意のスペースを維持しようとする。心を空にし、意識の中に残っている騒音を取り除く手段として、1日の終わりに静かな時間を取り、それを神聖なものとして大切にする人もいる。

イエズス会の修練者、サイラス・ハビブは、「意識の究明の祈り」というイエズス会の修練について語ってくれた。それは、夜に時間を取り、それまでの1日に起こったことをすべて思い返し、自分が恩寵(おんちょう)やつながりを感じたときのことを振り返る、というものだ。

本書の共著者のジャスティンは、ときどきその1バージョンをやり、1日のうちに安らかな静けさを感じたときについて考え、意識の移ろいゆく特性を調べてきた。

静寂の聖域は単純であるべき

聖域は単純であるべきだ。ストレッチングをしたり、入浴したり、ジャーナリング〔訳注 頭に浮かんだことをそのまま書き出すこと。「書く瞑想」とも言われることがある〕をしたり、テラスに座ったり、床に寝そべったり、その他、くつろいだ、静かなあり方を見つけたりするための、物理的な空間を作り出そう。

カレンダーにも空白を作ろう。少しだけ早起きしたり、夜の時間を空けておいたりして、意図的に「空っぽにする」時間に充てる。実際にその時間を自分のために過ごす。大切な同僚や仲の良い友人と会うかのように、その約束を守る。

早起きの人と夜更かしの人は正反対だと思われがちだ。だが、両者はともに、1日のうちの静かな時間帯、外部からの要求がない時間帯の真価を理解している。

詩人や求道者は、昔から、「午前4時の静けさ」の持つ、境界としての特性を称賛していた。

ミシェルにとっては、時間と空間におけるこれらの聖域、特に朝に確保しておく時間帯は、ホワイトハウス時代にも、スタートアップを築き上げている現在も、どれほど効果をあげるかの決め手だった。

彼女はこの聖域で自分の信条を確認する。「静けさを経験し、静寂の修練をすることが、これまでずっと、厳しい状況で知恵を絞り出す能力を磨くのに不可欠でした」と彼女は語った。

「そして、成果をあげる戦略を生み出すのにも。特に、自分が世の中で創出したい善に対して不利な状況のときには」

(翻訳:柴田裕之)

(ジャスティン・ゾルン : コンサルタント、講師)
(リー・マルツ : コンサルタント、リーダーシップコーチ)