ゲームセンターが「復活」を遂げた意外な背景
池袋にオープンした「GiGO総本店」の1階には、多数のクレーンゲームが並ぶ(記者撮影)
「セガ池袋GiGO」がビルのリニューアルのため、28年の歴史に幕を降ろして丸2年。9月20日、池袋のサンシャイン60通りに「GiGO総本店」がグランドオープンした。
地下1階から3階で構成され、音楽ゲーム、プリントシール機、カードゲームなどさまざまなアミューズメントを楽しむことができる。とくに1階のクレーンゲームフロアは入口から最奥まで38メートルと、そのスケールは圧巻だ。
今、アミューズメント施設が盛り上がりをみせている。日本アミューズメント産業協会によると、国内のアミューズメント市場規模はコロナ禍に入った2020年度に大きく落ち込んだが、その後回復。各社の売上高は、コロナ禍以前の水準を上回るまでに復活している。
アニメの大衆化が下支えに
好調を支えるのが、アミューズメント市場全体の約7割を占めるプライズゲームだ。クレーンゲームなどの景品がもらえるゲームを指し、とくに近年は、アニメやゲーム、VTuberなどを楽しむ顧客層が拡大している。
国内外で200超のアミューズメント施設を運営するGENDA GiGO Entertainmentの二宮一浩社長は「サブスクの動画配信が増え、アニメが大衆化したことが大きな下支えになっている。グッズを手に入れられる場所は意外と少ないが、ゲームセンターは手軽にIPグッズが手に入る場所として重要な役割を果たしている」と分析する。
実際、都市型店舗だけでなく、家族層が多いショッピングモール内の店舗でも、アニメグッズの景品の割合が増えており、ユーザーは若者だけではなく親世代にも広がっているという。
プライズゲームの景品のほとんどは、企画段階から景品用として制作されるオリジナル商品だ(風俗営業法により、景品の上限価格は1000円と規定されている)。
昨今は、自分の好きなアニメや推しのキャラクターの景品情報が発表されると、SNS上で盛り上がる傾向が拡大。YouTuberらインフルエンサーによる関連動画のアップも拡散に拍車をかけ、アミューズメント施設へ行くインセンティブが以前に増して強くなっているのだ。
客層に合わせた景品のラインナップを揃えることが、プライズゲーム運営の肝となる。写真はタイトーステーション府中くるる店(写真:タイトー)
プライズゲーム運営のカギは、店舗がある地域の特性やアニメの流行などを見極めて、いかに最適なラインナップをそろえるかという点に尽きる。
例えばショッピングモールなどはファミリー層のようなライトな顧客が中心となるため、大型のぬいぐるみやお菓子、雑貨などの景品が多い一方、路面店ではコアな顧客層も訪れることから、人気アニメや漫画のフィギュア、ぬいぐるみなどが多い。
タイトーの岩木克彦社長は「プライズゲームは世の中のニーズに迅速に対応できるという特徴がある。世の中の流行りに合わせてゲーム機器を急に変えることは難しいが、プライズは瞬時に変えることができる」と語る。
自宅から遊べるクレーンゲームも活況
プライズゲームの楽しみ方やプレー方法自体も多様化している。
GiGOは2022年に、サブスクリプションサービス「プライズパス」を開始した。月額500円の会費を支払えば、毎月1000円分のプライズゲーム用のサービス券を獲得することができる。「時間つぶし」のために訪れる客も多いアミューズメント施設だが、サブスク導入によって来店動機が明確化され、加入者の来店頻度は加入前と比べ1.2倍に増えたという。
また、各社が取り組みを本格化させているのが、自宅でも遊べるオンラインクレーンゲーム。スマホアプリなどから実在するクレーンを遠隔操作し、獲得した景品は郵送などで受け取れる仕組みだ。
タイトーが2017年から展開を始めた「タイトーオンラインクレーン」は、コロナ禍が明けて以降も好調が続く。オンラインクレーンゲームは硬貨ではなくポイントでプレイする仕様だが、タイトーはタイムサービスで消費ポイントを一時的に少なくしたり、消費ポイントは増えるが景品が取りやすくなるキャンペーンを投入したりしている。
このようなプレー方法の多様化を実店舗でも取り入れていきたいという。「限定の景品、専用機械、運営と、オンラインクレーンゲームには実店舗で培ったノウハウのすべてが詰まっている。総合的に事業を行うわれわれの強みを生かすことができた」(岩木社長)。
拡大するプライズゲームとは対照的に、アーケードゲームは音楽ゲームなど一部のジャンルを除き縮小傾向だ。とくにオンラインコンテンツの普及の影響は無視できない。一方で代わりに台頭しつつあるのが、リアルならではの体験ができるエンターテインメントだ。
例えば2022年5月にオープンしたGiGO 池袋3号館の7階にある「fanfancy+ in GiGO」は、「推しとのデート」をコンセプトにした店舗だ。そこではアクリルフレームなど自分の“推し”を彩るグッズを販売するほか、カフェスペースもあり、推しとの写真撮影もできる。
別フロアにあるプライズゲームでぬいぐるみを獲得し、推し活ショップでそれを彩るグッズを買うなどといったシナジーもあり、売り上げは好調という。2023年7月には、原宿の竹下通りに2店舗目となる推し活専門ショップをオープンした。
二宮社長は「ゲームセンターを増やすと同時に、従来とは異なる業態も併設して増やしていく。そこから切り出して、新業態だけ出店するような事例も十分あり得る」と意気込む。
1000円で楽しむ「お手軽」遊園地
タイトーが新宿南口の店舗などで運営している「くらやみ遊園地」は、謎解きやサウンドホラーなどが楽しめる。プレイ時間は15〜25分、料金は1000〜1500円と、気軽に遊べるのが特徴だ。
「くらやみ遊園地 新宿南口ゲームワールド店」で遊べるサウンドホラー(記者撮影)
こちらも「くらやみ遊園地」に寄った後や待ち時間にプライズゲームで遊ぶなどといったシナジーが大きく、これまでゲームセンターに来店しなかったような新たな顧客層の開拓につながっているという。
「しっかりユーザーがついているアミューズメントはそのまま突き進んでいけばいいと思うが、なかなか対応できないところは進化する必要がある。今後はより先にあるユーザーのニーズをつかんで変化しなければならない」(岩木社長)
コロナ禍を経て、意外な奮闘をみせるアミューズメント業界。リアルならではの遊びの場は、形を変えながら進化していきそうだ。
(武山 隼大 : 東洋経済 記者)