メンタルゲームの側面が出たFC東京の逆転勝利。“確実に勝ちたい”鳥栖は相性の良い相手に猛攻を許して3失点

[J1第28節]FC東京 3−2 鳥栖/9月23日/味の素スタジアム
「前半30分までパーフェクトなゲーム。その2点を貯金にしてしまい、自分たちからボールを取りに行く、プラスにする作業が少なかった」
サガン鳥栖の川井健太監督はこう淡々と述べた。第21節のヴィッセル神戸戦(1−2)から3分4敗、ここまでの7試合で勝利に見放されていたことが、選手に心理的な影響を与えていた。
確実に勝ちたい。2点のリードを守りたい。その気持ちが積極性を奪い、なんとしても追いつきたいFC東京の積極性に圧倒される下地を作っていた。
対して、かつて川井監督とはモンテディオ山形で同じ釜の飯を食ったFC東京のピーター・クラモフスキー監督は、「すごく良いフットボールの戦いになったと思う」と、声を弾ませた。
「前半の終盤あたりから自分たちがゲームを握れるようになってきた。後半に入ってから自分たちの良いキャラクターを出すことが出来、献身的に信念をもって戦い続けることが出来たと思う」
32分までに鳥栖が2得点。戦術的には明らかにFC東京を上回っていた。
鳥栖は4−2−3−1を基本としながら、センターバック以外のフィールド8人が細かくポジションを変えてピッチ上のあちこちに出没し、FC東京の選手が目で追いきれない位置取りでボールを動かし、ゴールに迫っていた。
FC東京の森重真人はこの時間帯を「前半の最初、相手の運動量とポジショニングでやられてしまった。ゼロでしのぐことが出来なかった。焦れてしまったし、一人ひとりがイライラしてしまう部分があった」と振り返った。
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精神的にも鳥栖が優位に立っていた。しかし敗戦への不安から、みすみすその優位を手放してしまう。
対して、32分過ぎからポジショニングを修正してボールの循環を良くしたFC東京は、さらにハーフタイム、「このままで終われるわけはない」というクラモフスキー監督の言葉で自分たちの心に火を点けた。
同時に前からプレッシャーをかけることを確認したFC東京は、後半から精神的にも優位に立つ。バングーナガンデ佳史扶は「全然出来る感覚はあった」と、選手たちが強気になっていたと吐露した。
サッカーはメンタルゲームだという。確かに、FC東京は後半、急に強気になったように見えた。厳密には渡邊凌磨のサイドバックに近づく位置取りなど、細かな修正は行なったが、戦術的な変更は前からプレッシャーをかけようというシンプルな確認が主で、それよりもメンタル面の波のほうが勝敗に与えた影響は大きかったのではないか。
クラモフスキー監督就任直後の第18節・名古屋グランパス戦(2−0)も、戦術的な準備や攻撃面の積み重ねをする期間はほとんどなく、ひたむきに戦う原点を思い起こし、ハイインテンシティ、ハイライン、ハイプレスで立ち向かうのを確認しただけで臨んだが、それだけで勝ってしまった。
思えば、まったく前向きな材料がなかった第13節・川崎フロンターレ戦(2−1)も気合と根性の部分が大きく影響し、勝利した。
これまでの直接対決では鳥栖が8連勝中。今回はFC東京が強気になっただけでなく、鳥栖が弱気になったからかもしれないが、相性の良し悪しを覆すほどの結果をもたらしてしまった。
取材・文●後藤勝(フリーライター)