【来週の注目材料】追加利上げ期待が強まる中で物価統計に注目

 市場予想通り2会合振りとなる政策金利据え置きを決めた19日、20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)。パウエル議長会見では、今後について慎重に進めることが出来る、(物価の安定と雇用の最大化という)デュアルマンデートに焦点を絞るなどの発言とともに、適切ならさらに金利を引き上げる用意があるとの発言がありました。また、注目されたFOMCメンバーによる経済見通し(SEP)では、各メンバーの年末時点での政策金利見通しをドットで示したドットプロットにおいて、2023年末の水準中央値が前回と同じ5.50-5.75%となりました。前回は5.50-5.75%が9名、より高い水準が3名、より低い水準が6名となっていました。今回は現行の5.25-5.50%と5.50-5.75%に予想が集約する中、市場で大勢の見方となっている現行水準を見込む動きが強まるのではと期待されていました。結果は12名が5.50-5.75%、7名が5.25-5.50%と追加利上げ期待がかなり優勢となりました(9月13日に1名欠員だった理事にクーグラー氏が就任したため、今回から19名体制)。実際の投票は12名(地区連銀総裁12名の内、5名)で行われることや、利上げを予想していたとしても自身の投票としては据え置きに回るメンバーもいると思われることから、そのままではありませんが、それなりの確率で利上げが実施される可能性が出てきたという認識が広がりました。
 FOMC前まで年内の金利据え置きを約60%程度見込んでいた短期金利市場や金利先物市場は、この結果を受けて年内追加利上げ期待が据え置き期待を上回るところまで一時強まりました。もっとも据え置き期待も根強く残り、翌日には再び利上げ期待を上回る状況となっています。ただ、いずれにせよ予想はかなり拮抗する形で割れており、議長の発言などと合わせ、金融政策判断に影響を及ぼす物価統計などの米重要指標動向に対する市場の注目が高まるところとなっています。

 8月の物価に関しては消費者物価指数(CPI)が9月13日に発表され、前年比3.7%と7月の3.2%から伸びが加速しました。市場予想の3.6%も超える伸びとなりました。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比4.3%と総合とは逆に7月の4.7%から伸びが鈍化しました。市場予想とは一致しています。
 6月の前年比+3.0%から二カ月連続の伸び加速となった総合指数。今回は特に大きく伸びていますが、その主要因はエネルギー価格、特にガソリン価格の上昇です。原油価格の上昇などを受けてガソリン価格は前月比で+10.6%の大きな伸び。前年比では7月の-19.9%から-3.3%に大きな減少幅縮小となりました。
 一方、コア指数の伸び鈍化は住居費が大きな要因となっています。住居費はCPI全体を100としたときの38.4%、コア指数だけを100としたときの43.7%を占める大きな部門で、動きが全体に影響しやすくなっています。住居費は7月の前年比+7.7%から+7.3%に鈍化しました。前月比ではプラス圏となっていますが、住居費は家賃が更新時のみの上昇になるなどの理由で全体の伸びに遅行する特徴があり、米国の物価全体のピークが昨年6月となっているのに対して、今年3月にピークが来ています。その為昨年の7月から8月にかけては伸びが加速している最中となっており、比較対象元の前年同月の価格変化が前年比の変化に影響を及ぼすベース効果が見られました。

 こうした中、今週は29日に8月の米個人消費支出(PCE)デフレータが発表されます。米国のインフレターゲットは多くの国で採用されているCPIでなく、このPCEデフレータとなっているだけに、注目が集まります。
 市場予想は前年比+3.5%と7月の+3.3%から伸びが加速する見込みです。ただCPIに比べると加速が小さいものとなっています。コア指数は前年比3.9%と7月の4.2%から伸びが鈍化する見込みです。
 今回CPIで大きく伸びたガソリン及びエネルギー価格は、PCEデフレータの場合でも伸びていると見られますが、CPIに比べて指数全体に占める割合が小さいことから、全体の伸び加速を抑えてくると見られます。コア指数の伸び鈍化につながった住居費の占めるウェイトもCPIに比べて小さいですが、CPIに比べてウェイトがかなり高くなっている医療費についても、8月は価格低下が見られたことから、コアはしっかり下げると見込まれています。
 予想通りコア指数の伸び鈍化が見られると、年内金利据え置きの期待が広がり、ドル売りが見込まれます。

MINKABU PRESS 山岡和雅