この記事をまとめると

■自動車業界にはほかの業種同様に専門用語が存在する

■中古車業界で使われがちな専門用語を今回はピックアップ

■知ったかぶって使うと恥をかく可能性も!?

業界人だけに通じる専門用語をピックアップ

 どこの業界にも隠語や符牒というのがあって、その謂れを知るのは興味を惹かれるもの。有名なところでは落語の符牒「風=扇子」や「曼荼羅=手ぬぐい」、一般的に使われるようになっている「ブス」というのも「ブサイクなスケ(女)」を略したもの。あるいは、警察が使う符牒で「言遍(ごんべん)」は詐欺事件を表し(詐の言遍)、「サンズイ」となると汚職事件(汚のサンズイから)なのだそうです。

 クルマ業界にはこれほど気の利いた符牒はなさそうですが、業界独特の言いまわしや言葉遣いがあります。お馴染みのものから、筆者が耳にしたことのある表現をご紹介しましょう。

「かきまわし」

 マニュアルミッション車、あるいはMTそのものを表しています。シフトレバーを操作する動きがあたかも「かきまわす」ように見えるからでしょう。

 クルマ屋さんやブローカーが「JSのコンバでかきまわし? あるわけねーだろ」などと使ったりしています(ちなみに、JSはジャガーのXJ-S、コンバは言うまでもなくコンバーチブルです)。ちょっと品がないですと? クルマ売買の現場なんてそんなものです(笑)。

「黒塗り」

 元は公用車や企業の重役車だったものが中古車市場に下りてきたタマ。たいていセンチュリーやプレジデント、あるいはシーマやクラウンあたりで、「公費でもって」欠かさずにメンテナンスされていますから、過走行ながらコンディションはまずまず。

 もっとも、一般的な需要はさほど高いわけではありませんので「ダブついてる黒塗り、戻しとけよ」(売れ残っている黒塗り車のメーターを巻き戻して走行距離を粉飾せよ)なんて悪だくみもままあったようです。ちなみに、ボディカラーがブラックでなくガンメタや白だったとしても公用車、あるいはハイヤーはすべて「黒塗り」呼ばわりでした。

業界外の人にはもはや意味不明!?

「歴」

 お察しのとおり、修復歴のこと。いまでは公取によって修復歴の有無を申告することが義務付けられていますが、その昔は「バレなきゃいいや」とばかりに黙っている業者も少なからず存在しました。ちなみに、修復歴といえばぶつけた、こすった、あるいは追突されたといった事故の修復を指すことがほとんどですが、事故ってなくても全塗装(オールペン)をしたタマは「歴アリ」にカウントされます。

 いろんな意味であらゆる歴が塗り替えられてしまうので、業者間では保険として「歴」と呼んでいるのでしょう。

「ニウム」「ケイゴ」

 クルマ業界のなかでも、とりわけベテランの職人さんが口にするかと。「そのニウム管、外しちゃダメ!」とか「ケイゴなんか使うから壊れんだ!」などなど。つまり、ニウムもケイゴも同じくアルミニウムを指した言葉で、ちょい古世代にとって軽合金といえばアルミニウム一択だったのです。なお、知ったかぶってマグネシウムを「シウム」と略しても、職人さんには通用しないので「マグ」と呼びましょう。

 ちなみに、筆者が頼りにしているベテランが鋼材といったら「クロモリ(クロームモリブデン鋼)」で、わざわざ「ハイテン」といったらハイテンションスチール=高張力鋼、いまは懐かしいスウェーデン鋼のことは「サンド」と呼んだりしていました。これは、はじめに日本にもってきたのがサンドヴィクという商社だったからだそうです。