10月2日に今後の会社の在り方などをめぐる議論の進捗状況を公表するしているジャニーズ事務所。海外の専門家は考えるケジメのポイントとは(撮影:風間仁一郎)

経営陣刷新などを発表したものの、スポンサー離れが続くジャニーズ事務所は9月19日、取締役会開催し、社名の変更や、藤島ジュリー景子前社長が保有する株式の取り扱い、所属タレントおよび社員の将来などについて議論を行い、その進捗状況を10月2日に公表すると発表した。

事務所のあり方や、スポンサーなどの利害関係者の関わり方をめぐっては、しばしば「海外基準」、特に欧米の基準に照らし合わせて語られてきたが、海外のリスクマネジメント専門家はジャニーズや取引先など利害関係者はどうすれば「ケジメをつけた」とみるのか。

日本社会の反応の鈍さに驚き

「もし、欧米の有名企業の元社長が側近に知られながら、何十年もの間、何百人もの子どもに対する性加害行為をしていたことが発覚したら、どうなるのか想像もつかない」。

ジャニー喜多川による性加害スキャンダルについて、フランスのコミュニケーション危機のベテランの1人はこう語る。この記事のために取材をしたほかの4人の専門家同様、同氏は今回の大スキャンダルに対する日本社会の反応の鈍さに驚いている。

「フランスでは、右から左までのメディアが積極的な記者会見と、大胆な対策を求める。顧客は即座に関係を断ち、問題会社の幹部は辞任するだろう。関係省庁は、その事務所における権力の乱用について調査を開始するだろう」と同氏は話す。

ところが、1998年に元フォーリーブスの北公次が告発本を出して以来、本が5冊も出版され、週刊文春の一連の記事が裁判所のお墨付きを得て、国会で公聴会が開かれ、アメリカ「ニューヨーク・タイムズ」紙で報道されても、ジャニーズは告発を一切無視した。

また、ファンのみならず、メディアも警察も、利害関係のある行政も、ジャニーズのタレントを支持する企業も、いわば日本社会全体が、見て見ぬ振りをし続けた。今年3月にBBCの1時間のドキュメンタリー番組が世界的な反響を呼び、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の声明が出されるまでは。

本来ならすぐに事実を認めるべきだった

フランスに本社がある総合広告代理店、ハヴァスの副社長であり、グローバル危機のトップ・エキスパートであるステファン・フークスはこう説明する。

「企業がこのようなスキャンダルに見舞われた場合、まずすべきことは事実を認め、被害者の側に立つことだ。そうでなければ、スキャンダルはテレビドラマのようになり、発覚するたびに新しいエピソードが生まれることになる」

ところが、ジャニーズの藤島は5月に公式コメントを発表した際、叔父に対する小児性愛の告発は叔父が亡くなっているため立証できないと主張するようなビデオを配信して責任逃れをした。その後、さらに4カ月を要し、社内調査を経て、当初から知っていたことを事実上認めた。

「会社はスキャンダルで最も責任の重い幹部を辞めさせるべきだ」とフークスは言う。今回、藤島は社長を辞したが、現在でもジャニーズの全株式を握っており、代表取締役であり続けている。藤島は後任社長に東山紀之を任命したが、彼もまた自身に向けられた疑惑をごまかすことを選んだ。

今回の件で海外の専門家が驚くのは、誰も「責任をとっていない」ということだ。欧米諸国であれば、ジャニーズはメディアから大きな圧力を受け、閉鎖か大規模な改革を迫られるだろう。

「フランスの場合、ジャニーズは世論をなだめるために定期的な会見を開かざるを得ないだろう」と話すのは、フランスのコミュニケーション危機管理会社ロード・ジム・コンサルティングの創設者ジル・デラフォンだ。冒頭の通り、ジャニーズ事務所は10月2日に進捗状況を開示する予定としている。


東山紀之社長は次回会見が開かれた場合、何を語るのか(撮影:風間仁一郎)

「性加害に関連している以上、事務所は白紙から出発し、社名を変更することを検討すべきだ」とデラフォンは話す。現時点で保護者が子どもをジャニーズに通わせるのは躊躇するかもしれないが、「4、5年後、別の社名で運営され、子どもたちを守るための手順が整っていれば、再び事務所に通わせる親も増えるかもしれない」。

性加害者を連想させる社名を変更することはまた、アーティストや従業員を守ることにもつながる。

フランス企業には取引先を監視する役割も

スポンサーの対応も割れているが、最近の大企業は、児童労働が発覚したサプライヤーとの取引を停止する方向に動いている。

例えばフランスの場合、2016年に施行されたサパン法以来、従業員500人以上、売上高1億ユーロ以上のフランス企業は、サプライヤー、顧客、仲介業者の道徳的誠実さを評価しなければならない「注意義務」を負っている。

「例えば、ある企業がサプライヤーをネット検索し、そのサプライヤーがスキャンダルに関与していたが、自己改革により改めたことを確認できれば、注意義務ははたされたことになる」と、世界的な法律事務所マクダーモット・ウィル・アンド・エメリーのグローバル・コンプライアンス&調査部門の共同責任者であるニコレット・コスト・ド・セーブルは言う。

また、ほかの民主主義国家では、スポンサー企業の株主が、会社の価値毀損を恐れて、問題企業との取引を経つように経営陣に圧力をかけることも考えられる。

「罪のない出演者や従業員を守る」ために、藤島は会社を売却することも可能だ。

2022年5月、フランス有数の富豪である生命保険会社ASSU2000の創業者ジャック・ブーティエが、強姦、人身売買、誘拐未遂の容疑で5人の共犯者とともに逮捕された。ブーティエは当時、会社の89%を所有していたが、同氏は投資ファンドに格安で売却し、従業員と事業を維持した。

もっとも「一般的にはファンは事務所より、アーティストに愛着を持っている。フランスであれば、タレントが一斉にジャニーズを去るだろう」と、コミュニケーション・コンサルティング会社ヴァス・ソリスの創業者、アルノー・デュプイ=カストルは語る。ただ日本では、アーティスト、メディア、スポンサー企業がジャニーズとアンバランスな関係にあるため、アーティストがジャニーズを離れるのが難しいのかもしれない。

ジャニーズのスキャンダルと海外の事例を最も適切に比較できるのは、カトリック教会内のセックススキャンダルだろう。どちらのケースも、大人たちが権威ある組織の中で権力を行使し、少年たちに対して性加害を行った。どちらのケースでも、真実が明らかになるまでには何年も、時には数十年もかかった。

宗教スキャンダルとの「共通点」

「ジャニー喜多川問題はバルバラン事件を彷彿とさせる」と、宗教スキャンダルに巻き込まれたクライアントに助言してきたアルノー・デュプイ=カストルは話す。フィリップ・バルバランはフランスの司教で、1991年まで自分の権威下にあった司祭による小児性愛犯罪を当局に伝えなかったとして告発された。

バルバランは、最後の事例から11年後の2002年にその司祭の上司になったばかりで、司祭の性犯罪について知っていたにもかかわらず、同氏の不作為、つまり、「未成年者に対する性的攻撃を告発しなかったこと」により法廷に送られた。

同氏はフランス刑法434条の4に違反した罪に問われた。「15歳未満の未成年者、または年齢、病気、虚弱、身体的もしくは精神的欠陥、または妊娠のために自分を守ることができない者に対してなされた剥奪、虐待、性的虐待を知る者は、司法当局または行政当局に通報しなかった場合、罪に問われる」というものだ。

最終的には、バルバランが知った当時、被害者たちは既に成人しており、自ら裁判を起こすことが可能であったことから、バルバラン自体は無罪となった。被害者たちは広く報道された裁判の中で証言し、小児性愛者の神父は5年の実刑判決を受けた。

もし日本に同じ法律があれば、喜多川による性加害を確実に知っていて、それを進んで隠していたことが判明した者――経営幹部や所属アーティストだけでなく、スポンサー企業の幹部も――訴えられたかもしれない。

もっとも、その場合も、ジャニー喜多川の性加害は公然の秘密であったため、こうした者のうち誰が刑事責任を負うのかを判断することは容易ではないだろう。かと言って、こうした関係者が道義的責任を免れるわけではない。

ファンには強い力があり、責任もある

スポンサー企業も、ジャニーズだけを責めるのではなく、自らを検証すべきである。元ネスレCEOの高岡浩三氏はスポニチアネックスの取材に対して、「クライアントサイドにいた私でさえ、ジャニー喜多川氏が元々性癖があってジャニーズ事務所を開設したという噂は、かれこれ20年以上前から噂として知っていた」と語っている。そうであれば、スポンサー企業も、この長年行われてきた多数の児童への性虐待について責任の一端があるのではないか。

今回のようなスキャンダルは、過去に他の民主主義国でも起きている。イギリスのジミー・サヴィル事件、アメリカのハーヴェイ・ワインスタイン事件とも、社会の大部分による「沈黙」が共犯となって起きた。だが、今回のような残虐な行為に対して、声を挙げる自由や権利が私たちにはある。

特に強い力を持ち、責任があるのはジャニーズファンだ。ファンは藤島や経営幹部たちの財産の源だ。ファンに今できることは、会社が正しい方向へ向かうことを求め、自分たちのアイドルが今後十分に保護され、活躍できる土壌を整えるように要求することではないだろうか。

「ジャニーズ事務所のスキャンダルが日本文化の結果だと言うのは簡単すぎる。アメリカでは、ワインスタインの事件が明るみに出るまで何年もかかった。権力の座を悪用する人は、どこの国にもいる」と、ニコレット・コスト・ド・セーブルは話す。

「いま重要なのは、日本社会の反応だ。外国企業が投資する国を検討するとき、そのような投資が会社の評判に良いのか、従業員はそこで保護されるのかなどと考える。日本がどう反応するか、世界中が注目している」

(敬称略)

(レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員)