「行動誘発性睡眠不足症候群」とは?あっという間に眠れるのは睡眠障害かも?

あなたの周りには「目を閉じればあっという間に眠れる」または「いつでもどこでもすぐに眠れるから睡眠に悩んだことはない」と発言している人はいませんか?
これらの発言から、睡眠トラブルとは無縁そうだと感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし、「あっという間に眠れる」人こそ慢性的な睡眠不足に陥っている可能性があります。
人間の脳は、目を閉じてから眠りにつくまでに約10分かかるといわれています。目を閉じると無心になるようなボーっとまどろむ時間を経て、徐々に意識が遠のいて眠りにつく流れが睡眠の本来の仕組みです。
では、一体なぜ「あっという間に眠れる」人がいるのでしょうか。もしかすると、睡眠障害の1つとされている「行動誘発性睡眠不足症候群」を発症している可能性があります。
本記事では、どのような睡眠障害なのか・なりやすい人・原因・治療・予防対策について詳しく解説していきます。
ぜひ、最後までお付き合いください。
行動誘発性睡眠不足症候群とは
行動誘発性睡眠不足症候群ってなんですか?
行動誘発性睡眠不足症候群という病名を初めて知った人も多いでしょう。行動誘発性睡眠不足症候群は「中枢性過眠症」に分類され、多くは睡眠不足症候群と呼ばれています。この病気は睡眠不足が慢性的になることで脳の覚醒レベルが低くなり、日中に眠気を感じていても刺激を与えて無理やり脳を起こしている状態です。症状が慢性化したり悪化したりすると、睡眠が十分にとれていないため日常生活に支障が出る場合があります。社会人であっても必要な睡眠時間は6~8時間程度です。
睡眠時間が5時間未満の状態が続いている場合には、睡眠時間が足りていない可能性が高いといえるでしょう。
行動誘発性睡眠不足症候群はどのように診断しますか?
睡眠時間・睡眠の質・診断基準の3つがメインで診断されます。具体的な検査方法は以下の通りです。終夜ポリグラフ検査( PSG:夜間睡眠を総合的に評価する)
定睡眠潜時検査(MSLT:日中の眠気を定量的に評価する反復測)
ICSD-3(診断基準)
MSLTで横になってから入眠するまでの時間を表す平均入眠潜時が8分以下であることが1つ目の判断基準となります。さらに、PSG及びMSLTで入眠時レム期が2回以上認められた上でICSD-3の診断基準に則って診断されます。
行動誘発性睡眠不足症候群になりやすい人を教えてください。
日本人の約6人に1人が睡眠に関して何かしらの自覚症状があるといわれています。睡眠の問題に自覚症状がある割合は成人男性で2.8%、女性の2.2%です。約20%の成人が強い眠気を感じていると判明しています。強い眠気を感じて、睡眠不足症候群になりやすい人は以下の通りです。
高齢
生活習慣の乱れ
精神的ストレス
ストレスへの対処不良
運動しない
雇用されていない
平日の睡眠時間が短い
生活習慣病を発症している(脳卒中・がん・心臓病・高血圧・糖尿病)
もしいくつもの項目が当てはまる人は、生活習慣を見直しましょう。ストレスは睡眠不足症候群だけでなく、さまざまな病気においても悪影響を及ぼします。ご自身なりのストレス解消方法を身につけることが非常に重要です。
行動誘発性睡眠不足症候群の症状・原因
行動誘発性睡眠不足症候群の症状を教えてください。
行動誘発性睡眠不足症候群はすぐに眠れることが特徴です。そのため、いつの間にか寝ていたなどの現象が発生します。ほかにもよくみられる症状は以下の通りです。作業しているときのミスが目立つ
頭が回らない
記憶力が低下している
午前中から眠気がある
倦怠感
焦燥感
不安感
勤務日よりも休日の方が長く眠る
目を閉じて8分未満で眠れる
仕事中の居眠りが多くなる
居眠り運転の発生率が高くなる
最も行動誘発性睡眠不足症候群において「会議中に自分が話しているときは眠くないが、他人が議論を始めると意識が遠のいていく」症状がみられる場合には、発症している可能性が非常に高いといえるでしょう。
行動誘発性睡眠不足症候群の原因を教えてください。
行動誘発性睡眠不足症候群は、生活習慣の乱れ・ストレス・睡眠時間が短いことなどから起こる睡眠不足が慢性化することによって発症します。生活習慣病を発症している人も引き起こしやすくなる可能性が高いです。ほかにも睡眠時無呼吸症候群やいびきなどで眠りが浅くなり、睡眠不足が慢性化することでも発症することがあります。
行動誘発性睡眠不足症候群が続くとどうなりますか?
行動誘発性睡眠不足症候群を含めた睡眠障害は、診断にたどり着くまでに多くの時間がかかることが問題視されています。その理由は患者・家族・周りの環境が過眠症状ではなく、生活習慣の乱れややる気の低下に視点を当ててしまうからです。症状を見落とされることも少なくないため、病院への受診と適切な処置が遅れる傾向にあります。その結果、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性が高いです。
行動誘発性睡眠不足症候群を含む睡眠障害は、年齢問わず発症するリスクがあります。子どもでも睡眠障害を発症する可能性があるため、睡眠に何らかの自覚症状がみられる場合にはすみやかに病院へ受診しましょう。
行動誘発性睡眠不足症候群の改善方法
行動誘発性睡眠不足症候群の治療方法を教えてください。
行動誘発性睡眠不足症候群の治療方法では、まず睡眠の機会を十分に確保しましょう。カフェイン・アルコール・ニコチン等の睡眠を妨げる薬物摂取を抑えることが大切です。そのうえで、過眠症治療薬等による薬物療法が用いられます。具体的な治療方法は以下の通りです。
高照度光療法(体内時計の位相調節)
照射法(メラトニンやビタミンB12などを用いる)
服用法
生活指導(社会的同調因子を強化する)
定時の食事摂取
生活習慣指導(規則的な入床・起床・覚醒を促す刺激の強化)
抗うつ剤(気分障害がある場合は治療を併用する)
精神療法
行動療法的アプローチ(刺激制御法や睡眠制限療法)
ストレスを緩和するため、家族や周りの協力も大切になります。また、生活習慣だけでなく、生活環境の改善も視野に入れておきましょう。質の良い睡眠をとれるようにしていくことが治療の近道となります。
日常生活で気を付けることはありますか?
日常生活では、質の良い睡眠を得るために生活習慣を整えることを意識しましょう。ストレスを溜めないことも非常に大切です。運動を取り入れたり、食事バランスを意識したりすることをおすすめします。また、食事や運動は睡眠時間にも大きく影響するものです。具体的に気を付けてほしい日常生活は以下になります。
夕方から夜の涼しい時間帯に20-30分くらいウォーキングする
就寝90分前に入浴する(深部体温が下がりスムーズな入眠につながる)
食事は就寝する2時間前までに済ませる
起床時間と就寝時間を一定にする(人間は起きた約15時間後に眠気が生じる構造)
朝起きたら太陽の光を浴びる
寝る前にスマホやパソコンは使わない
ベッドでは眠る以外のことをしない
まずは、1週間意識して生活に取り入れてみてください。慣れてくると意識せずともできるようになります。1ヶ月で習慣にすることを目標にしてみましょう。
何時間睡眠をとればいいですか?
目を閉じてから眠りにつくまでに約10分かけること、また最良の睡眠時間は約6~8時間とされています。まとまった睡眠時間をとれば良いというわけではありません。毎日なるべく決まった時間に約6~8時間のまとまった睡眠を取るように心がけましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
睡眠トラブルとは無縁そうだと感じる「目を閉じればあっという間に眠れる」または「いつでもどこでもすぐに眠れるから睡眠に悩んだことはない」と発言している人こそ慢性的な睡眠不足に陥っている可能性があります。このような事実に驚いた人も多いでしょう。睡眠に何らかの問題があると自覚症状があるならば、すぐ病院へ受診することをおすすめします。また子どもでも睡眠障害を発症する可能性は大いにあるため、家族の理解が大切です。ただの寝不足や生活習慣の乱れだと断定せず、専門医に相談しましょう。
編集部まとめ
慢性的な睡眠不足によって引き起こされる行動誘発性睡眠不足症候群について詳しく解説していきました。
この病気は年齢問わず発症する可能性があります。本記事でもご紹介した症状に当てはまる場合は、病院へ受診しましょう。受診する際は、最寄りの内科・心療内科・精神科がおすすめです。
ストレスや生活習慣を見直せば改善する病気なので、安心してください。早期発見と早期対応で睡眠不足を解消していきましょう。
参考文献
中枢性過眠症(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部)
睡眠障害ガイドライン
生活習慣病とは?(e-ヘルスネット[情報提供])