ホンダ新型「アコード」日本導入で起爆剤となるか
来年春に日本導入予定の新型アコード(撮影:三木宏章)
2023年1月に「アコード」販売終了に伴い、歴史ある車名が消滅し、さらに4ドアセダンの国内ラインナップがなくなったホンダ。しかし、2023年9月21日、ホームページで新型となる11代目アコードの情報を公開し、来年春に国内導入することを発表した。
単なる移動手段だけではなく、使い勝手がよく、安心して快適にくつろげる室内空間。ホンダが2024年春に国内導入することを発表したミドルサイズセダンの新型アコードは、近年のクルマに求められているそうした付加価値に重点を置いていることが特徴だ。
ホンダ初の機能満載な新型アコード
国内ホンダ車初となる、車載向けコネクテッドサービス「グーグル・ビルトイン」を搭載。グーグル・マップやグーグルプレイ、グーグルアシスタントなどを車内で利用可能(撮影:三木宏章)
とくに注目なのは、国内ホンダ車で初となる「グーグル・ビルトイン(Google built-in)」の搭載だ。同じく新装備の12.3インチ大型ディスプレイオーディオとの連携で、グーグルマップをはじめ、音楽系など多様なアプリをタッチ操作だけでなく、音声操作でも使うことが可能。また、エアコンの設定温度やオーディオ、照明などを簡単な操作で設定できる新型の集中ダイヤルなども採用することで、より先進で使い勝手のいい装備を数多く採用する。さらに高度なセンシングを可能とする最新の安全運転支援システム「ホンダセンシング360」も搭載し、さらなる安全性の向上も図っている。
こうした「国内ホンダ車初の技術や装備を数多く投入」したのが新型アコード。近年、日本ではセダンモデル人気の落ち込みが著しいなか、あえて投入した新型モデルには、いったいどんな魅力や特徴があるのだろうか。まだ、価格や詳細なスペックなどは明らかになっていないが、ほぼ最終仕様と思われるプロトタイプを実際に取材したので、現段階でわかっている情報をお伝えしよう。
新型アコードのリアビュー(写真:三木宏章)
1976年に登場した初代モデル以来、日本をはじめ、北米など海外でも根強く支持されているグローバルモデルがホンダのアコードだ。先代モデルとなる10代目アコードは、国内では2020年2月に発売。新開発プラットフォームや独自の2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」、ヘッドアップディスプレイなど、当時最新の技術を搭載したが、2023年1月に販売終了。比較的短命に終わっている。
そんなアコードの11代目となる新型モデルは、2022年11月に北米仕様が公表され、2023年初頭より現地での販売を開始。その後、中国やメキシコなど、海外で順次発売されているが、いよいよ国内仕様車が2023年9月21日に、同社の公式ホームページで公開され、先行予約の受け付けを2023年12月より開始予定だという。
シンプルで上質な雰囲気にこだわった外観
新型アコードのフロントマスク(写真:三木宏章)
国内仕様プロトタイプの外観は、シャープなフロントのメッシュグリルと、前照灯をブラックアウト化し、DRL(デイタイムランニングライト)を強調したフルLED薄型ヘッドライトが力強いフェイスデザインを表現していることがポイント。また、同じくLEDタイプのテールランプには、横一文字デザインを採用。ワイド感と先進性を強調した、個性的なリアビューを演出している。
全体のフォルムは、先代モデルでも好評だったロー&ワイドなスタイルを継承。シンプルで上品な雰囲気を継続しつつも、先代モデルと比べ全長を伸ばすことで、よりロングノーズでスポーティなスタイルを実現する。また、リアピラーをさらに傾斜させるなどで、全体的にのびやかで動きのあるシルエットを演出。
新型アコードのサイドビュー(写真:三木宏章)
ちなみに、新型モデルのボディサイズは未公開だが、先代モデルは全長4900mm×全幅1860mm×全高1450mm、ホイールベース2830mm。ホンダの開発者によれば、「全高やホイールベースは先代モデルと同サイズ」だという。なお、北米仕様車は、全長を約70mm延長、リアのトレッドも約10mm拡大していることが発表されている。ボディサイズは仕向地によって変わることも多いため、一概にはいえないが、国内仕様車もそれら数値とさほど変わらないサイズ感になることは予想できる。
新型アコードのインテリア(写真:三木宏章)
一方、内装では、ここ数年に登場したホンダ車のトレンドといえる水平基調のインストルメントパネルを採用し、見通しのいい前方視界を実現する。シートなどに高級レザーを用いたインテリアのカラーは、ピアノブラックを基調とし、各部に微細立体柄の金属調高輝度フィルムを装備することで、高級感を演出。また、手が触れやすい部分には、柔らかい感触のソフトマテリアルを用いることで、乗車時の心地よさにも貢献する。
新型の内装は、光の演出により、上質感や快適性を追求していることも特徴だ。インパネラインやドアラインなど、各部にアンビエントライトを採用。これは、レッドやブルー、ホワイトやアンバーなど、さまざまな色調が用意されているマルチカラーのLEDライトだ。例えば、通常はホワイトのライトが、エアコンの設定温度を上げるとレッドに変わったり、逆に下げるとブルーになったりするなど、車両の設定と連動して光が変化するギミックを用いている。
ドアを開けた際には、アンビエントライトがアンバーに発光する(写真:三木宏章)
また、ドアを開けた際は、ブルーのライトがアンバーになるなどで、後方から近づく車両や歩行者がいないことを確認するよう注意喚起するといった機能を持つ。なお、カラーは、一定時間(約2分間隔)で自動に変化する「レコメンドカラーモード」で全7色、好きな1色を選んで固定する「テーマカラーモード」では全10色から選ぶことができる。
運転中でも操作しやすいインターフェースとHMI
ディスプレイオーディオ下の操作しやすい位置にエクスペリエンス・セレクションダイヤルを配置(写真:三木宏章)
さまざまな装備を持つ近年のクルマでは、各機能のスイッチ類が、いかに直感的で使いやすいのかも重要なファクターだ。いわゆる「HMI(Human Machine Interface/ヒューマン・マシン・インターフェースの略)」と呼ばれる概念だが、新型アコードはこの点についても、かなり革新的な新装備を採用している。
まず、12.3インチという大型のディスプレイオーディオと、さまざまなスイッチ類を統合した集中スイッチ「エクスペリエンス・セレクションダイヤル」の搭載だ。例えば、エアコンの設定温度を変えたい場合、エクスペリエンス・セレクションダイヤルをまわすと、ディスプレイオーディオにセレクターが表示され、「おすすめAUTO」「すずしめAUTO」「あたたかめAUTO」「急速冷房」などの各モードが現れる。ダイヤルを回転させ好みのモードを選び、ダイヤルを押せば選んだモードに設定が切り替わる。
予め各種設定をしておけば、エクスペリエンス・セレクションダイヤルの操作だけで一発でその設定を呼び出すことも可能(写真:三木宏章)
さらに便利なのが、エアコンだけでなく、オーディオのソースや音量、照明などの各機能を、ユーザーの好みに応じて一括設定できる機能だ。例えば、通勤時に、自分がいつも設定するエアコンの温度や風量、走行時によく聞く音楽やその音量、アンビエントライトの照明色などを登録すれば、すべて一発で呼び出すことができる。なお、設定は最大8セットまで登録可能なため、さまざまなユーザーに応じたパーソナライズができる。
メーター表示のバリエーションも豊富になっている(写真:三木宏章)
ほかにも新型アコードでは、新型の10.2インチ・フルグラフィックのバイザーレス液晶メーターも装備する。右に速度計、左にパワーメーターを設置するほか、中央にマルチインフォメーションディスプレイを採用。安全運転支援システムの作動状況やパワーフロー、航続距離や燃費など、さまざまな情報をより見やすく表示できるようになっている。
さらに、先代モデルにも装備されていたヘッドアップディスプレイも、サイズを11.5インチ相当に変更。より大画角化することで、走行速度や安全支援システムの作動状況、ナビと連動した進路案内といった運転に重要な情報を、一目でわかりやすく把握できるような工夫がなされている。
グーグル・ビルトイン搭載で進化したコネクテッド
グーグルアシスタントにも対応しているので、「OKグーグル、◯◯をして」のように呼びかければ、音声認識によってさまざまな操作が可能(写真:三木宏章)
新型アコードは、前述のとおり、コネクテッド機能についても、グーグル・ビルトインの新採用で、より機能が充実していることもトピックだ。まずは、グーグルアシスタントを使った音声操作。最初に「OKグーグル」とクルマに呼びかけるだけでシステムが作動し、スイッチ操作なしで、さまざまな設定を可能とする。
例えば、グーグルマップで目的地までのルート案内を設定したいとき、「OKグーグル、○○○駅まで案内して」と話しかけると、目的地を検索し、自動でルート案内を開始する。一方、「OKグーグル、○○○駅はどこ?」といった感じで話した場合は、場所を検索して表示はするが、ルート案内までは自動で行わない。話し方次第で表示や機能が変わるので、その点は慣れが必要だろう。なお、ルート案内は、前述の新型液晶メーターにも表示が可能。運転中にドライバーの視線移動をより少なくできる。また、ナビはメーターで確認、ディスプレイオーディオには、音楽などほかのアプリ情報を表示するといった、マルチタスクを行うことができる。
さらにエアコンなど、車両側の機能を音声で操作することも可能だ。例えば、「OKグーグル、エアコンの温度を25度にして」といえば、エアコンの設定を指示した温度に自動で変更する。また、「OKグーグル、あとどれくらい走れる?」と尋ねると、走行可能な航続距離を表示。「OKグーグル、シートヒーターをつけて」といえば、シートヒーターも自動で作動するなど、スイッチ類に一切触れることなく、声だけで多様な機能の設定変更ができる。
ほかにも、グーグルプレイの機能により、ストアにアクセスし、音楽など好きなアプリをインストールすることも可能。車載ソフトウェアなどを自動でアップデートするOTA(OVER THE AIR)機能もあり、車両のOSやグーグルアプリなどを、常に最新の状態で使うこともできるという。
ホンダセンシング360について
ホンダセンシング360の操作については、ハンドル右側にあるボタンから行う(写真:三木宏章)
安全運転支援システムのアップデートも新型モデルの注目点で、最新の「ホンダセンシング360」を搭載する。約100度の有効水平画角を持つフロントセンサーカメラと、フロントレーダーと各コーナーに計5台のミリ波レーダーを採用することで、クルマの周囲360度をセンシングするのがこのシステムだ。具体的には、ホンダが従来から採用するホンダセンシングの機能に加え、「前方交差車両警報」「車線変更時衝突抑制機能」「車線変更支援機能」が追加されている。
前方交差車両警報は低速走行時や停車から発車する際、左右前方から接近する交差車両の情報をドライバーへ通知する機能。出合い頭の事故などの低減に貢献する。車線変更時衝突抑制機能は車線変更時に、後方から接近する隣車線の車両との衝突回避を支援する機能。車線変更支援機能は、高速道路や自動車専用道で、渋滞追従機能付きACC(アダプティブ・クルーズコントロール)とLKAS(車線維持支援システム)が作動中に、一定の条件を満たした状態でドライバーがウインカー操作をすると、システムが車線変更するためのハンドル操作を支援する機能だ。
さらに新型アコードでは、「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)」も追加。高速道路での低速走行時も、前走車の車速変化に合わせながら車間距離を保ち、車線の中央付近を維持するようにステアリング操作をアシストする。ほかにも駐車や出庫時にステアリングやアクセル、ブレーキ、シフト操作を自動で制御して運転を支援する「ホンダパーキングアシスト」なども新採用されている。
ちなみに、ホンダによれば、2025年には、さらに機能を進化させた次世代ホンダセンシング360を導入予定だという。詳細は未発表だが、いわゆる「ハンズオフ機能」も追加されるようだ。これにより、ドライバーの異常や周辺環境を的確に検知し事故のリスクを減らすことで、ドライバーの運転負担をさらに軽減することを目指すという。
パワートレーンについて
新型アコードに搭載された2.0Lハイブリッドユニット(写真:三木宏章)
新型アコードのパワートレーンは、先代モデルと同様に、2.0Lエンジンと独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせていることが特徴だ。先代アコードのエンジンには、ポート噴射式を採用していたが、新型では直噴式に変更。また、走行用と充電用といった2つのモーターを内蔵する電気式CVTでは、従来の同軸モーターから平行軸モーターを採用するなどのアップデートを行っている。これらにより、さらに静粛性が向上。また、モーターのトルクもアップしたことで、発進時などでよりストレスのない加速感を味わえるという。
なお、新型パワートレーンについても、最高出力など詳細なスペックは未公表だ。参考までに、北米仕様車では、トータルのシステム出力で204馬力を発揮するという。先代モデルは余裕ある走りにも定評があっただけに、新型の国内仕様車では、どのような乗り味を味わえるのかも気になるところだ。
気になる価格について
新型アコードのリアシート(写真:三木宏章)
新型アコードは、先代モデルと同様に1グレードのみの展開で、ボディカラーは5タイプを設定する。「プラチナホワイト・パール」「メテオロイドグレー・メタリック」「クリスタルブラック・パール」に加え、新色の「イグナイトレッド・メタリック」や「キャニオンリバーブルー・メタリック」も選べる。
価格についても、未公表だ。先代モデルの価格(税込み)は465万円だったが、国内モデル初となる先進の技術や装備がかなり投入されているため、上がることは間違いないだろう。価格アップについては、ホンダの開発者も認めているものの、「それほど著しく上げることはない」という。
ちなみに、やはりホンダ開発者によれば、新型モデルの競合車としては、トヨタが2023年秋に発売を予定する「クラウンセダン」や、レクサス「IS」あたりを想定しているという。クラウンセダンも価格は未発表だが、ISの価格(税込み)は最も安い2.0LターボエンジンのIS300で481万円。ハイブリッド車の最安モデルであれば、2.5LハイブリッドのIS300hが527万円だ。ホンダが、これらをもし競合と考えているとすれば、新型アコードの価格は、安くても500万円台前半になることが予想できる。
ホンダがアコードで狙うユーザー層
新型アコードのラゲージスペース(写真:三木宏章)
アコードは、先に述べたとおり、50年近い長い年月で根強い人気を持つロングセラーモデルだ。ただし、国内では、近年セダンモデルの人気は凋落の一途。そうした傾向はホンダ車も例外ではない。かつてフラッグシップだった大型セダン「レジェンド」はすでにラインナップから消滅しているし、アコードの先代モデルも、これも先述したとおり、発売から約3年で販売終了という、最近のモデルとしては短命に終わっている。
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そんな中、あえてセダンのスタイルを継承して登場したのが新型アコードだ。先代モデルでは、昔からのホンダファンなど、「50代後半から60代」といった高い年齢層のユーザーが主流だったそうだ。ホンダによれば、新型モデルのターゲット層は、それら従来のコアユーザーに加え、「40代後半〜50代前半」の比較的若い層も取り込みたいという。
そして、そのために、ここで紹介したような先進装備を数多く投入したのが新型アコードだ。さらに、ホンダでは、このモデルを「今後登場する国内仕様車の基軸となる」とも言及する。それほど、今回搭載する新しい機能や技術は、ホンダがかなりの自信を持って世に送り出したものだといえる。
いずれにしろ、ホンダのこうした戦略が、いかに市場に受け入れられ、ホンダ伝統のブランドといえる「アコードの復権」へとつながるのかが興味深い。
(平塚 直樹 : ライター&エディター)