指差しオーダーではさまざまなトラブルも(写真: Ushico / PIXTA)

飲食店で食事をする際に、どのようにオーダーしているだろうか。

DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいる飲食店であれば、タッチパネルやスマホからオーダーすることになるが、そうでない場合には、スタッフに直接オーダーすることになる。口頭で注文する方法が一般的だが、メニューを指で差して伝える“指差しオーダー”もよく使われる方法だ。

この指差しオーダーは、ファインダイニング(高級レストラン)では有用だ。たとえば、デートや接待などでレストランに訪れると、ホスト側には価格が記載されたメニューが、ゲスト側には価格が記されていないメニューが渡される。

ワインをオーダーする際に、ホスト側はソムリエに予算を相談するが、「白ワインは8000円くらいで」「総額2万円以内」と生々しい金額を伝えるのは、ゲスト側が価格をわかってしまうため、はばかられるものだ。指差しオーダーを用いると、ボトルで2万円のワインを指で差して「これくらいの予算で白と赤を1本ずつ」「赤ワインはこれくらいまで」と、ゲスト側に価格を知られることなく、スマートにオーダーすることができる。

オーダーミスが増える可能性も

その一方、ファインダイニング以外の飲食店のスタッフからは、あまり好ましくないという話も聞く。

客の指差しが速いと、どこを指しているのかを見落としたり、指差ししている料理を勘違いしてハンディ(注文内容を入力するシステム)を打ち間違えたり、伝票の記入が追いつかなかったりする。結局ミスを回避するために、客にオーダー内容を聞き直すことになるので、店員にとっては二度手間になる。

オーダーミスは、客にとっても、飲食店にとっても嬉しくない。飲食店側は、返品された料理を廃棄しなければならないので、損害や食品ロスが生じる。客のもとへ謝罪しに行ったり、作り直したりすることになるので、調理スタッフや、サービススタッフの労働コストも余計にかかってしまう。客からの信頼感が損なわれることは、いうまでもない。

客側は、食事が来るまで待たされたり、作り直してもらえなかったり、クレーマーだと思われたりすることがある。

また指差し以外に、口頭でオーダーすることもあるだろう。口頭オーダーでは、メニュー名で注文することがほとんどだが、振られた番号や記号などで伝えることもある。スタッフにオススメを教えてもらい、「それください」と伝えたり、「(数々オススメされたものの中から)2つ目のやつ」「最後のもの」などと伝えることも多い。


スタッフにオススメを聞くなど、口頭での注文もさまざま(写真:Fast&Slow / PIXTA)

同じテーブルですでに注文したものについて「これと同じもの」と注文したり、ほかのテーブルやスタッフが運んでいるものに対して「あれを」「隣のテーブルの」と伝えたりすることもある。口頭オーダーといっても、状況によって実にさまざまだ。

ちなみに同じテーブルのものを指差すのは、好ましくはないものの、身内や友人の料理であるため、まだ許容範囲だろう。だが、ほかのテーブルのものに対して指を差すのは、他人に指を差す行為と同じであり、失礼にあたるので控えたほうがよいだろう。(どうしてもほかのテーブルと同じ料理を注文したい場合には、指差しではなく、手の平を上に向けて人差し指から小指までを伸ばして揃え「こちら」「あちら」と伝えたほうがよい)

話し方で店員が聞き間違える可能性も

口頭オーダーでは、客が似たような料理と伝え間違えたり、頭の中で考えた料理と別の料理名を注文してしまうことも少なくない。

ぼそぼそとした話し方や、声の小ささ、滑舌の悪さ、周囲が騒がしかったりすると、スタッフも聞き間違えやすくなるだろう。客とスタッフ、どちらかが悪いこともあれば、どちらも悪い場合もある。

スタッフ側が、口頭でのオーダーミスを防ぐには、復唱することが基本中の基本だ。しかしそれだけでは、まだサービスのスペシャリストとはいえないだろう。客がオーダーをするときに、メニューのどのあたりを見ているのかを、目で追う必要がある。

そうすれば、客が勘違いしたり、言い間違えたときに気づきやすくなるからだ。これができるようになるためには、頭の中で店のメニューをすべて把握し、1つひとつの料理がどのあたりに書いてあるかなど、きちんと網羅されていなければならないため、難易度は高い。

根本的な対策方法もある。オーダーミスが起きやすいメニューについては、メニュー名を改善するのが有効だ。長すぎたり、読みづらかったりする名称を改めたり、カタカナの外国語名だけではなく日本語の和名も併記したり、名前が似通っているものを整理したりすると、店側も客も間違いを起こしにくくなる。

口頭と指差しオーダーの併用を

そして、口頭によるオーダーミスを防ぐには、指差しオーダーとの併用が非常に効果的だ。口頭で聞くだけではなく、指差しでどの料理を指しているのか確認することができる。

冒頭でも指摘したように、指差しオーダーの欠点としては、指差しの速度が速すぎて追いつかないという問題がある。しかし口頭で料理名を伝えることで、どの料理を注文しようとしているのか、目と耳の両方で確認することができる。また、曖昧に指差ししていたとしても、口頭からの情報もあるので間違えにくくなるはずだ。

指差しオーダーのみをオーダー方法にするのは心もとないが、口頭でのオーダーと併せることで、ミスを減らすことができるのだ。

さらには、言葉があまり通じない外国人であったり、耳があまりよくないスタッフがいたりする場合であれば、指差しオーダーとの併用はより大きな力を発揮する。

飲食店における食体験は、ほかには代えがたいものがある。指差しオーダーと口頭オーダーを上手に用いて、おいしい料理や飲み物を誤解のないように注文し、楽しいひと時を過ごしてもらいたい。

(東龍 : グルメジャーナリスト)