ちょうど旬を迎えているブドウの、おいしい食べ方をご紹介します。写真はシャインマスカットとピオーネ。この2品種での味変を感じるのも楽しい(写真:Rhetorica/PIXTA)

日中の暑さはまだまだ真夏のようだが、朝晩は涼しくなってきた。スーパーの品ぞろえから「秋」を感じる場面も増えてきたのではないだろうか。

特に目につくのは果物だろう。モモ、ナシ、ブドウにリンゴ。カキと極早生の温州ミカンももうすぐだ。

こんな果物に引き寄せられて、売り場で手に取るものの、そっと棚に戻すーー。そんな人も少なくないのではないか。

実際、果物の消費量は減っている。日本における一人1日あたりの果物の摂取重量は、98.9gで、もっとも多かった1975年の約半分しかない。

「旬のおいしい果物を食べたい」

この本能に近い欲求は消えてはいないはずなのだが、なぜ私たちはここまで果物離れしてしまっているのか。

日本人はなぜ果物を食べなくなったのか

40年前にはなかったおいしいお菓子がたくさん登場したことも、果物離れの原因のひとつだろう。手の込んだスイーツを気軽にコンビニで買えるようになって、おやつに果物を思い浮かべることは減った。

しかし、ほかにも重要な理由があると思う。筆者なりの結論はこうだ。

日本人が果物を食べなくなった理由はおそらく“恐怖感”からではないかーー。失敗を恐れる気持ち、といったほうが正確だろう。具体的には2つあると思う。


青果売り場でつい諦めて帰ったことはないだろうか…(画像:zafira / PIXTA)

まずは、選び方がわからず、あまりおいしくない商品を選んでしまう怖さ。数百円から1000円を払って買ったのに、いざ家で食べてみたら思ったより口にあわないーー。青果なので味や鮮度は当然まちまちだが、いつ食べても変わらず美味しいお菓子などに慣れてしまった現代人には、ちょっとハードルが高い食べ物になってしまっている。

もう1つは、よい商品を選んだはずなのに、食べ頃を逃してしまう怖さ、だ。一番おいしいタイミングで食べようと思って冷蔵庫に入れていたのに、ついうっかり食べ頃を逃してしまった、という経験をしたことがある人は多いのではないか。

ブドウは”買ったとき”が一番おいしい

こうしたリスクが比較的、低い果物がある。それが今、ちょうど旬を迎えているブドウだ。今シーズンは「シャインマスカット」の値段が下がり、ぐっと買いやすくもなっている

ブドウは、西洋ナシやメロンのように家で一番おいしいタイミングを見計らう必要がない果物だ。

ブドウは買ったときが1番おいしい。鮮度については軸が緑色の商品を選べば解決。あとはそれを家でどれだけもたせるかがポイント、ということだけ覚えておけばいいので簡単だ。

買ったり頂いたりしたブドウの房は、すぐに食べ切れる量を越えていたら、食べ切れない分は粒のもとの軸のところからキッチンバサミで1粒ずつ切り離すそれをキッチンペーパーを敷いたタッパーに並べて密閉し、冷蔵庫に入れておく。それだけで軽く1週間以上はもつ。

それでも食べ切れそうにない場合には、そのままタッパーごと冷凍庫に移し替えて、好きなときに解凍して食べればよい。冷凍できるとなるとぐっと日持ちし、1週間というタイムリミットを短く感じる人にも、かなり気楽に感じられるのではないだろうか。

また、食べる側から見たときのブドウの利点は、1粒が他の果物に比べて小さいこと。鮮度を気にして一気に食べ切るという、無理をしなくて済む。ブドウは簡単に味が落ちることもないし、また食べたくなったら、そのときの気分に合わせて食べたい量だけ食べればいい。密閉チャック付きの袋菓子と同じ気分で楽しめる

ブドウもそうだが、最近の果物は甘く改良されている。消費者にとってこれはうれしいことだが、甘くなったがために、食べ飽きやすくなるというデメリットがある。そのため、最後のほうは無理して食べ切るような気持ちになったりすることが増えているのだ。

山梨県のブドウの匠たちに、もっとも食べ飽きない品種について尋ねてみたことがある。驚いたのは、全員が全員同じ品種の名前を挙げたことだ。

その品種の名は「甲州」。鎌倉時代には存在が確認されており、日本でのみ栽培されていた古い品種だ。ワイン好きの人にはおなじみだろう。


プロたちが飽きないと口をそろえる「甲州」(写真:久保田園で撮影)

「甲州」は、もともと糖度がそれほど高くならない品種。甘すぎると感じない糖度なうえに、甘みと酸味のバランスが抜群なのだ。そのため食べ飽きない。「甲州」好きは、果肉を種ごとのみ込むようにして、一人でいちどに1房2房平気で食べ切ってしまう。

頻繁にスーパーで見かける品種とは言えないが、もし見かけたら買ってみるといいかもしれない。

おすすめは「2品種」同時買い

ここまで読んでブドウにがぜん興味がわいてきた人へ、ここからはおすすめの「食べ方」を紹介したい。

それは、ブドウを買う場合には、一度に2房、異なる品種を買ってみることだ。「シャインマスカット」と「巨峰」、「シャインマスカット」と「ピオーネ」といった形でだ。

ブドウが他の果物よりも面白いところは、品種の違いによって味がかなり異なること。簡単に味変できるこの特徴を楽しまなければもったいない。

ちなみに筆者イチオシの組み合わせは、「シャインマスカット」と「クインニーナ」

一度に2房とか3房とはとても買う気にはなれないという人、もしくは高額だと思う人は、ふるさと納税を活用する手もある。ブドウ3品種セットなどが出ているので、それを選ぶのも面白いかもしれない。

いきつけのスーパーでは複数品種を売っていないという人には、ぶどう狩りもおすすめしたい。なぜなら観光ぶどう狩り園では、想像以上に多くの品種を育てていることが多いからだ。この点は、少数の品種だけ栽培していることが多いいちご狩り農園などと比べても、別の魅力がある。

たとえば「マスカット・オブ・アレキサンドリア」。通称「マスカット」。業界人は「アレキ」と呼ぶこの高級ブドウは2000年前から存在する品種と言われる。「マスカット」は極端な例としても、「マニキュアフィンガー」「ジャスミン」「ロザリオビアンコ」「サニードルチェ」「ヌーベルローズ」など、名前を見ただけで味わってみたくなる品種が、観光ぶどう狩り園には植えられている

大昔の品種と現代の最新品種の食べ比べまでできると思うと、ちょっと楽しくなってくる人もいるのではないか。熱烈なファンに支持されて古い品種がいまだに細々と生産し続けられている現状があり、多くの品種を生産しているぶどう園に行けば、店頭で見かけることのない自分好みの品種に出会えたりする。

推しの品種を見つけたときの喜びは、プライスレス。そんな心境にまでなれたら、毎年のブドウの季節がぐっと心躍るものになるはずだ。

日本有数のブドウの産地、山梨県勝沼町

では、おすすめの産地はどこか。ずばり、首都圏に住むの人の場合は、山梨県勝沼町だろう。日本有数のブドウの産地で、観光ぶどう狩り園も多い。あの「甲州」が発見された古くからのブドウ産地なだけに、珍しい品種もたくさん残されている。いまのシーズンであれば、一度に10品種程度は試食できるはずだ。


観光ぶどう園を訪れるメリットは、複数の品種を食べ比べできること。農園の人におすすめを聞くのも楽しい。写真は久保田園(写真:筆者撮影)

観光ぶどう園のうれしいところは、そのときに一番おいしい状態で収穫できる品種を、まず試食できること。

お気に入りの品種を見つけたところで、その木に案内してもらって自分で収穫したり、農園の人においしそうな房を選んでもらったりする。こうすれば自分の好みにあわないハズレを引く危険性は限りなくゼロになる。

同じ家族でも、ブドウの味の好みがバラバラなことはよくあるそうだ。ということは、家でブドウを食べるとき、それまでは誰かが味について妥協していたことになる。こういう発見や、たわいもない家族の会話、それから帰宅後にぶどう園での思い出とともに何回かに分けて味わうおいしいブドウ。このような体験はお菓子では味わえないはずだ。

ブドウの旬は10月上旬頃まで。スーパーで、ぶどう農園で選ぶ際の参考にしてほしい。

(竹下 大学 : 品種ナビゲーター)