第2次岸田再改造内閣が発足し官邸入りする河野太郎デジタル相。デジタル行財政改革担当大臣も兼務し、各省庁から集めた準備室50人の指揮を執る(写真:ロイター/アフロ)

9月13日に発足した第2次岸田再改造内閣。そこで目玉政策に掲げる「デジタル行財政改革」だが、新組織のいびつさが際立つ。予算枠の統廃合も前途多難だ。

「内閣改造に合わせて、官房に人を出してくれないか」

9月上旬、霞が関の各省庁幹部に急な打診があった。依頼元は、首相官邸近くの内閣府庁舎に陣取る「内閣官房副長官補室」。通称・補室(ほしつ)。官庁取りまとめ役の藤井健志副長官補(大蔵省1985年入省)を筆頭に、各省庁の精鋭が集められ、官邸の意向を実現するべく、各省庁へ指示を送り、時には意見を吸い上げる。

補室が集めたのは、第2次岸田再改造内閣が目玉政策に掲げる「デジタル行財政改革」を担当する官僚だった。デジタル行財政改革とは、官邸の説明によれば、「デジタル化による行財政改革で国と地方自治体の事務を効率化する」というものだ。

人材を出し渋る「塩対応」も

岸田政権は「田園都市」「臨時行政調査会」という1970〜1980年代に成功した政策に「デジタル」という言葉を冠した政策を打ち出してきた。「デジタル行財政改革」も同様の発想とみられる。

ただ、行政のDXはすでにデジタル庁、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が推進している。既存政策と重複することや、概念があいまいだったことから、人を出し渋る「塩対応」をした官庁もあったもようだ。

調整の結果、内閣官房デジタル行財政改革準備室に50人が集められた。50人というと大所帯に聞こえるが、出身省庁のポストからは動かずに、併任するケースも一定程度いるとみられる。内閣官房には、首相の肝煎り案件、あるいは、地球温暖化対策や新型コロナウイルスといった重要政策に省庁横断で当たるため、対策室が作られることがある。今回もこのパターンで人が集められた。

デジタル行財政改革担当相は河野太郎デジタル相が務めるが、後述するように、自見英子地方創生相との間で業務がいびつに分断される結果となった。

準備室の事務方トップである室長(次官級)は、今夏まで国税庁長官を務めた阪田渉氏(大蔵省1988年)が就く。阪田氏は財務省時代、主計局が長かった。主計局は各省の予算を査定する立場で、「その予算、本当に必要ですか」という問いかけは基本動作だ。今回の行財政改革にその知見が生かされそうだ。

「屋上屋を架す」「組織の重複」といった声も

ナンバー2には総務省から小川康則氏(自治省1991年)が局長級として送り込まれた。小川氏は、直近は自治行政局で審議官級のポストを務め、「行政畑」(選挙、デジタル化、マイナンバーなどの自治体の事務・運営、地方分権政策を指す)が長い。

総務省は審議官級として吉田宏平情報通信政策課長(郵政省1994年)も送り込んだ。吉田氏は7月の定期異動で、デジタル庁出向から総務省に戻ったばかりだった。このほか、デジタル行政の一角を担う経済産業省も課長級を出した。

今回のデジタル行財政改革の部署新設については、「屋上屋を架す」「組織の重複」といった声が霞が関や地方自治体からあがってくる。

岸田政権はすでに、デジタルや行政の改革を進めるための有識者会議「デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)」を設置済みだ。

さらに、地方自治体のDXについては、これまでデジタル田園都市事務局が司令塔の役割を担ってきた。同事務局は、第2次安倍政権の看板政策であった地方創生を実行する「まち・ひと・しごと創生本部事務局」が前身で、岸田政権発足時に名前を変えた。

しかも、デジタル田園都市事務局にはすでに人材がそろっている。事務局長(次官級)の吉川浩民氏(1988年自治省)は7月の定期人事異動までは総務省自治行政局長を務め、自治体DXの推進やマイナンバーカード普及に当たってきた。デジタル行財政改革を担う力量は十分ある。

組織の重複とともに、問題となっているのが、自治体DX担当部署の分断だ。

デジタル田園都市事務局が制度設計した自治体のデジタル実装の予算は、内閣府の地方創生推進事務局が決定する。また、「DXによる地方振興」という、時には共通・重複するテーマを扱うため、デジタル田園都市事務局と地方創生事務局は一体となって政策を運営している。両局の担当大臣は岡田直樹氏が務めていた。

河野・自見大臣で事務が分断

しかし、今回の内閣改造でデジタル田園都市事務局は河野デジタル相、地方創生事務局は自見地方創生相の所管に分かれてしまった。河野氏の下で、デジタル田園都市とデジタル行財政改革の事務重複を整理するためとみられる。

ただ、これでは、デジタル田園都市事務局と地方創生の両事務局の連携は難しく、地方自治体も予算の要望活動や政策の問い合わせをどちらの大臣にすればいいのかわからなくなってしまう。

実は、第2次岸田内閣発足当初、担当大臣は、地方創生が野田聖子氏、デジタル田園都市が若宮健嗣氏であることから、自治体はもちろん、身内の霞が関官僚からも「すみ分けがわからない」との批判があった。2022年8月の内閣改造で両事務局の大臣を岡田氏に一本化して、関係者は安堵していたところだった。

河野担当相は会見で「(行財政改革について)約1700の市区町村の首長と順次オンラインで対話したい」と意気込んだ。しかし、自治体側にすれば、自見地方創生相にも重複して説明をするのは避けたいところだろう。

屋上屋を架したうえに、いびつに分断された組織はどこへ向かうのか。河野担当相は会見で、「デジタル行財政改革という大きなドームを建てたので、下の屋根はいらない。デジ庁にはデジタル臨調会議があるが、上に屋根がかかったら要らないということになる。会議体はさっさと整理したい」と有識者会議や担当部署の統廃合を進める意向を示した。

ただ、予算枠は簡単にやりくりできない。先述の自治体のデジタル実装支援予算の原資は、デジタル田園都市国家構想交付金だ。交付金は安倍政権が創設した「地方創生推進交付金」が前身で、デジタル実装のほか、観光や農林振興、移住促進の支援金も出している。一連の交付金は2016年度の発足以来、毎年度、1600億〜1900億円程度(当初、補正合計ベース)を拠出してきた。自治体が総額にこだわっていることから1600億円を下回ったことはなかった。

予算統廃合は前途多難

2022年度は交付金総額1800億円のうち、自治体のデジタル実装には400億円が充てられた。官邸では、このデジタル実装予算を、新部署へ統合する案も検討されているとみられる。しかし、デジタル実装の400億円を別部署に付け替えれば、交付金総額は従来の最低ラインである1600億円を下回る。自治体や、地元対策を気にする国会議員からの反発は必至だ。かといって、自治体デジタル実装の予算を新設するのは本末転倒だ。

河野担当相は組織の統廃合作業に言及したが、こうした作業が発生するのも、デジタル行財政改革準備室を作ったからにほかならない。内閣改造の話題作りとして目に見える新設部署を作るのは常套手段だが、既存組織の活用も行財政改革の立派な選択肢だったはずだ。

(種市 房子 : ライター)