2022年8月23日にデビューし、発売から1年が経過したトヨタの3代目シエンタ(写真:トヨタ自動車)

5ナンバーの小型車枠に収まるワゴン車のトヨタ「シエンタ」は、2022年8月23日にフルモデルチェンジをしたあと、翌9月に、いきなり7785台の販売実績(一般社団法人日本自動車販売協会連合会の統計)を記録した。トヨタが月販基準台数として発表している8300台に迫る台数であり、さらに10月にはそれを上まわる1万739台を売った。

発売して1年、3代目シエンタの販売状況


2003年に登場した初代シエンタ(写真:トヨタ自動車)

シエンタは、2003年9月に初代が誕生し、2代目は2015年から7年販売が続けられた。それでも、モデルチェンジ前まで6000台を超えて売れていた月もあり、3000〜4000台は堅いという堅実な販売動向であった。とはいえ、競合とみられるホンダ「フリード」に先行される状況でもあった。

それもフルモデルチェンジで情勢は一気に逆転し、販売台数はもちろんのこと、月販台数の順位で昨年9月は6位、10月には2位にまで上り詰め、現在は、1位「ヤリス」、2位「カローラ」、3位シエンタの順がほぼ定着したといっていい好調ぶりである。


SUV車のヤリス クロス。カローラも同様にSUV車やステーションワゴンなどもあり、それらも販売台数に反映されている(写真:トヨタ自動車)

ちなみに、ヤリスの販売台数の統計は、2ボックスのハッチバック車(スポーツモデルのGRヤリス含む)とSUV(スポーツ多目的車)である「ヤリス クロス」の合計の数値である。カローラも、4ドアセダンに加え、ステーションワゴンの「カローラ ツーリング」、SUVの「カローラ クロス」の合計台数である。それに対し、シエンタはワゴン車ただ1車種での月販台数なので、その人気は群を抜いているともいえる。


2015年にデビューした2代目シエンタ(写真:トヨタ自動車)

新型シエンタの商品性は基本的に2代目を踏襲するが、技術的側面で、ヤリスから導入されたコンパクトカー向けTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)が適用されている。これによって性能は一段と向上した。動力は、排気量1.5Lガソリンエンジンと、1.5Lガソリンエンジンにモーターを組み合わせたハイブリッドの2種類である。ハイブリッド車は、WLTCで28.8km/Lの燃費性能を持つ。


シエンタの車いす仕様車“タイプ供塀手席側セカンドシート無)”(写真:トヨタ自動車)

車いすで乗れる福祉車両も、従来はガソリンエンジン車のみの設定だったが、新型からハイブリッド車も選べるようになった。また、新たな取り組みとして、後席位置に車椅子を乗せる際、一般に車体後ろへスロープを引き出して車いすを乗り降りさせるが、新型シエンタでは、リアバンパーを使ったショートスロープと呼ぶ手法が開発され、選択肢に加えられた。これにより、車両後方へ長いスロープを引き出さなくても車いすでの乗降ができるようになる。トヨタは、長年にわたり福祉車両の開発や進化、そして普及に熱心に取り組んでいる。新型シエンタに新設定されたショートスロープは、せまい場所での利用を広げ、より多くの人が移動できる福祉車両の世界を拡張している。

室内空間をさらに広く、より便利で使いやすく進化


シエンタの室内(写真:トヨタ自動車)

シエンタの基本的魅力の進化として、3代目の開発では、これまでの利用者の声を十分に聞き、室内空間を改良したという。

具体的には、天井までの室内高さが2cm高くなり、それにともない、荷室の天井までの高さも2cm増えている。乗員の頭の横方向の空間も6cmのゆとりが生まれているとのことだ。数cmという寸法は小さな差に感じられるが、空間としてとらえると広々とした印象を強める。


2列シート車のフラットラゲージモード(写真:トヨタ自動車)

2列目となる後席は、背もたれを前へ倒して荷室の床面積を広げる際、より平らな面を構成できるようになり、荷室を併用した広い空間での車中泊も快適になりそうだ。

シエンタは、5ナンバー車でありながらミニバンのように3列目の座席(7人乗り)がある選択肢もある。その3列目を2列目の座席位置まで倒しこむことにより、2列目の座席を前方へあらかじめ倒しておくことで、2名乗車では商用バンのような広々とした荷室を使うこともできる。身近な乗用の小型ワゴン車でありながら、貨物車のような広い荷室での荷物の運搬もできる機能は、余暇にも仕事にも兼用できる機能性を持つ。


3列シート車のサードシートアレンジモード(写真:トヨタ自動車)

同乗者への改良点では、後席への乗降用のスライドドアが、より高い位置まで開き、高さ1.2mの開口が得られるようになった。子供の乗り降りがよりしやすくなるだけでなく、高齢者もあまり腰をかがめず出入りできる。またキーを持って床下に足を差し入れると、自動でスライドドアを開閉できる機能もあり、両手に荷物を持っていたり、子供を抱きかかえていたりする際も、そのまま後席へ乗り込むことができる。

親しみやすいインテリアも特徴のひとつ


シエンタのインテリア。内装色はカーキ(写真:トヨタ自動車)

車内は、一般的に樹脂で成形した表面のダッシュボードであるところを、ファブリックを用いた水平基調の造形とし、人にやさしい印象を強めている。そして黒以外に、カーキやフロマージュといった座席を含む室内色を選ぶことができ、やさしさや親しみのある室内空間を感じることができるのではないか。

シエンタという基本的価値に加え、新たな魅力を追加した新型シエンタの販売動向は冒頭に述べたとおりだ。

その内訳を、トヨタ広報部に尋ねると、ハイブリッド車とガソリン車の販売比率は、約7:3であるという。ガソリン価格の高値安定に加え、原油の供給や円安などを含めた世界情勢によりさらなる価格上昇が懸念される今日、ハイブリッド車への期待は高まっていそうだ。


1.5Lダイナミックフォースエンジンとシリーズパラレルハイブリッドを組み合わせたシエンタのパワートレイン(写真:トヨタ自動車)

実際、ガソリンエンジン車とハイブリッド車の燃費性能を比較すると、エントリーモデルのXで、7人乗りを選んだ場合、ガソリン車が18.3km/Lであるのに対し、ハイブリッド車は28.5km/Lである。ハイブリッド車は1.6倍近い燃費のよさだ。

車格では、最上級のZグレードがハイブリッド車とガソリンエンジン車ともに高い人気となっている。次いで、Gグレードという中間車格だ。


シエンタで一番人気のあるボディカラー「アーバンカーキ」(写真:トヨタ自動車)

車体色は、新型シエンタの訴求色でもあるアーバンカーキと呼ばれる緑色が人気で、次いでホワイトパール、ブラックの順となる。販売の上位人気3車種の内装は、黒が基本だが、カーキとフロマージュを選ぶことができる。外装色とともに、自然な風合いを求める消費者が増えているのではないか。

人も荷物も載せられる利便性の高いラゲージスペース


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購入者の声として大きいとされるのが、3列目の座席のダイブインという2列目の座席下にしまい込む仕組みだ。「コンパクト車であるのに大きな荷物をたくさん載せられ非常に便利」と、評判だ。

競合のホンダ・フリードもすでに7年目という長い期間での販売となっており、近いうちにモデルチェンジをするかもしれない。とはいえ、新型シエンタの販売動向は、ヤリスやカローラさえ脅かしかねない勢いがあり、コロナ禍や半導体不足といった生産の制約を受けながら、これほどまでの人気を保っている様子は、好調な販売動向といえるのではないだろうか。

(御堀 直嗣 : モータージャーナリスト)