この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

この1年間、小売企業はShopify(ショッピファイ)とAmazonとの主導権争いに巻き込まれていた。

ShopifyとAmazonはこれまで、Shopifyの加盟店がバイウィズプライム(Buy With Prime)を使用する権利があるかどうかについて争ってきた。バイウィズプライムはAmazonが2002年にリリースしたツールだ。このツールによって、ブランドは自社サイトで取り扱う商品をAmazonのプライム(Prime)配送の対象にすることができる。Shopifyは昨年、Amazonのバイウィズプライムサービスが自社のサービス利用規約に違反していることを理由に、このサービスを使わないよう加盟店に警告した。具体的には、Shopifyのサービス利用規約では加盟店に対し、「オンラインストアに関連するあらゆる販売について」、Shopifyチェックアウトを使用するよう義務付けている。

しかし、8月30日に両社は和解した。ShopifyとAmazonのフルフィルメントネットワークの両方を使用するブランドは、近日中に、Shopifyアプリのエコシステム内からバイウィズプライムのアプリを追加して、Shopifyチェックアウトと直接統合し、Shopifyペイメントで処理を行えるようになる。このアプリは、一部のShopify加盟店に対して招待専用で運用が開始され、9月末までにはAmazonのフルフィルメントネットワークをすでに使用している、または使用を望む、米国を拠点とするすべてのShopify加盟店が利用できるようになる。

米モダンリテールと対談した開発者や小売業者は、両社のあいだの対立が解決されたことで、ブランドはどちらかのプラットフォームだけを選ぶことを迫られず、双方で簡単に販売を行えるようになると語った。Shopifyでビジネスを創業したブルックリネン(Brooklinen)やキャラウェイ(Caraway)といった多くの新興企業は、これまで何年にもわたり、売上のさらなる増加を求めてAmazonでも商品の販売をはじめた。ShopifyとAmazonの関係が改善したことは、今日のeコマース新興企業の多くがShopifyとAmazonの両方で商品を販売することを求めており、両社が共存の方法を模索する必要性が高まりつつあるという認識が業界で広まってきたことを示している。

「大きな前進」



ネタリココマース(Netalico Commerce)の創設者でアプリ開発者であるマーク・ウィリアム・ルイス氏は、Shopifyが、Amazonとの交渉において、ビッグコマース(BigCommerce)やマジェント(Magento)など、Amazonとのより優れたシームレスな統合を(好んでか否かにかかわらず)実現している競合他社に小売企業を奪われることを回避するため、「妥協線」に達した可能性があると語った。

「Shopifyはオープンであり続け、こうした統合をサポートしたいと考えている。加盟店がすでにAmazonで多くの販売を行っている場合、自社のD2CサイトがAmazonと極めて緊密に統合されることを望むだろう」と同氏は述べている。

コーヒー業者のエクスプローラーコールドブリュー(Explorer Cold Brew)の創設者ケイソン・クレーン氏は、「eコマースの最大手2社が共同で、eコマースを、我々のような中小企業にとってより良いものにしてくれることは、大きな勝利だ」と、述べる。同氏の企業はこの2年間にわたってShopifyとAmazonを通じて販売してきた。

「最初のベータテストの時期からShopifyストアでバイウィズプライムを使用してきた。出品者のフィードバックにShopifyが迅速に対応し、製品を改善し続けてくれることは、非常に励みになる。これは大きな前進でもある」と同氏は付け加えた。

コンバージョンの増加に期待



寝具ブランド、ハッシュブランケット(Hush Blankets)の共同創業者アーロン・スピバック氏は、加盟店がShopifyのエコシステム内でプライムの恩恵を受けることを、Amazonが認めたことが何より重要だとしている。「顧客がブランドの商品をオンラインで買い求めるときの体験が、Amazonのプライムで買い物をする体験とほぼ同じなら、コンバージョンが増えることは間違いない」と同氏は述べている。

スピバック氏は、買い物客は、Amazonプライムでの体験を強く信頼しているとも述べた。「顧客は快適な環境で買い物をすることを望んでおり、多くの顧客は明らかにAmazonでの買い物をとても快適だと感じ、迅速に配送されることに信頼を置いている」。

「今回の発表により、我々のようなブランドは、両方のプラットフォームで簡単に販売を行えるようになる」と、AmazonとShopifyの両方で7年間にわたって販売を行ってきた同氏は付け加えた。

旧来のバイウィズプライムの問題点



フルフィルメント by Amazon(Fulfilled by Amazon)を利用していたShopifyの販売者は、バイウィズプライムのバッジをテストすることができ、最終的に買い物客をAmazonの決済ページに誘導することができた。ルイス氏は、自分のクライアントのうち2社は従来バージョンのバイウィズプライムを使っていたが、Shopifyから禁止されることはなかったと語る。

しかし、注文の処理が通常と異なっていたため、これらのクライアントはデータの欠如から困難に直面したと同氏は語る。「加盟店は、たとえば、Shopifyにおける注文の増加と、Amazonにおける注文の増加を追跡するときにいろいろと苦労していた。双方のプラットフォームが同じシステムにデータを送らないためだ」。

クレーン氏は、初期バージョンのバイウィズプライムをShopifyで使用した場合、eコマース体験に「中断されるような感じ」があり、販売者としては顧客がウェブサイトを離れるのを決して望まないと述べている。同氏は、Shopifyが統合された1つのレジを一括管理することは利点であり、「コンバージョンで証明されるだろうと思っている」と付け加えた。クレーン氏が、エクスプローラーコールドブリューのShopifyストアでバイウィズプライムのテストを開始して以来、新規顧客数が全体で15%増加したという。

スピバック氏は、以前はバイウィズプライムとの統合は非常に困難で、大量の手作業と開発を必要とするプロセスだったと語る。「統合アプリほど簡単ではなく、非常に厄介な作業だった。2つのシステムを接続するのに多くの手作業を要し、それ以降も動作し続けるように手作業での保守が必要だった」と同氏は説明している。

クレーン氏は、ShopifyとAmazonはこれから「混在カートがどのように動作するのか、セット販売などをどのように実現するか」といった問題点を解決する必要があると指摘している。

「競合他社と提携するようなものだ」



スピバック氏は、双方がこの点でより広範囲にわたって協力するようになったことで、最大の課題はフルフィルメントの部分になるだろうと述べる。Shopifyブランドの多くは、長年にわたって個人的な関係を築いてきたサードパーティーロジスティクス(3PL)を使用している。これに対してAmazonは、フルフィルメントの要件が非常に厳格で、特定の方法でフルフィルメントを行う。「そのため、すべてのブランドでうまくいくわけではないだろう」と同氏は付け加える。

「究極的には、これはAppleが競合他社のひとつと提携するようなものだ。ShopifyとAmazonは何年にもわたって競争が激しかったが、この動きは両社が協力することも可能だと示した」と、スピバック氏は述べている。

[原文:Shopify ends standoff with Amazon on Buy With Prime, leaving merchants relieved]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Shopify