【VIVANT・最終回】今年最大のヒットドラマなのに「続編は白紙」のワケ

今年最大のヒットドラマとなったTBS「日曜劇場 VIVANT」(日曜午後9時)が最終回を迎える。あまりの人気に早くも「続編決定」との声まで上がっているが、残念ながら何も決まっていない。ここまで愛されたのはどうしてか。そのファイナルアンサーをお届けしたい。
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「この顔ぶれを再び同じ時期に集めるのは至難」
「VIVANT」の続編は大歓迎されるに違いないが、TBSコンテンツ制作局ドラマ制作部の1人は取材に対し、こう答えた。
「続編については全く白紙です。何も決まっていません。現在は(このドラマを)配信動画で流したり、海外で販売したりして、2次利用収入を得る作業をしているところ」(TBSドラマ制作部関係者)
制作現場の中からは「続編をやりたい」という声も出ているそうだが、決定にはテレビ局の司令塔である編成局のゴーサインが不可欠。スポンサーとの窓口である営業局との協議も必須となる。

出演陣の都合もある。続編をやるとなったら、自衛隊の秘密諜報部隊・別班の一員である主人公・乃木憂助役の堺雅人(49)、その父親でテロ組織・テントのリーダーであるノゴーン・ベキこと乃木卓役の役所広司(67)、警視庁公安部・野崎守役の阿部寛(59)らを再び集めなくてはならない。
「この顔ぶれを再び同じ時期に集めるのは至難でしょう」(同・TBSドラマ制作部関係者)
主要人物役の1人として出演した俳優が所属する芸能事務所のマネージャーにも尋ねてみたが「何も聞いていない」そうだ。
今回の場合、上級執行役員の福澤克雄監督(59)が年明けに定年を迎えるため、縁が深い豪華俳優陣が馳せ参じた。福澤監督は定年後もTBSに嘱託などの形で残り、ドラマを撮り続けることになるようだが、続編をつくるとなると事情が違ってくる。
制作費の問題もある。今回はTBSと資本関係がある会員制有料配信動画サービス「U-NEXT」での配信が決まっていたことなどから、1話当たり約1億円の制作費を拠出できた。続編で再び巨額が出せるかどうかは未知数。
豪華出演陣と同様、これだけの制作費も容易には出せない。ちなみに通常の「日曜劇場」の制作費は1話当たり約4000万円で、そのほかの民放1時間ドラマは約3000万円である。
先のことは忘れ、「VIVANT」の最終回を楽しみたい。観る側を強く惹き付けた理由を分析したい。
観る側の好奇心を掻き立てた「別班」の存在
別班の存在を巡っては、軍事ジャーナリストの間で「ある」「ない」と意見が割れている。また、防衛省は「過去も現在も存在しない」としているが、石破茂元防衛相(66)は「存在している」と語った(「週刊文春」2023年9月14日号)。
内情どころか、存在の有無がはっきりせず謎めいているが、だからこそドラマの題材に絶好だった。観る側の好奇心を掻き立てた。
別班がよく知られる組織だったら、1話で自爆テロを起こしたテントのアル=ザイール(エルハム・バヤル)が憂助に向かって「お前がヴィヴァンか?」と言った途端、それが別班だと察しがついてしまう恐れがあった。すると興ざめしただろう。
また、別班の役割も不明だったから、興味をそそられた。別班に目を付け、原作を書いた福澤監督の作戦勝ちにほかならない。
ストーリーは謎を数珠つなぎにして、視聴者の関心を片時も逸らさなかった。「VIVANTの意味は何か(1、2話)」、「別班は誰なのか(2〜4話)」、「誤送金事件の真相(1〜4話)」、「テントとベキの正体(4〜9話)」――。
一方で謎以外のストーリーも見応えがあり、なおかつテンポが良かった。「憂助たちのバルカ警察からの逃走劇(1〜3話)」、「誤送金事件の犯人でテントのモニターだった丸菱商事・山本巧(迫田孝也、46)の処刑(4話)」、「野崎が憂助の過去を突き止め、憂助は父親がベキだと知る(5話)」、「公安と別班の攻防戦(6話)」、「憂助が別班の仲間4人を銃で撃ち、テントに潜入(7話)」――。
謎解きに歯ごたえがある一方、それ以外の部分でも視聴者を釘付けにした。胸のすくような展開の連続だった。福澤氏の監督作「半沢直樹」(2013年、2020年)の脚本を書いた八津弘幸氏ら4人の脚本家チームの功績だ。
八津氏がメインで全話書き、そこに李正美氏、山本奈奈氏、宮本勇人氏の3人が交代で1人ずつ加わった。毎話2人体制。だから、絡み合った糸のような物語が紡げた。1人の脚本家が全話書くドラマも多いから、贅沢極まりない体制である。
日本テレビの大ヒットドラマ「家なき子」(1994年)のチーフプロデューサーで前社長の小杉善信氏(69)に、大当たりするドラマの条件を問うた際、こんな答えがあった。
「早く観たい、今すぐ観たい、来週まで待ちきれない。そう観る方に思ってもらえるドラマ」
「VIVANT」はまさにそう。視聴者はストーリーの進展や謎の答えを一刻も早く知りたがった。「録画やTVerで後から観ればいいや」と思わせにくかった。これが熱狂を生み、高視聴率につながった。
CGをほぼ使わず…一般的なドラマと違う映像
映像の特長はまずCGをほとんど使っていないこと。だから、映像に説得力や迫力があった。2話でバルカ共和国の砂漠にいた憂助、野崎、医師の柚木薫(二階堂ふみ・28)、ドラム(富栄ドラム・31)を襲った砂は本物。7話で憂助と柚木の抱擁の舞台となった美しく幻想的な桜並木もまた本物だった。
NHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜午後8時)はCGの馬を使い、大顰蹙を買った。現段階のCGではどうしても本物には敵わない。ただし、本物は金がかかる。
地味に思ってしまいがちな国内編にも金と手間が掛けられた。6話で憂助は凄腕ハッカーの太田梨歩(飯沼愛・20)を匿ったマンションに向かうため、商店街を進んだ。背後には尾行する警視庁公安部刑事の新庄浩太郎(竜星涼・30)がいた。
商店街はまるで年末セールのような賑わいだった。だが、これは全てスタッフが作り出したもの。エキストラだ。本物の人混みの中では撮影許可が下りない。第一、通行人が一般市民だったら、堺と竜星に寄ってきてしまい、撮影にならない。ほかのドラマに人混みのシーンが少ないのは金と手間の問題である。
1話の時点で約束されていた成功
7月17日放送の1話の世帯視聴率が11.5%と判明した際、一部で「低い」との声が上がった(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)。もっとも、世帯視聴率は3年半前から放送界もスポンサーも使っていない。
放送関係者の現在の物差しである個人全体視聴率は7.4%だった。個人全体視聴率は6%超えでヒット、8%超えで大ヒットが目安だから、十分高かった。しかも、視聴率が伸びにくい2時間拡大版だったことを忘れてはならない。
なにより目を引いたのは1話のT層(13〜19歳)の個人視聴率だった。4.9%にも達していた。ほかのドラマの2倍弱から3倍以上。1%に満たないドラマもあるから驚異的と言ってもよく、他局でも話題となった。
10代は普段、テレビをあまり観ない。2021年の総務省調べによると、平日1日にテレビを観る時間は平均で僅か約57分。50代の約3時間7分とは大差がある。そんな10代が観るドラマは個人全体視聴率が上昇する。上の世代はもとからテレビを観るからだ。
また、いつの時代も流行を牽引するのは若者。10代が観るドラマは活気づき、世間の話題になる。
その後もT層の個人視聴率は高く、9話は7.7%だった。謎を考察できることや迫力ある映像などが10代を惹き付けるのだろう。
ちなみに9話の個人全体視聴率は9.8%。堂々の大ヒットである。
最終回まで緩まないストーリー
答えが出ていない謎がまだ数多い。整理してみたい。
まず、テントのテロの最終標的が日本という説が流れている理由。40年前、ベキは警視庁公安部員で、バルカで潜入捜査をしていたが、同国の内乱中に公安から見捨てられた。それが基で一時は公安を恨んだが、もう水に流した。
「私が祖国を狙うはずがない」(ベキ、9話)
しかし、元テントのアリ(山中崇、45)、テントのモニター・山本と複数の関係者が日本標的説を証言していたことから、全くのデマとは思えない。黒幕はベキの養子でテント大幹部のノコル(二宮和也、40)か、それとも別の裏切り者がいるのか。その人物は秘かに日本でのテロを計画しているのかも知れない。
テントが資金源にしようとしているのは、レアアースのフローライト。その情報がバルカ政府に漏れた件も謎だ。誰が内通者なのか。
ほかにも、公安がベキを見捨てた理由も焦点になる。さらに憂助と柚木の関係の行方、ジャミーン(ナンディン・エルデネ・ホンゴルズラ)が野崎を敬遠するわけも気になる。
最終回は8話で記録された個人全体視聴率の最高値である10.1%を超えるのではないか。放送が終わった途端、多くの人がロスに襲われるのは間違いない。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。
デイリー新潮編集部