食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。CASE1 松島大介〈パドラーズコーヒー〉共同代表

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おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

松島大介 〈パドラーズコーヒー〉共同代表

まつしま・だいすけ/1985年、東京生まれ。高校・大学時代をポートランドで過ごし、2015年に〈パドラーズコーヒー〉を開業。中野区でカフェ〈ルー〉を経営。リノベーション事業〈ルースタジオ〉も始動。

「おいしい枝豆を好きな器で、好きなビールと」

枝豆は、自然栽培の野菜を中心に扱う〈青果ミコト屋〉から。塩で揉んで5分置き、水から茹でると、さやの中の豆がふっくらするそう。仕上げに、ゲランドの結晶塩。「練り上げ」という技法で作られたお気に入りの器に盛り、ファムトムブルワー〈ホーボーブルーイング〉に依頼して造った〈ルー〉オリジナルビールと。

「好き」を脈絡なく詰め込んだ、人を表す部屋。

約55屬2LDK、庭付きの一軒家。築年数は五十余年。1階はリビングダイニングキッチン、2階は6畳と4.5畳の2室。バスルームやトイレもリノベーションした。

松島大介さんが暮らすのは、古い木造の一軒家。新しい家より、古い部屋に手を加える。ジャンクもアートも「好き」を基準に選ぶ。人柄が滲む、愛おしい部屋の作り方。「コーヒー? 家では飲まないですね。店に飲みに行けばいいので」店というのはもちろん、松島大介さんが8年前に開いた渋谷区西原の〈パドラーズコーヒー〉のことだ。近所の常連客と同じように、〈パドラーズ〉を給水所やミーティングルーム使いする松島さんの自宅は、そこから徒歩圏内の住宅地にある。東京都中野区生まれ、15歳で単身アメリカに渡り、10代の半分をポートランドで過ごしている。東京の飲食業界きってのシティボーイ、そして国際派。そんな松島さんが住まいとして選んだのは、築五十余年、木造2階建ての一軒家だ。1階はリビングダイニングキッチンとバス、トイレ。2階にはかつてふすまで仕切られていた2部屋が並び、寝室と、衣類の収納として使っている。2フロア、約55屬2LDKを、自身のプロデュースでフルリノベーションした。

1.「エアコンが隠れているだけで、部屋の印象ががらりと変わります」と松島さん。雑貨やオブジェは、アメリカ、イスラエル、スウェーデンからと多国籍。2.ドアとトルティーヤウォーマー形のドアノブはオリジナル。鍵形のドアノッカーは、ヴィンテージ。3.まるで古着店のよう。小さな部屋を丸ごと収納に、というアイデア。

アメリカ西海岸の風が吹く昭和生まれの一軒家。「住居というパーソナルな空間のリノベーションは、僕が今やりたいことの一つです。単なる内装の修繕だけでなく、絵や家具選びだとか、音楽まで。そこで“どう暮らしたいか”、その相談役みたいな仕事がしたい」まずは自分の空間、暮らしから。大改修の許可を条件に、好立地でも借り手が見つからない古い一戸建てを、格安の家賃で借りるに至ったのだ。和室の畳を外し、床や壁、天井は、すべて張り変える。間仕切りの壁は柱と鴨居を覆い、アール形に。古い和風建築にはない曲線のデザインは、空間の大きなアクセントだ。小さな物入れは、ふすまを外して棚板を渡し、オーディオスペースを兼ねた飾り棚として活用している。「建築家が設計した家に名作家具が並ぶような部屋ももちろん素敵だけれど、古いものが好きだし、建物の構造ありき、制約の中で工夫するのが楽しい。自分で手をかければ、どことも似ていない部屋ができます」昭和感が色濃く表れる古いシステムキッチンは、戸棚の戸をすべて作り変えた。建材は安価な合板だが、塗料には仕上がりの質感まで妥協せずコストをかける。取っ手は、友人の木工作家・小石宗右さんが徳島県の木工所で作るオリジナルだ。「木製のランプシェードやドアノブも、小石くんにお願いしました。もの作りをする仲間を巻き込んで、ありそうでなかったものを、手が届く価格で。どんな住居にもアジャストするものを製品化していくのも、これからやっていきたいことです」これまで〈パドラーズコーヒー〉や〈ルー〉で実践してきた空間作りと同じ。それを住宅に落とし込む作業だ。

ジャンクもファインも一緒くたの混沌。インテリアについての多くを、海外の、とりわけポートランドの友人たちから学んだという。「とにかく好きなものを集める、飾る。植物でも置物でもなんでも。壁の使い方がとても上手で、好きなアーティストの絵から家族写真まで、脈絡のないものを本当にうまく飾るんです。するとどうなるか。住む人の人となりが部屋に滲み出る」キッチンの窓は、昭和のすりガラスをそのまま残す。小さな冷蔵庫も年季の入った国産品だ。でもレンジフードはオーダーメイドで、色にも形にもこだわった。業務用のガスコンロで北欧ヴィンテージの鍋が湯を沸かし、“いい塩梅に”茹でられた枝豆は、広島県〈惣堂窯〉の器に盛られる。絵画やオブジェなどの多くは、松島さんが「アンノウン」と呼ぶ、作者や出所が不明のもの。そこに、さらりと著名なアーティストの作品が隠れていたりする。「あり」と「なし」の間に引かれた、決してまっすぐではない線こそが、松島さんの“人となり”なのだろう。

ESSENTIAL OF DAISUKE MATSUSHIMA音楽も、食も、アートもとことん自分のスタイルで。

( VINYL )( KITCHEN WARE )( ART )

音楽を、よい音質で楽しむ。〈パドラーズコーヒー〉〈ルー〉同様、“ヴィンテージオーディオの神”と呼ばれる職人に依頼した音響設備。スピーカーは1960年代の〈KLH〉。食周りのアイテムもいろいろ。特に料理好きというわけではないが、人を招いてもてなすのは好き。器は〈惣堂窯〉掛谷康樹さんの作品が7割。和洋の料理に映えるお気に入りだ。ジャンクからファインアートまで。ソファの上の大きな絵は、ヴィンテージショップで、3万〜4万円程度で求めたもの。その脇に小さなフィリップ・ワイズベッカー。さり気ない。

photo_Norio Kidera illustration_ Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

No. 1224

No.1224 『京都の味』 2023年08月28日 発売号

今号から、Hanakoがリニューアルします。 Hanakoが創刊時から大事にしてきたDNA・食と旅を軸にして。 領域は、家の食事を楽しむためのインテリアと道具、旅の持ち物、日本各地のカルチャー情報も……。 一時的な情報だけでなく、読者のみなさんにとって、Hanakoの記事が刺激となり、脳内シナプスが多方向につながり、楽しいことがどんどん広がって、新しい世界が開いていく特集を作っていきます。 リニューアル第一号は、京都の味について考えます。 平安時代に始まり、戦国時代を通して、現代へ。古くから、日本人が京都を目指すの …

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