この記事をまとめると

■昔のクルマには車種名とは違う「愛称」で呼ばれていたものも多い

■最近のクルマには愛称が付かないことが多い

■相性がないのには、なんでもハラスメントになりかねない社会的風潮も影響している

いまのクルマにもあだ名を付けたくなるモデルはある!

 編集部からもらったお題のなかで目に留まったのが、「いま愛称のあるクルマがない理由」。そういえば何でだろうと思って、ワケをぼんやり考えてみた。

 まず、愛称やニックネームの類で呼ばれても不思議でないクルマはいまも存在する。三菱デリカD:5が「電気カミソリ」「シェーバー」の異名を持つのは知られたところ。また、かつての初代ホンダZが「水中メガネ」、6代目にあたる日産スカイライン(R31型)の後期型RS系が「鉄仮面」と呼ばれていたように、スズキ・ワゴンRスマイルは「眼鏡っ子」、BMW iXのコワモテは初代ガンダムと最後に戦った「ジオング」と呼ばれてもおかしくない(最後のふたつは筆者の愚作)。

 つまり、愛称のあるクルマがなくなったというより、クルマを愛称で呼ぶことがなくなったのだ。

 その理由について、ない頭を絞ってみる。クルマに愛称がついた時代より車種が大幅に増えた。軽自動車を除いてグローバルモデルが主力を占めるようになった。ハッチバックもSUVもミニバンも、基本的にはどのクルマも同じようなカタチになってきた。などという点が挙げられると思う。

 しかし、一番大きく影響しているのは、ユーザーマインドの変化ではないだろうか。一般大衆にとってマイカーを持つことが現実的になったとはいえ、まだ贅沢だった1960〜70年代。多くの人々はクルマという存在にいまよりも憧れを抱き、その愛情表現としてまさしく「愛称」やニックネームが自然発生的に生まれた。

 カブトムシ(VWタイプ1)にはじまり、カニ目(オースチン・ヒーレー スプライト)、テントウムシ(スバル360)、ダルマ(初代トヨタ・セリカ)、クジラ(4代目トヨタ・クラウン)、ハマグリ(2代目日産シルビア)などなど。愛称に用いられたのは生き物を中心とした比較的身近なものがほとんどで、何かと物騒でとげとげしいいまの時代からするとホッコリするような、素朴な愛がにじみ出ている。マヨネーズ(初代いすゞ ピアッツァ)、ウーパールーパー(3代目ホンダ・インテグラの前期型)なんてところも懐かしい。

人間も「あだ名」をやめる時代

 愛称やニックネームを使わなくなった理由としてもうひとつ思い当たるのは、「相手にあだ名を使うのはやめて、『さん』づけで呼びましょう」という現在の社会的風潮だ。

 とくに学校では、2013年にいじめ防止対策推進法が施行されてから、そうした指導が行われることが増えたという。あだ名は身体的な特徴や癖などからつけられることが多く、あだ名で呼ばれた人が不快に感じれば、それはいじめ行為にあたるというものだ。

 クルマの愛称も見た目の特徴に由来したものがほとんど。なかには「ブタケツ」(2代目日産ローレル)や「ブタ目」(3代目トヨタ・コロナマークII)といった、愛称というより蔑称といったほうがよさそうなものも確かにある。「あだ名禁止」には賛否両論あるが、相手をいじめるつもりはけっしてなくても、知らず知らずのうちに嫌な思いをさせるとしたら、もちろんいいことではない。

 部下に軽く注意をしても、女子に「かわいいね」といっても、ややもするとハラスメントといわれる時代。クルマが愛称で呼ばれることは、今後ますますなくなるのかもしれない。何とも世知辛い世の中である。