自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長 (C)Hiroki Homma

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新型コロナウイルス感染症の影響で競馬が無観客開催になったのは 2020年2月末。以来、 無観客でもずっとレースを続けてきた競馬。多くのスポーツが中止になったコロナ禍で、なぜ競馬は開催され続けたのか。昨今、競馬場に観客の声が戻ってきて以前の日常に 戻りつつあるいま、「競馬のおはなし」は、自民党競馬推進議員連盟(以下、競馬議連)の 橋本聖子会長にインタビューし、競馬が開催され続けた理由と、いま競馬界が直面する課題を聞いた。

凱旋門賞ドウデュース・武豊の足元を支えた「鐙(アブミ)」Made in Japanで“世界の頂”へ…町工場の挑戦秘話公営競技は止められない

――2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルス感染症ですが、2020年2月1日から「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」と位置付けられて以降の約3年間、競馬は中止されることなく開催され続けましたね。

橋本 私は当時、競馬や競輪などの開催をやめたら大変なことになると思っていました。

――でも、あらゆる行事やスポーツ大会が中止・延期になっていましたから、競馬も中止になるのかなと思っていました。

橋本 そうでしたね。コロナ禍のもとの自粛ムードはものすごい濃度で充満していましたからね。スポーツ大会はもちろんですけど、 スポーツジムまで営業中止になりましたから……。五輪担当大臣だったこともあって、いろいろなことを考えました。様々な競技が中止か延期という状況の中でしたが、 社会に還元する意味合いもある競馬は止められたら困ると思っていました。

――なぜでしょうか?

橋本 競馬は公営競技です。JRA(日本中央競馬会=管轄は農林水産省)の売り上げの一部は国に納められ(※1)、畜産振興などに使われています。地方競馬(自治体が出資した競馬組合が主催)の売り上げの一部も、各自治体に納められています(2021年度の全国合計額=約33.2億円)。

(※1)
国庫納付金の仕組みは、例えば、100円の勝馬投票券のうち、約75円はお客様への払戻金に充てられ、残りの約25円が控除される。この約25円のうち、10円が国庫に納付され、これが第1国庫納付金と呼ばれる。残りの約15円がJRAの運営に充てられ、これにより各事業年度において利益が生じた場合には、その額の2分の1がさらに国庫に納付され、これが第2国庫納付金と呼ばれる。この国庫納付金は国の一般財源に繰り入れられ、そのうちの4分の3が畜産振興に、4分の1が社会福祉に活用されている。

――競馬の開催をやめるとJRAなら国、地方競馬なら自治体の収入が減るということですね。

橋本 そうなんです。公営競技で得られたお金は、国や自治体の財布に入るわけですから、さまざまな目的に使うことができます。生活を豊かにするのに使えるのです。コロナ対策にも回すことが出来ますし、でもそういう公営競技の仕組みを知らない人が多いんですね。それをどう理解してもらうのかということだと思いますし、仕組みを知らないと一律的にやめるべきだとなる人もいます。実際にそういう声も聞きました。地方競馬を主催する自治体の職員でも、開催しない方が無難なのではと言う人が多かったという印象が強く残っています。

競馬議連が地道に行った“電話作戦”
自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長 (C)Hiroki Homma

――競馬組合の中にいる自治体の職員にも「競馬も一律的に中止にすべきだ」と考えた人が多かったのでしょうか?

橋本 行政にはよくあることですが、どこかが中止を決めると、みんなが横並びで中止にしてしまう。その状況を1番危惧しました。実際に現場ではどうしたら良いのか判断に困ることも、言いづらいこともたくさんありますから、だからこそ議連が手分けして、JRAや地方競馬を主催する自治体などに電話をして意思確認をしていきました。

――自治体の反応はどうでしたか。

橋本 濃淡はありましたが、皆さんの総意として「無観客でも開催できる」ということだったので、ストップさせないで、開催できる方法を考えていこうという話になりました。

――競馬議連がそういう活動をしていたのですね。

橋本 実は地道に……(笑)。こうした競馬議連の活動を知っている人はほとんどいないと思います。

――その一方で、競馬にあまり関心のない人たちからは「競馬はギャンブルだ」ということで、「なぜこんなときに競馬を開催するんだ」という意見もありましたか?

橋本 ネットの中ではあったのかもしれませんが、私たちは聞きませんでしたね。むしろ、「開催を続けてくれてありがとう」という声が100パーセントに近かったかなという印象です。

――ということは、公営競技の重要性をある程度理解していただけたのですね。

橋本 コロナ禍でも競馬を中止にしなかったことを通じて、公営競技とその他のスポーツが少し違う別な形のものだというのは、理解していただけたんではないかなと思っています。

実家が牧場だからわかる「競馬は基幹産業」

――競馬を中止してはいけない理由として、国や自治体のお金を還元する公営競技であることのほかに、競馬サークルの裾野の広さや、いったん競走をやめてしまった馬が、その後の調教やコンディションの調整などもあって、再開するのが難しくなるという面もありそうですね。

橋本 もうこれは、馬に限らないことです。人の肉体の強化も馬の強化も一緒ですから、止められないのは、どのスポーツも同じですよね。

――橋本会長は北海道の早来町(現・安平町)で生まれ、小学校・中学校時代を過ごしていますが、実家は、競走馬を生産する牧場ですよね。競馬サークルにも強い思い入れがあるのだと思っていました。

橋本 小さいころはよく父に連れられて、ばんえい競馬を見に行っていました。私にとって、競馬は生活そのものでした。

――橋本牧場といえば、マルゼンスキーですね。

橋本 父が屋号の「丸善」から命名しました。当時、持ち込み馬が出走できないというJRAの決まりがあったので仕方ないことですが、1977年のダービーに出られなかったのは残念でした。

ーー今もたくさんの競走馬を送り出されていますね。

橋本 馬産地にとっては、競馬は文化であり産業です。北海道では競馬は基幹産業なんです。競馬がなくなったら、馬産地周辺に産業がなくなってしまう。

――そういう視点で競馬を見られているんですね。

橋本 馬産地のことを知らない方々には、なかなかわからない感覚かもしれません。でも、「競馬はギャンブルだ」と主張する一定数の人たちいることは確かですが、公営競技から得られるお金は社会貢献に役立っている側面もあります。

――私たち「競馬のおはなし」は競馬や馬に関するウェブニュースメディアですが、ギャンブルを扱ったウェブメディアというだけで「なんか生きづらいな」と思う瞬間が結構あります。いわゆる予想はほぼ扱わないのですが、怪しい予想を売っているんじゃないかとか、ニュースという側面を評価していただけないことが多々ありますね。

橋本 先ほども言いましたけれど、私の中では、競馬は小さいころから当たり前に存在する生活の一部でした。ギャンブルという発想はありません。競馬が生み出したお金がどれだけの人を救ったのか、どれだけ社会に還元されているのか。競馬の役割は非常に重要なものだ、ということを多くの方にわかっていただけたらというのが、競馬議連の活動のひとつですね。

競馬サークルの声に耳を傾けて…
自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長 (C)Hiroki Homma

――競馬議連は2003年にできました。どういう経緯があったのでしょうか?

橋本 物事が良い時には陳情ごとがありません。きっかけは、2002年に益田競馬場(島根)が廃場になったことです。当時、地方競馬場が続々と廃場したり、廃場に向けた検討を始めたりしていました。実はこの判断は、「進むも地獄、引くも地獄」なんです。続ければ赤字。廃場するのにしても、競馬場で商売をしている飲食業の人たちにどう理解してもらうかという問題も出てくるなど、問題が広く派生するんです。

――存続派と廃場派で対立しそうですね。

橋本 そうなんです。直接競馬に関わっている方々はもちろん存続に向けて頑張ります。その一方で、自治体の人たちは赤字を解消していかなければならないという責任感もありますから、「どうやったら廃場できるんですか」と聞いてくるわけです。それぞれの立場で見る視点も違いますから、意見が対立してしまうのはしょうがないところはあると思います。

――その利害を調整して結論を出す手助けをするのが競馬議連の役割ということでしょうか。

橋本 そうですね。現場で双方の話を聞いて、より正しい判断ができるように環境づくりをする必要があるということで、競馬議連ができました。

――その意見対立をどう解消するんですか?

橋本 現実問題として地方競馬単独では事業を継続していけない。これが当時の結論でした。だから、JRAとどう連携をとっていくかということが大事になってきます。そこで競馬議連は、競馬法の改正をめざすことにしました。

――どのような改正を?

橋本 JRAと地方競馬の関係をもっと密にしていくということです。レースを互いが乗り入れて開催するとか、中央と地方の馬券を買いやすくするといったサービスの補完かもしれないし、金銭的なやり取りもあるかもしれない。そもそも競馬が中央と地方の2つの組織に分かれていることは、世界的には珍しいことかもしれません。以前はやっぱり“一国一制度”だろうという意見もありました。

中央と地方、騎手と調教師、牧場を“マッチング”

――競馬議連が取り組んでいるテーマはありますか。

橋本 ものすごくたくさんあります。競馬サークルには様々な立場の人がいます。JRAと地方競馬。それぞれの傘下には、馬主協会などさまざまな協会がある。そうした各協会が考えていることや描いている将来のビジョンをどう組み合わせていくのがベストなのかっていうことを、議連が考えています。

――そうした話し合いの主導権を競馬議連が握っているということでしょうか?

橋本 それは違います。主導権を握るのはJRAや各地域の競馬組合、騎手や調教師などでつくる各協会です。議連は、各関係者をどうやって繋いでいくのかっていうことに知恵を出し合っています。いわゆるマッチングですね。

――将来を見据えた話ですね。

橋本 競馬は地域にとっての基幹産業ですから、景気の浮き沈みにも耐えられるようにしないといけません。私が若いころは、JRAの売り上げも大きくて、生産頭数もどんどん増えました。でも、2000年に入ってから地方競馬場はどんどん廃場されました。このような状況変化が起きないように、様々な当事者たちが中長期的なビジョンを考えないといけないと思っています。

透明性を確保して活性化を
自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長 (C)Hiroki Homma

――それは競馬ファンの人たちにとってもうれしい話だと思います。

橋本 たとえば、競走馬の売買市場(せり)を活性化させる必要がありますよね。信頼できる場所で売買が成立する仕組みづくりです。一つの例ですが、レントゲンを撮るのも1頭あたり3〜4万円かかります。そういう費用も手当てできる予算の流れをつくりました。そうすることで、安心して馬を売買できるようになりました。

――透明性がありますね。

橋本 透明性のある市場ということになれば、活性化されますよね。ギャンブル=怪しい人がやっているというイメージではなく、透明性の高い取引をしているということが、まずはとても大事なんだと思っています。

――確かにそうですね。でも、最近は官僚の方々も首都圏出身が増えて、農業や競馬の産地に思いを馳せるような人が少なくなってきているのではありませんか?

橋本 いつもありがたいなと思っているのは、農林水産省の競馬監督課は、地方に頻繁に視察に行くなど、現場を直接見てくれています。実際に現場に行けば、地方が抱えている問題と、農水省がすべきことがわかります。そうすると、予算配分も適切になっていくと思います。

課題 牧場の人手不足

――橋本議員がいま気になっていることはありますか?

橋本 競馬場の数は落ち着いてきたかなと思っています。この先、中央、地方ともに場数は変わらないと思います。いまは売り上げがいいですから、撤退するところはないでしょう。そうなると、競走馬の安定供給を考えないといけないと思っています。

――2000年代に地方競馬場が廃場された影響で、競走馬を生産する牧場は減っていますね。

橋本 相当減っています。1万2000頭以上が生産されていた時代もありましたが、一時は7000頭弱まで下がりましたから。それで、いま競馬場の売り上げが伸びているので、市場が活性化されて、売買頭数はまた増加傾向にあります。そうすると、今度は牧場の人手不足が問題になっています。
(出典:(公財)ジャパン・スタッドブック・インターナショナル統計データベースより)

――馬の生産現場も人手不足ですね。

橋本 私の実家は、100頭ほどの馬がいる小さな牧場です。兄とその息子が家族経営でやっています。家族以外に11人の従業員がいるのですが、全員インド人です。寮に入って生活してもらっています。

――地方競馬などに取材に行くと、外国人厩務員の方をお見かけすることがよくあります。

橋本 そうですよね。ノーザンファームでも外国人の方を入れていると聞きました。でも、国の制度で外国人を雇うにはかなり高いハードルがあります。技能実習生の資格が取れているかいないかで違いがありますし、言葉の壁もあります。そういう人手不足をどう解消していくか。現状にはかなり危機感を抱いているので、政治が果たすべき役割があると考えています。

課題 どうする?引退馬
自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長 (C)Hiroki Homma

――ほかに気になる課題はありますか。

橋本 引退馬のその後の処遇をどうするかです。競走馬として活躍したG1馬に対しては、功労馬として余生を送ってもらうお金が出ているんですけど、そうではない馬は行き先がないのが現状です。そういった馬をどう扱っていくのか。

――その点は競馬を取材していると強く同感します。デリケートな問題ですね。

橋本 いま流行っているホースセラピーに引退馬を派遣するというのも一案ですが、毎年たくさんの馬が引退するので、引き取り先としてはごくわずかです。乗馬クラブなどで活躍させたいと思っても、競走馬は神経が細やかで、人を乗せるとおとなしくしていられない馬も多いのが悩ましいところです。先日、欧州に視察に行きました。競馬が生活の中に溶け込んでいるようで、とても驚きました。朝早くから調教しますが、乗っているのは近所の乗馬好きの人で、朝一乗してから出勤するんです。サラブレッドですが穏やかで、例えばレース前日でもとても落ち着いていました。日本では考えられないことです。引退馬の処遇を考える上で大きな可能性を感じました。

――ありがとうございます。そろそろお時間になったようなので、きょうはここまでですが、お忙しいなか、競馬業界全体が抱える課題についてお話をうかがわせていただき、ありがとうございました。競馬の課題に政治がどう関係しているかも少しわかりました。また是非おはなしを聞かせてください。

橋本 私にとって、競馬は生活そのものですし、公営企業として社会に欠かせないものです。競馬について、もっと多くの人たちに理解してほしいと思っているので、まだまだ話したいことがありますから、ぜひぜひ。

自民党競馬推進議員連盟の橋本聖子会長 (C)Hiroki Homma