中国、福建省福州市の琉球館を訪問した玉城沖縄知事(写真:時事通信[沖縄県提供])

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中国、福建省福州市の琉球館を訪問した玉城沖縄知事(写真:時事通信[沖縄県提供])
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――中国が今、世界各地に軍事拠点を作る「プロジェクト141」を進め、同時に「G77プラス中国」の首脳会議を9月に開催と発表。キューバのディアスカネル大統領は「招待国を合わせると、世界人口の80%を代表する」と豪語して、米国はじめ西側諸国との対抗姿勢を示しています。これは中国主導、欧米抜きの「シン世界秩序造り」でありますか?

佐藤 中国は世界制覇など考えてはいません。せいぜい「一路一帯」やシルクロード圏、その辺りで自分たちの勢力圏を維持していくことで精一杯です。だから、それを全世界制覇と考えるのは、米英をはじめとしたアングロサクソン独特の考え方で、自らの野望を逆投影しているのでそういう風に見えるだけです。中露は基本、棲み分けですから。

ただし中国は、日本が自分の影響圏にあると思っています。我々が漢字を使っていることもそのひとつなんです。つまり、中国は世界全体を制覇しようとは思っていませんが、日本は影響下に置こうと思っているということです。

――それは、超ヤバいです!!

佐藤 米国が守ってくれると思ったら大間違いですよ。今のウクライナを見てください。弱いと思った瞬間、守ってくれませんから。

――日本は平和憲法9条で国を守る、物理的にはぜい弱な国だと思います。

佐藤 弱くないところもあります。それはまだ経済力があるから。工業生産の能力でいえが、日本のシェアは世界の15%くらい。米国は7%ですから、工業力だけなら日本は米国の2倍あり、決して弱くはありません。

だから米国はいま、日本からの火薬や弾薬が欲しくてしょうがないんですよ。ところが、自衛隊の弾薬備蓄は一週間分しかないので、貸したくても貸せない状況なのです。

――はい。

佐藤 米国は日本に「工事用火薬でもいいからくれ」と言っています。なぜなら米国は火薬や弾薬すらも作れなくなってきているからです。20年前に大きな事故があり、それ以来、火薬関係の生産ラインを更新していません。

ただ、日本は日本で火薬は儲からないのであまり作っていない。だから日本にはまったく火薬は余ってないんです。

――米国は今度、オーストラリアで155mm砲弾、ロケット砲、弾薬の共同生産をするそうです。次は日本ということですね。ただ共同通信よると、「中国の習近平国家主席が、沖縄県・尖閣諸島に関連して中国と『琉球』の交流に異例の言及をし、波紋が広がっている。中国は日本が台湾問題への関与を強めることを警戒しており、台湾に近い沖縄の帰属を問題化し日本を揺さぶる狙いとの見方もある」とありました。これは日本に、「我々は沖縄の領有を認めないぞ」と警告しているということですか?

佐藤 半分、合っているかもしれませんね。1854年にペリーが日本に来る際、同時に琉球に行っていますよね。

――行っています。

佐藤 その時に「琉米修好条約」を作っています。米国は琉球を主権国家として認めていて、米国議会でも批推され、米大統領が公布しました。その条約文は中国語と英語で書かれており、原文は残っています。すると「1854年の時点で、琉球は独立国だから日本の主権下にはない」という議論は充分に組み立てられます。

さらに、琉球は1855年にフランスと「琉仏修好条約」を、1859年にはオランダと「琉蘭修好条約」を結んでいます。当時の帝国主義の3ヵ国から、江戸時代末期に独立国として認められているということです。だから、そこまで年史を戻せばあり得ますね。

――あり得るんですね! すると、中国が日本に対して沖縄の帰属を問題化するというのは正論かもしれないと。

佐藤 正論になり得ますね。玉城デニー・沖縄県知事が訪中した時、福建省福州市の琉球館を訪問したのは、「沖縄」にとって利益があります。要するに中国と友好関係を築いておけば、中国の国家行為によって沖縄の人間が殺される事はないですからね。

沖縄県民の少なからずが日本の都合で戦争に巻き込まれ、沖縄が再び戦場になるくらいならば日本から分離した方がいいと思っていますよ。だから台湾有事というのは、沖縄の有事に直結しません。むしろ、沖縄が日本から離脱することを選ぶ可能性は十二分にあります。

その辺りの議論は日本では非常に浅い。沖縄は自ら生き残りを考えて、あの中国に対して手を打ち始めています。

――ウチナーンチューは賢明ですね。

佐藤 本当に戦争になる可能性があるんですから、それは必死ですよ。台湾有事は日本有事と煽(あお)られて、沖縄が戦地になるなんて冗談じゃないということです。沖縄の人間は、最後の一人まで戦えというような政治家を嫌います。ウクライナのゼレンスキー政権の国民に対する姿勢は、沖縄戦の際の日本軍を髣髴(ほうふつ)とさせます。

――あっ、なるほど、そう言われるとそうです。

佐藤 沖縄戦の時、首里で決戦をやって、大日本帝国軍が手を上げれていれば、民間人はほとんど死んでなかったはずですからね。だいたい、弾が切れるような戦争をする人間は、戦争指導者として終わってますよ。

次回へ続く。次回の配信は9月上旬予定です。


●佐藤優(さとう・まさる) 
作家、元外務省主任分析官。1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞

取材・文/小峯隆生