不動産投資熱が高まり続けている一方で、投資環境は悪化の一途を辿っている(写真:makaron*/PIXTA)

2006年に中古ワンルーム投資を解説する「ど素人がはじめる不動産投資の本」を出した時、表面利回り10%以下はそもそも相手にしてはいけないと書いた。だが、2023年現在、不動産投資に関心があり、多少なりとも調べたことがある人なら、地方ならいざ知らず、首都圏をはじめとした都市圏でそれだけの利回りが取れる物件がそうそうはないこと、逆に3%、4%という物件すらあることをご存知だろう。

だが、破綻したくないのであれば表面利回り5%以下の区分所有には手を出すべきではないとプロは口を揃える。その理由を聞いた。

投資熱高まる一方、投資環境は悪化

オンライン参加がハードルを下げたのだろう、コロナ以前より若い人が不動産投資セミナー等に参加、投資意欲が一層高まっていることを感じると全国賃貸住宅新聞社取締役の永井ゆかり氏。

かつては中年以降、老後が気になる年代に至って投資を始める人が多かったが、現在は新入社員時点から将来に漠とした不安を感じて投資に関心を持つ人が増加。”楽して儲かる”という刷り込みもあってか、不動産投資熱は上昇の一途を辿っている。

その一方で投資環境は年々悪化している。2014年頃から都心のこれまでの投資対象となっていたアパート、マンションの値上がりが続いており、利回りは年々低下。特に2020年以降は建築資材や住宅設備の価格の値上がり、より広い家を求めるニーズの高まりなどから新築戸建てなど不動産の物件種別によっては2年間で20%近い上昇も見られるほどだ。

その結果、不動産投資市場では築古戸建てに目を向ける人が明らかに増えているのだが、若年の自己資金、年収の少ない層では価格の比較的安い、ローンが組みやすい単身向けの区分所有物件(以下、分かりやすくするためにワンルームと表記)を購入するケースがまだまだ多く、破綻する例も増えてきている。

投資家であり、不動産会社も経営する渡辺よしゆき氏が最近売却を手がけたのは投資のはずなのに、毎月5000円を支払っていたという物件。

「表面利回り4〜5%と言われて購入した2600万円の物件で、家賃は月額8万8000円。そこからローンを返済、管理費、修繕積立金、固定資産税などを差し引くと毎月5000円を支払う結果に。4〜5年払い続けてきたものの、さすがに辛いと売却を相談されました。残債は2400万円。それ以上の額で売りたいというご相談でした」。

収益が入るところか、支払いが必要な物件を買う人がいるのは不思議でならないが、世の中にはそうやって赤字を垂れ流している人が少なくないと渡辺氏。

さらに怖いのはその物件を三為あるいは四為業者(簡単に言えば転売業者)が買ったということ。指値が入り、それでも残債以上には売れた物件に利益を載せて転売すると考えると次に販売される額は安くても2800万円以上にはなるだろう。経緯から考えるとそれで利益が出るはずはないが、世の中には価格や相場、過去の破綻事例などを知ろうともせず、不動産会社の言いなりに購入する人が少なくない。

だから同じような手口にひっかかると前出の永井氏。

「2018年にかぼちゃの馬車事件が世間を騒がせました。これは女性用シェアハウスをサブリースで家賃を保証するからと相場以上の高値で売りつけ、その後に破綻した事件で、事件をきっかけにスルガ銀行の野放図な融資も発覚。ビジネスマン、初めて不動産投資をする人への融資が非常に厳しくなったというもの。不動産投資に関心のある人ならご存知だろうと思っていましたが、最近でも類似したトラブルを聞きます」。

たかだか5年前の事件の手口を調べも、知りもせずに多額の借金をする。金融商品や車その他の高額商品を買う時には慎重に商品を比較する人が、それが不動産になると比較どころか調べもせず、まるで赤子の手をひねるがごとく簡単に騙されるのである。

高値でワンルームを購入すると当然ながら利回りは低く、手元に現金は残らない。それでも不動産を所有していればそれを担保に次の融資を受けられる、だからとにかく一軒目をと考える人がいるが、それは幻想。大家さん専門税理士の渡邊浩滋氏はワンルームの場合、所有していることが逆に銀行のマイナス評価につながるという。

「ワンルームの場合、土地の持ち分は少なく、大半は建物分。そもそも評価が低く、さらに古くなるとさらに下がる。もちろん、渋谷区や目黒区の駅近物件のように下がらないワンルームもありますが、そうした物件は希少。ワンルームを所有していることがネックとなり、次を買いたいと思っても銀行から融資が受けられなくなります」。

個人のワンルーム市場参入自体に陰り

それにそもそも、個人がオーナーとしてワンルーム市場に参入すること自体に陰りが見えてきている。いくつか理由がある。

1つはコロナで収益に不安を覚えた企業が今後、何かあった時のために安定収入を確保しようと事業再構築補助金などを利用、不動産投資を積極的に行っていることだ。彼らは収益より安定を求めるため、2億円で5%回る物件より、20億円で4%、100億円で3%回る物件と金額、入る家賃の大きな物件を好んで取得。空室を作るより、多少収益、つまり家賃を下げてでも満室を目指す。

それに対して個人オーナーは規模の小さい物件でより大きな収益を目指して少しでも高めをと考えて賃料設定をする。借りる側からすれば規模が大きく、エントランスなども立派で賃料設定も安めな企業保有物件を選ぶのは当然だろう。

しかも、コロナを受けて規模の大きな物件の中にはワークスペース、ラウンジ、憩いの場となる屋上などプラスαの共用部分を設けたものも増えており、企業保有、個人保有の物件の差は開く一方である。

ワンルームは学生、若手の社会人を主なターゲットとしているが、人口が減少する中、大学、企業は彼らを囲い込もうと寮、社宅などを増やしているのも個人投資家にとっては逆風の1つ。

大学では2000年代から日本人学生と留学生が生活する混住型国際学生寮が登場し始めており、2010年代には芝浦工業大学の国際学生寮(2013年)、早稲田大学国際学生WISH(2014年)などが話題に。大学が運営する安心と国内にいながらにして国際経験のできる寮に個人経営の賃貸住宅が太刀打ちできるはずはない。

企業においては社宅、寮は長らく削減傾向にあり、現在も家族寮などはまだ減少傾向にあるものの、若手向けの単身社宅、寮、借り上げ社宅は増加。若手を囲い込みたい企業の意図は明確だ。そんな中で個人所有の物件は選ばれにくくなっている。

借り手の経済状況が不安定に

もちろん、そうした有名大学、企業に勤務する人ばかりではなく、自前で民間の賃貸住宅を借りなくてはいけない人も多数いるが、そこには雇用の不安定さが影を落とす。永井氏は自身も、実家も賃貸経営をしているが、コロナ禍では実家が保有するアパートで滞納が相次いだ。

「郊外の1Kアパートで長く住んでいる入居者の滞納が続きました。事情としては派遣社員の方でコロナ禍に体調を崩したことがきっかけで仕事ができなくなり、5万円の家賃が払えなくなったなどといったもの。不動産投資はどこで誰に貸すかが大事ですが、ワンルームは主に手頃さを借りる層を対象にしており、経済、社会が不安定になるとその層が揺らぐ。家賃滞納は実家の物件に限らず、広く増えています」。
 
コロナ禍では数万円以下のワンルーム需要が霧散消失したという声もあったほどで単身向け賃貸住宅は大きな影響を受けた。今後、社会が正常に戻っていけばニーズも戻ってくるかもしれないが、何かあった時に一番影響を受ける層を対象にしたビジネスであることは認識しておく必要がある。

また、不動産投資用に建てられたマンションの場合はそうした物件を保有しているというリスクもある。オーナーがそれぞれ異なるのは分譲マンションと同じだが、大きく違うのは誰もがマンションの管理に関心がなく、管理にお金を払いたくないと思っていること。当然、管理組合が機能しているはずもなく、多くは建物を販売した会社の関係会社の管理会社に任せきりになっていることが多い。

となると管理費、修繕積立金が果たして妥当な額なのか、適切に使われているのかなどの疑問が出てくるが、それを監視する人はいない。

建物と入居者で管理会社が異なる不便さ

賃貸マンションの管理は建物と入居者でそれぞれに異なることがあり、通常であればその場合でも建物を管理している会社は入居者を管理している会社と連携し、入居者情報にもある程度アクセスできるようになっている。ところが、投資用物件の場合には入居者を管理する会社が全戸異なり、建物を管理する会社と情報連携していないこともしばしばだ。
 
となると、上階で火災が発生、急いで下階入居者にそれを伝えようとしても連絡先が分からない、上下階それぞれの入居者が被害を補填してくれる火災保険に加入しているかどうかも分からないという状況に。

入居者にとっては迷惑なことだし、そこでもし、人命にかかわるようなことが発生した場合には所有者の責任が問われる。そんな物件を保有していることが長い目で得といえるかどうかは難しいところだろう。

以上、表面利回り5%以下の区分所有物件を投資として取得、保有するリスクを説明した。こうした物件を買うことは投資にならないどころか、赤字になる可能性が高いが、だからといって不動産投資自体を否定するものではない。若いうちから投資を始めることは時間をかけて資産を増やせて有利。

ただ、問題は何に、どう投資するか、そのためにどれだけの情報を集め、自ら動くか。不動産投資で成功している人は見る目を持っており、それは養うことができる。近年は不動産価格上昇に伴い、キャピタルゲインが得られる可能性も出ており、そのためにも見る目は大事。間違っても誰かの言葉を鵜呑みにし、妄信して投資することだけは避けたいところだ。

(中川 寛子 : 東京情報堂代表)