この記事をまとめると

■日野自動車と三菱ふそうが2024年末までに経営統合することを発表

■両社の経営統合は裏を返せばトヨタとダイムラートラックの水素技術開発の協業につながる

■ダイムラートラックとの協業は日本車にとっては久々の明るい話題となった

日野自動車と三菱ふそうの経営統合の裏にあるもの

 2023年5月30日、トラック・バスメーカーである日野自動車と同じくトラック・バスメーカーである三菱ふそうトラック・バス(以下MFTBC)が2024年末までに経営統合することが発表された。MFTBCと日野は対等な立場で統合し、商用車の開発、調達、生産分野での協業を行い、グローバルな競争力のある日本の商用車メーカーを構築するとのこと。

 そして、ダイムラートラックとトヨタは両社(MFTBCと日野)統合の持ち株会社(上場)の株式を同割合で保有し、水素をはじめCASE(コネクティッド[C]、自動化[A]、シェアリング[S]、電動化[E]/新しい領域での技術革新)技術開発で協業、統合会社の競争力強化を支えるとのことでもある。

 当日行われた記者会見の模様をオンラインにて見ていたのだが、冒頭で記者会見出席者が紹介されたときに、ダイムラートラック社CEOのマーティン・ダウム氏が来日し記者会見に参加していたことに驚かされた。

 すでにご承知のとおり、日野自動車は排気ガスなどの検査データの不正問題が発覚し大騒ぎになったばかり。2023年3月期連結決算では、この不正問題による顧客への補償費用の支払いも影響し、純損益が1176億円の赤字となっている。この記者会見が行われると知ったときに、俗っぽく物事を見てしまう筆者としては、単純に日野が不正問題で追い込まれた末の経営統合という側面でしか注目していなかったのだが、マーティン・ダウム氏がわざわざ日本を訪れ、記者会見に参加している様子を見たときに「何かが違うぞ」と感じた。

 そのあたりを事情通氏は、「MFTBCと日野の経営統合は別としても、トヨタとダイムラーとの水素及びCASE技術開発での協業というのは別もので話が進行していたと考えてもいいでしょう。そして、この両社の橋渡しをしたとされているのが、すでに2013年にトヨタとの協業に関する正式契約を締結しているBMWのようだとの話も聞いております。しかも、ダイムラーサイドからトヨタへ接触したいと動いたようでもあるとのこと」と背景を話してくれた。

 記者会見では終始出席者から、“スケールメリット”という言葉がよく聞かれた。乗用車でも昨今は安全運転支援デバイスやコネクティッドシステムが充実しているが、それはトラックやバスでも同じ話。そのような、新しい技術を開発し、それを装備していくなかでは、ダウム氏自ら「業界ナンバー1」と自負するダイムラー社であっても、その負担は、金銭的なものだけでなく、開発力などにおいても重いものがあり、それを解消するためにはパートナーを探して協業することで、スケールメリットを拡大していくのが急務なのである。

 BEV(バッテリー電気自動車)トラックばかりでなく、FCEV(燃料電池車)や水素エンジン車はもちろん、ディーゼルエンジン車もまだまだニーズがあるので同時進行的に開発などを進めていかなければならなず、これを単一メーカーで行うことは難しいというか、ほぼ無理な話となってきているのである。

 ダウム氏はダイムラー社を“グローバルカンパニー”と表現し、「たとえば日本ではダイムラーは日本の会社、アメリカならアメリカの会社なのである」と会見で語った。

 ダイムラー社のトラックといえば、メルセデス・ベンツトラックとなるが、アメリカでは特徴的なボンネットトラックとなるアメリカンブランドのフレイトライナー、日本では三菱ふそうなど、それぞれの国のブランドで展開しており、その意味でも“日本では日本の会社”といった表現を用いたのかもしれない。

キーワードはスケールメリットとグローバル企業

 MFTBCと日野の経営統合にフォーカスして記者会見を見ていたのだが、会見では国内市場において統合後の具体的な動きにはほとんど触れていなかった。レベルはそう高くないものの、“バス愛好家”を自負する筆者としては、いすゞと日野の合弁バスメーカーである“Jバス”の行方が気になっていたし、MFTBCと日野が統合するのだから、2024年末以降には、大型路線バス車両となるMFTBCの“エアロエース”の双子車として“日野ブルーリボン”が登場するのかなどもおおいに気になっていたが、そんな話は会見で出ることはなかった。

 会見ではスケールメリットのほかに、“東南アジア”という言葉もよく出ていた。東南アジアにおいて日系トラックブランドとなる、“ふそう”、“日野”、“いすゞ”は圧倒的なブランドステイタスの高さを誇っている。そのため、ダイムラーとしても自社グループとして東南アジア市場において、ふそうや日野ブランドを使えるメリットは非常に大きいのである。筆者の私見では、東南アジアでも国によっては、“ふそうが強い”などブランドパワーの強弱があるので、ふそうだけでなく、日野ブランドも持つことは、東南アジアマーケットでは非常に意味があるのではないだろうか。

 さらに会見で盛り上がっていたのは“水素”であった。中国市場は中国政府の肝いりもあり、乗用車やバスにおいてはBEVを積極的に普及させているのは周知の事実。しかし、トラックにおいてはBEV化とは少し距離を置いているように見えたのだが、“トラックはFCEV”でという方向性が見えてきた。ダウム氏をはじめ会見出席者も“いますぐ水素”というわけではないとしながらも、少なくともトラックやバスではZEV(ゼロエミッション車)の最終到達点としてはFCEVという方向性を会見で語っていた。

 FCEVといえば、すでに路線バスの“SORA(ソラ)”や乗用車の“MIRAI(ミライ)”で十分な市販実績も積んでいるトヨタが強みを見せるジャンル。ダイムラーも燃料電池技術には熱心に取り組んできた経緯もあり、今回トヨタと協業できると聞き、ダイムラー社内でも歓喜の声が沸いたとのこと。

 水素を燃料とするFCEVで気になっていたのは水素の価格だったのだが、「ここへきて技術革新が進み、現状よりはるかに安価な価格(キロ当たり500円とも言われている)で水素を提供できるメドがついたようです」とは事情通。

 燃費の良いLPガスハイブリッドを搭載したJPNタクシーの普及もあり、東京都内でさえもLPガススタンドの廃業が相次いでいる。業界団体としては水素燃料ステーションへの業態変更を模索しているような話も聞いていた。しかし、ここへきてその動きが活発化しているようで、水素の安価な供給体制というものが実現しようとしているのは間違いないとも話してくれた。

 また、ダウム氏は近年の世界的なBEVの普及スピードをうけ、FCEVにも使える技術のコストダウンが進んでいるので、若干のタイムラグはあるものの、FCEVのさらなる実用性が高まっていくだろうとも語っていた。

 昨今の世界市場におけるBEVへの急速なシフトの背景のひとつに欧州の動きがある。初代プリウスをはじめ日系メーカーがいち早くHEV(ハイブリッド車)の開発を積極的に行い、その優れた制御技術では勝ち目がないと判断した結果、“日本車つぶし”にも見えるBEVシフトが起こっているともされている。それではFCEVでもトヨタがリードしているのならば、HEVと同じ動きになる不安があるのではないかと思い事情通に聞いてみると、「まずダイムラーと協業している点が異なりますよね。また、欧米におけるトヨタに対する見方も、“東アジアの国の自動車メーカー”ではなく、グローバルカンパニーという異なる見方をしているので、極端なアレルギー反応を示すことはないでしょう」とのことであった。

 前述したようにダウム氏は自分の会社であるダイムラー社を“グローバルカンパニー”とした。そのダイムラーがトヨタに対し同じグローバルカンパニーという目線で今回協業するのならば、いままでと同じような反応はないと考えていいだろう。

 折しも5月26〜28日に富士スピードウェイで開催された、“スーパー耐久第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC24時間レース”では、液体水素を燃料とするトヨタ・カローラが完走しており、“水素で明るい日本車の未来”のようなムードに花を添えたともいえよう。

 BEVでは日本車全体が出遅れムードも強く、“大丈夫か日本車”という声も以前より大きくなっている。いますぐ全面的にFCEVというわけにもいかないので、“つなぎ”としてもBEVの必要性があり、その意味では不安は残るものの、さらに不正問題で揺れる日野の経営統合というものに今回の会見では目が移りがちだったが、記者会見を通じて久しぶりに日本車にとって明るい話題に触れることもでき、なんだかうれしくなってしまった。