日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏が、「脳をサボらせない生活習慣」について解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。

大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」

A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。

考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。

池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。

その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。

以下では、その池田氏が「脳をサボらせない生活習慣」について解説します。

「4分割でメモをとる」メリット


昔から記憶法は数多く存在します。

しかし、私が新しく提唱している「A4・1枚記憶法」は、それらとは一線を画します。

いったいどこが異なるのかというと、イラスト(絵)を描くことで脳に記憶をより強く刻むことができる点です。

この記憶法をひとことで言うと、4分割したA4サイズの紙に「問い」「答え」、それらを見て得た「気づき」文や絵で記入する、というものです。

ぜひ、以前の記事「1年で日本一」44歳が人生逆転"忘れないメモ術"も参照してください。

もちろん、絵が上手である必要はまったくありません。本人が楽しんだり面白がったりしながら描くことが、何より大事です。

「気づき」を文や絵で表現すること、覚えたい情報を覚えやすいように新しく意味付けすることを、私はIP化と呼んでいます(IP=Image Processing)。

「IP化」とは、情報を分解、転換、加工、関連付けするテクニックの総称です。

イメージへの変換が「考える力」をつける

「どのように描こうか?」とIP化をする作業そのものが脳を鍛え、考える力をはじめ、あらゆる脳力を高めてくれます。

たとえば、江戸末期の歴史人物「井伊直弼」について覚えたいとします。

「井伊直弼は、桜田門外の変で暗殺された」ということから「井伊直弼→井戸」「桜田門→桜」「暗殺→幽霊」というイメージに置き換えると、「桜舞い散る日に、井戸から井伊直弼の幽霊が出てくる」という1枚のイラストができあがります。


たとえば、江戸末期の歴史人物「井伊直弼」について覚えたい場合、「井伊直弼は、桜田門外の変で暗殺された」ということから「井伊直弼→井戸」「桜田門→桜」「暗殺→幽霊」というイメージに置き換えると、「桜舞い散る日に、井戸から井伊直弼の幽霊が出てくる」という1枚のイラストができあがる(イラスト『A4・1枚記憶法』より)

ポイントは「実物と似ていない」「きれいに描けない」などと悩まないこと。

手をどんどん動かしてシートを完成させ、「答えを隠して思い出すこと」を繰り返す。そんな使い方をおすすめします。

イラストの完成度を高めることではなく、早く仕上げることを目指してください。

情報を加工するとき、頭の中では「抽象化」が行われています。

「抽象化」とは、覚えようとする情報と、脳内にある既存の知識を組み合わせて再編集し、新しい見方や考え方を生み出すこと。

ですからこのA4記憶シートを何枚も作るうちに、抽象化する力が自ずと磨かれます。

「具体」と「抽象」を行き来する

結果、物事の本質が一瞬で掴めるようになるため、素早く答えたり、効率よくアウトプットをしたりできるようになります。

つまり「A4・1枚記憶法」を日常的に活用することで、「具体」と「抽象」という異なる階層の行き来をスムーズにできるようになるのです。

具体化……抽象的な言葉を具体的なものに象徴化(シンボル化)すること。

たとえば、「平和」という抽象的な言葉から「鳩」「人々の笑顔」「万国旗」「家族団らん」などのイメージに落とし込むことは、具体化になります。


「具体化」とは、抽象的な言葉を具体的なものに象徴化(シンボル化)すること。たとえば、「平和」という抽象的な言葉から「鳩」「人々の笑顔」「万国旗」「家族団らん」などのイメージに落とし込むことは「具体化」になる

抽象化……具体的な言葉が属するグループの枠を、広げていくこと。概念を広げていくこと。「分類図をさかのぼること」とも似ています。

たとえば「プードル」「小型犬」「イヌ科」「哺乳類」「生物」としていくのは、抽象化です。

「ランニング」「運動」「足をつかうこと」「器具をつかわない」などと分解するのも、抽象化です。


「抽象化」とは、具体的な言葉が属するグループの枠を、広げていくこと。概念を広げていくこと。「分類図をさかのぼること」とも似ている。たとえば「プードル」を「小型犬」→「イヌ科」→「哺乳類」→「生物」としていくのは「抽象化」になる

抽象化がうまい人の代表格が、テレビ番組に出演している優秀なコメンテーターでしょう。

彼らはどんな質問にも的確な答えや意見を返すことができます。

それは、頭の中で瞬時に「質問を抽象化」し、概念の枠を広げ、聞かれていることの「本質」を掴み取っているからでしょう。

この「本質を掴む」という脳の働きは非常に大事です。

私自身の例で恐縮ですが、私が過去、記憶術の世界に初めて足を踏み入れたとき。世の中に出回る「記憶術」と名の付くもの全てに片っ端から目を通し、リサーチをしたことがあります。

どの流派も一見個性的に見えますが、膨大な資料を読み込むうちに、それらを抽象化できる(=本質を掴める)ようになりました。

「結局こういうことでしょ?」が抽象化

「抽象化ができている」状態とは「それって、結局こういうことでしょ?」というフレーズが出てくるときです。

実際、私は巷のあらゆる記憶術を吸収した後「記憶術って、結局『感情を動かして覚えること』でしょ?」と明確に感じられたのです。

その後、さらに脳科学についての学びを深め、記憶の仕組みと感情に密接な関係があると突き止め、「感情をより刺激できる記憶法」(IP化)を開発するに至りました。

言い換えると既存の情報を鵜呑みにしすぎず、自分の脳内にある既存の知識と組み合わせて再編集したことで、新しい考え方を生み出せたのです。

みなさんにも「具体」「抽象」、異なる次元を自由に行き来できる視座を手に入れてほしいと願っています。

とはいえ、特別な訓練なんていりません。イメージ化(IP化)を軸としたA4・1枚記憶法を実践することで、抽象化能力は自動的に磨かれていきます。

ここで、ひとつ注意してほしいことがあります。

現代社会でメディアからの情報を鵜呑みにしつづけていると「抽象化能力を養いにくくなる」という点です。

情報の発信者が親切になりすぎて、受信者が頭脳を働かせるべき機会がどんどん奪われてしまう傾向があるからです。たとえば、テレビ番組やYouTube動画の丁寧すぎる字幕(テロップ)

視聴者は、発言やその内容どころか出演者の気持ちまで、字幕で知らされるようになっています。

言い換えると「脳を働かせる」という負担が軽くなりがちなのが現代なのです。

使われなくなった脳は、どんどんサボるようになり、やがては衰えていきます。その場の「空気」や文字の「行間」、要は情報の「背景」を自分で読み解こうとする姿勢を忘れないようにしてください。

そして好奇心を働かせて多くのものに触れ「それって、結局こういうことでしょ?」と頭の中で抽象化する癖をつけてみましょう。

ただしリアルな会話で「それって、こういうことでしょ?」というフレーズを乱発すると「この人はすぐに話をまとめたがる」と、誤解されかねません。「リアルな会話では使わない」という原則をおすすめします。

(池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター)