外資系管理職の意思決定のルールとは(写真:mits/PIXTA)

「日本人の2倍働いて3倍稼ぐ」と言われる外資系管理職だが、どうすれば、そのような働き方ができるのか。また、AI・テクノロジー社会で生き残る管理職の条件とは何か。

このたび、ロングセラー定番書の新版『新 管理職1年目の教科書 外資系マネジャーが必ず成果を上げる36のルール』を刊行した櫻田毅氏が、「2倍働き、チームの成果を最大化」する外資系管理職に共通する、意思決定、部下育成、権限委譲などの仕事のルールについて解説する。

どのような時代環境であっても、仕事の流れは基本的に「決めて実行する」ことの繰り返しです。そこで、管理職の重要な仕事は、迅速かつ的確に決めてチームを前に進めることです。特に、いまのように正解がなく不透明な時代においては、この「決める」ということはますます重要性を増してきます。

間違った決断でも決めないよりマシ


ところが、決めることに時間をかけすぎたり、決めることができないため、仕事が停滞している職場がたくさんあります。その理由としてよく挙げられるのが、情報が十分にそろっていないということです。

しかし、そもそもビジネスにおいて情報が十分にそろうことなどありえません。限られた情報でも、決めて仕事を進めるのが優秀な管理職です。

私が長らく勤めてきた米国系企業でも、迅速な意思決定は管理職にとって必要不可欠な能力でした。早く決めて早く実行し、やりながら不都合な点を修正していく――これが最短でゴールに到達するための共通認識でした。「間違った決断は決めないことよりもマシである」と言われるほどです。

では、彼らはなぜ、限られた情報でも迅速に意思決定ができるのでしょうか。

それは、明確な判断基準を持っているからです。

私が米国系企業へ転職するときのことです。日本法人で一通りの面接が終わったあと、米国親会社の幹部・ロジャー(仮名)との電話面接がありました。軽く挨拶を交わしたあと、先手必勝とばかり、「では自己紹介から……」と切り出したところ、「その必要はない。その代わりに2つの質問に答えてくれればそれでいい」とのこと。

わずか2つの質問で決断

1つ目の質問は、「資産運用コンサルティング・ビジネスにおいて、日本で勝つためには何をすればよいと思うのか?」。不意打ちを食らって脳がエンストを起こしそうになったところを、どうにかこらえて必死に答えました。

多少のやり取りをしたあと、2つ目の質問です。「では、なぜ、あなたにそれができると言えるのか?」。落ち着きを取り戻しながら、私の専門性や実績などを誠実に回答したところ、「OK、サンキュー」で終了、わずか20分です。

たった2つの質問で終わった衝撃的な面接でしたが、あとで考えると、おそらくロジャーは明確な判断基準を持って私との面接に臨んだのだと思います。すなわち、「この人は、資産運用コンサルティング・ビジネスで成功する方法を熟知していて、それを実行できる人なのか」という一点です。

密度の高い会話によって最短時間で必要な情報を手にしようとする、外資系の一流のマネジメントの片りんに触れた気がしました。

何が判断基準としてふさわしいかは、置かれた場面やその人の考え方によって異なってきますが、絶対に外してはならないのが、「何のためにそれをやっているのか?」という「目的」です。これをしっかりと見据えている限り、大きく判断を間違えることはありません。

証券会社時代、私が判断に迷ってオタオタしていると、上司のYさんからよくこのように詰められていました。

Yさん「さくらだ〜、そもそもこの件の目的は何だったんだ、あ〜?」

櫻田「も、も、目的は○○でした、ハイッ」

Yさん「んじゃ、どうすんだよ、あ〜?」

ロジャーの面接目的も、資産運用コンサルティング・ビジネスで勝つための人材採用でした。それと照らし合わせれば、質問は2つで十分だったのでしょう。逆に、目的を見失ってしまうと、枝葉末節に目が行って的確な判断ができなくなります。

危機の際は「判断基準の単一化」を

世界最大のタイヤメーカー・ブリヂストンの元CEO荒川詔四氏が、著書『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)の中で次のような経験を語っています。

ブリヂストン・ヨーロッパのCEOに就任したとき、事業全体が厳しい財務状態に陥っていた。特に、ある子会社が経営の足を引っ張っていた。そこで、その子会社を立て直すにあたって、次のようなメッセージを発した。

「売上とシェアは捨てていい。結果については私が責任を持つ」。つまり、事業規模を縮小させてでも健全な事業体につくり替えることを優先させたのである。子会社は利益確保に全力を集中させた結果、最悪の事態を回避した。

事業活動は売上、シェア、利益など、複数の指標を意識しながら進める必要がありますが、その優先順位があやふやだったり、すべてが大事だと考えてしまうと、各所にコンフリクトが起きて何もできなくなってしまいます。

特に、事態が悪化しているときは、それが原因となって最悪の結果を招きかねません。そのようなときこそ、判断基準に関するリーダーの強いメッセージが重要になってくるのです。

事態が悪化しているときに必要なのは「捨てる決断と判断基準の単一化」です。荒川氏は売上とシェアを捨てるという決断をした上で、利益重視という単一の判断基準をメッセージとして発しました。

危うい状況だからこそ、優先させるべきことを1つに絞り込むことで、関係者の判断に迷いを生じさせないようにしたのです。

捨てる決断ができるのはリーダーのみ

捨てる決断はメンバーにはできません。できるのは組織のリーダーです。これは勇気のいることですが、それをやるからこそメンバーの信頼を集めるのです。

ちなみに、破綻寸前だった子会社は財務体質を健全化したのち、売上とシェアを再び回復させたそうです。一度捨てたものでも、最悪の状態を脱しさえすれば、再び挑戦して取り返せる可能性はあるのです。

仕事にスピード感をもたらす最大の要素は迅速な意思決定です。正解がなく環境が不透明な時代の管理職は、限られた情報でも決めて仕事を前に進めなければなりません。

そこに必要なのは判断基準であり、典型的な判断基準が「目的」です。日頃から、仕事の目的を明らかにして、それをメンバーと共有することが、迅速な意思決定をサポートします。

(櫻田 毅 : 人材活性ビジネスコーチ)