やまだ・しげる/1965年生まれ。山形県出身。1988年 成城大経済学部卒業後、コスモ石油入社。供給部長、執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員などを経て、2023年4月からコスモエネルギーホールディングス代表取締役社長(撮影:梅谷秀司)

6月22日の株主総会に向けて、石油元売り大手のコスモエネルギーホールディングスと、旧村上ファンド系の投資会社「シティインデックスイレブンス」との対立が激化している。製油所の統廃合や再生可能エネルギー事業の分離・上場を要求するアクティビスト(もの言う株主)の村上世彰氏にどう対峙するのか。コスモHDの山田茂社長が東洋経済の取材に口を開いた。


――6月22日の株主総会で、シティ側が提案する社外取締役選任の提案には反対し、シティを除く株主に新株予約権の無償割り当てを行う議案を上程する方針です。

シティ側の提案自体が株主価値、株主の共同利益を毀損すると判断している。とくに大きな問題は、製油所の統廃合だ。われわれの当面利益の源泉となる製油所の競争力を非常に大きく毀損しかねないと考えている。

われわれとしては他社に先駆けて2013年、坂出製油所(香川県)の閉鎖に始まり、その後四日市製油所(三重県)の一部を停止した。一生懸命供給の削減に取り組み、一方で販売はキグナス石油への販売などを増やしてきた。こうしたわれわれの戦略がいま非常に大きな利益を生んで、株主還元にもつながっている。

もちろん頭の体操はしている

ところが、先方は製油所統廃合の話を早く始めろという。長期にわたってどのくらい石油製品の需要が減り、われわれの供給体制を見直す必要があるかということも、もちろん頭の体操はしている。そのうえで、おそらく今後10年は今の体制でいけるだろうという予測をしている。だから私は「10年は製油所の閉鎖は必要ない」と言っている。ここが真っ向から対立している。

――シティ側は再生エネルギー事業子会社(コスモエコパワー)の分離・上場の議論も要求しています。

再エネ事業は、これからきちんと収益を確立していく成長期にある。われわれのグループ内できちんとその収益基盤を確立していくというのが、今取り組むべき最優先のテーマだ。一定の収益基盤を確立した後、それでも企業価値が認めてもらえないのであれば、例えば誰かと手を組むとか、上場も含めていろんなことを考えなければならないかもしれない。

しかし、いま仮に切り離したとしてもはたして妥当な価値がつくのか。もしついたとしてもそれは一時的なものであって、われわれの成長戦略の大事な肝を切り離してしまっては、グループ全体の成長はありえない。

――シティ側は「総還元性向10%未満が放置されてきた」という主張をしています。こうしたことがアクティビストに狙われるきっかけになったのではないでしょうか。

われわれはもともと財務体質が非常に脆弱だった。そこに2011年の東日本大震災で千葉製油所が被災し資本を毀損し、2015年の原油価格下落で在庫評価損も広がった。こうした経緯もあって、しばらく株主還元より資本の厚みを増すほうを優先させてきた。一時は無配にもなった。

その後、何とか収益を立て直し、第6次中期経営計画(2018〜2022年度)、あるいはその前も含めて安全性を高めるところに重心を置いてきた。株主還元策が非常に小さかったのは事実だ。いま、財務体質は一定程度の改善が図られつつあり、株主還元も厚くしてきている。2023年度からの7次中計では「総還元性向60%以上」を打ち出している。業界を見回しても高めの還元方針だ。

――当初はシティ側との対話は建設的だったのでしょうか。

2022年4月以降、直接の面談、リモート面談、書簡のやりとりなどで対話はしてきたつもりだ。当初は村上さん側も「20%以上買い上げるつもりではない」と明確に言っていたので、われわれもその範囲内でいろんな企業価値向上策について対話をしてきた。

ところが、昨年11月18日に30%以上買いたいという話が始まって、最後はほぼ一方的に買い増すんだと宣言された。30%以上となるとかなり大きな経営の支配権になる。その時に先方が言っている製油所の統廃合、再エネ事業の切り離しというのは、株主共同の利益にマイナスになると判断している。

よく練られた提案ではないと受け止め

――「一貫性を欠く提案」という認識でしょうか。

シティ側の要求には、製油所を閉める検討を行い、地元・同業他社とも話し合いをしろと書いてある。われわれは「10年は製油所の閉鎖の必要はない」と言っている中で、地元との話し合いをすればいたずらに不安を与え、われわれのレピュテーションも毀損しかねない。まして他社との話をするのは独占禁止法上、大きな問題だ。

こうした提案を平気でしてくること自体、われわれの考えとまったく相容れない。よく練られた提案ではないと受け止めている。他の株主さんがもう少し理解できるような提案がないとなかなか対話にならない。

――直近では、ENEOSホールディングスがJX金属の分離・上場を発表し、JERAやNTTが3000億円を投じて再エネ事業者のグリーンパワーインベストメント(GPI)を買収することが話題になっています。再エネ事業を高値で売れるタイミングにも見えます。

JX金属やGPIは、事業基盤や人がそろっていて、そうしたプラットフォームに価値がついているのだと思う。一定程度の収益基盤ができていて、これがもし適正に(市場に)評価されていないのであれば切り出しも一つの方法だろう。

一方、今これから成長させたいと思っている再エネ事業を切り出して、きちんと拡大できるのか。資金調達や人材確保の面でわれわれが描いている成長軌道に乗せられないのではないか。

コスモHDは売る側ではなく、むしろ買う側だ。エネルギー事業者はいま、化石燃料に代わる次の成長ドライバーとして再エネに大きな期待を持っている。今まで少しずつ再エネ事業を育ててきて、さあこれからという時になぜそれを奪われなければいけないのか。成長ドライバーを売却することでほかの株主の皆さんは腹落ちするのか、というのが一番の問題だ。

――とはいえ、再エネ事業を収益柱に育てるのは時間がかかります。

再エネ事業は白地のところからスタートするわけではない。陸上風力でそれなりの基盤は築いてきた。風力発電事業で2030年に設備容量150万キロワット超の達成を目指す中で、90万キロワットが陸上風力、60万キロワットが洋上風力だ。

いま実際に稼働しているのは30万キロワットの陸上風力だが、これを膨らませつつ、洋上風力で収益基盤をつくりあげていく。もちろんやり遂げる自信はある。洋上風力は実際に収益があがるのは早くても2030年だが、入札はもう始まっている。全部は取れないにしても一定程度落札していくつもりだ。

彼らの主張は株主還元に終始している

――結局、シティ側は早期のイグジットを狙っていると考えていますか。

「経営に関与するつもりはない」というのは彼らも言ってはいる。ただ一定程度の株式を取得すれば、ものすごい影響力を持つ。資産売却(再エネ事業の分離・上場)などで得たキャッシュを自分たちのイグジットの財源にすることは十分あり得ると思っている。

これまでの彼らの主張を並べてみると、ほぼ株主還元に終始しているように見える。われわれは再エネ事業にある程度時間をかけてきちんと収益基盤を確立したいが、彼らはいま売って還元しろと言っているように聞こえる。

もちろん還元もするが、将来に向けた投資も含めてきちんと企業価値を拡大していけるような施策をとらなければならない。そこをなかなかご理解いただけないというところが大きな溝になっている。再エネの分離にしても、では分離して、どうやってグループ全体の経営価値が上がるかをお示しいただきたいというのが本音だ。

彼らが20%以上株を持つということは、経営に対する責任も一定程度生まれてくる。われわれが言っていることと村上さん側が言っていることと、どちらがコスモHDの企業価値を拡大できるかを株主の方々に判断していただきたい。

(森 創一郎 : 東洋経済 記者)