「トップバリュ」「セブンプレミアム」など三者三様に拡大するPB 物価上昇による節約志向の高まり追い風に

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物価上昇による節約志向の高まりを追い風に流通各社のプライベートブランド(PB)が拡大している。

イオンは、2021〜2025年度の中期経営計画の中で「PBを中計で最も重要な領域と捉えている」(吉田昭夫社長)とし一層注力の構え。

22年度のPB全体の売上高は1.3兆円。そのうち「トップバリュ」は前年比10%増の9000億円に達し過去最高を記録した。

「トップバリュ」の好調は21年度からの“価格凍結宣言”が後押ししたとみられる。

価格凍結宣言が多くのメディアで報じられブランドの認知度が大きく向上しトライアル獲得にもつながったという。

「お客様が『トップバリュ』を試す機会につながり、ご利用いただいたお客様がファンになっていただく。このようなサイクルが回り始めた結果だと思っている」と振り返る。

今後は、PBへの意識変化を追い風とする。

「PBの提供価値は、従来の“ナショナルブランド(NB)品質の安価提供”という概念から、企業理念を具現化したもの、そして差別化や競争優位性の源泉へとポジションシフトしている。それは、業態・商品分野・リアルやデジタルというチャネルを問わず加速しており、PBの成功の有無が企業経営に大きく影響を及ぼすと考えている」との見方を示す。

PBメインブランドの「トップバリュ」

イオンは23年度、PB全体で売上高1.5兆円を計画。

その牽引役となる「トッブバリュ」では、売上高1兆円を目指し、この春、ブランドの再構築を図った。

メインブランドの「トップバリュ」は、“ワクワクするブランド”を目指し、おいしさ・楽しさや使いごこち・かっこよさを追求。

オーガニック&ナチュラルブランドの「トップバリュグリーンアイ」は、ブランド誕生30周年を機に販促資材や売場を刷新。オーガニック商品の拡大とともに、産地・生産者との連携を一層強化する。

価格訴求型の「トップバリュベストプライス」は、ブランドロゴを刷新。価格の安さに加え、環境・サステナブルといった価値、品質を追求した商品を開発する。

「トップバリュ」全体としては、「商品を通じて顧客基盤を増やしていくことが重要」との考えのもと、買い上げ点数における「トップバリュ」の構成比を高めていくことを目指していく。

イオンは4月25日、食品スーパー(SM)・いなげやを2023年11月に連結子会社化し、2024年11月を目途に傘下のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)に経営統合すると発表した。

これに伴い、今後、「関東における1兆円のSM構想」の実現に向け、PBや出店戦略、決済・ネットビジネスなど協業を加速させる方針も明らかにした。

U.S.M.Hは、商品の変革を「オリジナル商品のシェアをどれだけ増やしていけるかが今後の鍵」(藤田元宏社長)と捉え、仕入先の開拓や商品開発に注力する。

前期(2月期)710億円だったPBの売上を、25年までに1500〜2000億円へと伸長させる目標を立てた。「『トップバリュ』ですらまだ300億円程度の売上げ。これは他のイオングループ内のSM各社と比べても非常に低水準」とみている。

フジ・リテイリングは9月から直営全店(94店舗)で「トップバリュ」の扱いを始める。

14年間販売してきた「Style ONE」「Prime ONE」の扱いは8月31日までとし、9月1日から「トップバリュ」820品目(食料品500品目、衣料・住関連320品目)を導入する。

24年のマックスバリュ西日本との完全統合に向けた取り組みの一環。中四国地区でのイオングループの存在感が、店頭においてもさらに増すこととなる。

「安心価格」POPを表示して売られる「セブンプレミアム」のスナック

セブン&アイグループのPB「セブンプレミアム」は、セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)では前下期から回復傾向にある。「前半戦を取り戻すような形で2022年度は前年を上回った。23年度も引き続き様々な『セブンプレミアム』を発売していく」(SEJの青山誠一取締役常務執行役員商品戦略本部長商品本部長)という。

グループ国内では、スーパーストア(SST)事業がSEJの下支えとなり「セブンプレミアム」の食品カテゴリーを多岐に品揃えしている。

「お客様からの高い評価獲得にもつながっている」とセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は述べる。

グローバルでもSST事業のリソースを中心とした食の強みを成長の鍵と位置付ける。

グローバルでは、おにぎり・弁当・サンドイッチ・麺類・惣菜などのカテゴリーで展開するオリジナル商品「セブンフレッシュフード」(フレッシュフード)と客数に高い相関関係があることから「SEJからフレッシュフード設備のノウハウを伝達することで、フレッシュフードカテゴリーにおけるオリジナル商品の強化を実現していく」。

2025年度(2月期)までに、フレッシュフード・専用飲料・PBを含めたオリジナル商品の売上構成比を22年度見込みの約24%から約34%に引き上げていく。

「これらのオリジナル商品の粗利益率は平均40%以上と非常に高く、品質でお客様にご評価をいただきながら経営効率の向上に大きく貢献できる」(井阪社長)とみている。

西友は4月に生鮮食品の新PB「食の幸」を立ち上げ、西友・サニーでの本格展開を開始。ラインアップはバイヤーが味にこだわって厳選。一部エリア限定で一定基準を満たした25品目(青果7、畜産14、水産4)を第1弾で投入した。「『この商品がおいしいからお店に行こう』と思っていただける商品の提供を目指す」(西友)。

ベイシア新PB「Beisia Premium(ベイシアプレミアム)」の売場

ベイシア “三方よし”の方針掲げる

流通がPBの品質と値ごろ感の追求に注力する一方、そのしわ寄せが製造メーカーやサプライヤーに向かっているとみる向きもある。

その点、牛乳や生鮮品に関して“三方よし”の方針を掲げるのはベイシア。3月8日、新PB「Beisia Premium(ベイシアプレミアム)」を発売し、同社が戦略の柱に掲げる商品・店舗・人材を強化していく方針を明らかにした。

節約志向が高まる一方で高品質やおいしさを求める消費者マインドを受けて、「ベイシアプレミアム」では、安さをともなう品質のよさを追求。

高級や贅沢ではなく、高品質や特別を値ごろ感のある価格で提供することでプレミアムな購買体験を創出し来店を促していく。

3月8日、都内で発表した相木孝仁社長は、ベイシア全体の戦略の柱について「1つ目は尖った商品をお届けすること。2つ目は圧倒的に効率的な店舗オペレーションを磨いていくこと。3つ目はそれを運営する人が育つ環境を整えていくこと。つまり、商品・店舗・人がスーパーの基本で、これを磨くことでお客様から日本で一番“ありがとう”をいただけるスーパーになりたい」と説明する。

この3つの柱を磨く起爆剤として「ベイシアプレミアム」の展開に加えて、SPA(製造小売業)化やDX化を推し進め「現在の3000億円の事業規模ではなくて、5000億円、1兆円に引き上げていこうということを今、本気で社員に語りかけている」と青写真を描く。

ベイシアの2022年2月期の売上高は約3020億円。現在、31社からなるベイシアグループは年間売上1兆円を超えベイシアはその祖業企業として中核をなしている。

「ベイシアプレミアム」は、約1年間、検討を重ねて、長年の商品開発に磨きをかけて誕生した。値上げ基調の時流にも沿っているが、満を持しての発売で社内も活気立っているという。

「昨夜から商品陳列に従業員が一生懸命頑張ってくれて、お店のインパクトがだいぶ変わった。お店と従業員の活気が上がり、とてもいい動きだと思っている」と胸を張る。

「ベイシアプレミアム」の特長としては、バイヤーが産地に足を運ぶなどして取り組む“目利き”や低価格の追求、味・品質の保証が挙げられる。

“三方よし”の方針を掲げる牛乳や生鮮品に関しては「コスト競争力のある状態にしないとお求めやすい価格を打ち出せないため、そういった意味では我々も切磋琢磨し、お取引先様も筋肉質な形でやっていただくが、信頼関係を構築できたお取引先様とは長期でお取引していきたい」との考えを明らかにする。

味・品質の保証については「これまでも社内で相当こだわってききたが、今回、第三者機関にしっかりお願いして、より基準を明確にして高いところを目指していく」。

低価格は業務のシステム化や物流の効率化で実現していく。

松尾大輔商品マーチャンダイズ事業部長は、物流効率化の一例に引き取り物流を挙げる。

「当社でトラックを手配して、店舗からの帰りに(メーカーの)工場に寄って引き取る。空の荷台で走っていたところに商品を詰めることで効率化を図りコストを下げることができる。ドライバーさんの手配も非常に大変な中、メーカー様と協力した取り組みを進めている」と述べる。

そのほかケース単位の販売や納品時間の変更でも効率化を図る。

ベイシアでは既存のPBが食品だけで1000SKU以上あり、当面はこれらを徐々に「ベイシアプレミアム」に切り替えていき、食品以外の住関連や衣料への拡大も今後検討していく。

3月8日に発売開始された「ベイシアプレミアム」は46SKU。

その目玉商品としては「近大生まれブリヒラ」(100g当たり税込537円)「農地・生産者限定生産 別海〈北海道〉のおいしい牛乳3.7」(1L・税込213円)「静岡県産茶葉100%使用 濃い静岡茶」(600mlPET・税込62円)などが挙げられる。

各商品にはベイシア目利きポイントが3つ記され、デザインやブランドロゴにもこだわっている。

発売開始後の状況は好調に推移しているという。

ファミリーマート、低価格帯と高価格帯商品を強化

高価格帯でも価値訴求を差別化。「ファミマル」から発売された「SPAMむすび唐揚マヨネーズ」

ファミリーマートは23年度、低価格帯と高価格帯商品を強化するとともに、地域を含めた価格戦略を再構築していく。

4月26日の上期商品政策発表会で、商品本部商品企画部の淺田友則部長は「アイテム数を増やすのではなく、今の品揃えの中で高価格帯と低価格帯の幅を広げていく」と説明する。

前年度は「おむすび」などで低・中・高価格帯の3ラインの価格戦略に大きな手応えを感じたことから、23年度もメリハリある3ラインを継続しつつ、高価格帯と低価格帯の品揃えの幅を広げ、「価格以上の価値」と「値ごろ感」の両極の訴求を強化する。

低・中・高価格の値付けは、品質だけでなく容量などのニーズも重視していく。その点、シェア可能なファミリーユース商品も高価格帯になりうるとし、今後、ファミリーユースの新商品も投入する。

低価格品は前年度、約930アイテムを展開するPB「ファミマル」のパンやおむすび、カップ麺など低価格の商品が好調だったことから、23年度は低価格を維持していく。