成功するために不可欠な「能力以外のある要素」
スキルアップのために本当に必要なこととは?(写真:yosan/PIXTA)
近年、「スキルアップ」のために就業時間外にセミナーに通うなど、勉強に励む人が増えています。しかし、そうした人がみんな成果を出せるのかといえば、そうではありません。成功するために本当に必要な要素について、元リクルートのトップ営業マンの伊庭正康さんの著書『やり抜く人になるための戦略書』より一部抜粋、再編集してご紹介します。
一番大事なのは「能力」や「意欲」ではない
みなさんは「成功」するために必要なのは何だと思いますか?
まず思い浮かぶのが「能力」ではないでしょうか。
それ以外にも、「意欲」が大事だという方もいれば「技術」を最重視する考え方もあるでしょう。
もちろん、そうした要素は重要なのですが、私が一番大事だと考えているのは、別のものです。
ここで、少しだけ私の経験をお話しさせてください。
まだ私が若手だったころ、求人広告の営業であるうどん屋さんへ飛び込み営業をしました。
一回目、店に入ったら無視されました。
二回目も、完全に無視。
三回目はなんと、私がいないかのように店のご主人がふるまいました。
存在すらないことにされるとは……。
いまでこそ笑えますが、当時は相当落ち込みました。「なぜだ?」と。でも「なぜ?」と考え始めると、明快な答えに出合えないんですよね。そんなとき、私はいつも、「どうすれば?」と、自分に問いかけます。
うどん屋さんに営業し、求人広告を受注したいというのが目的。
ご主人はけんもほろろ、私などまったく眼中にないというのが実情。
うまくいくか、いかないかわからない状況でしたが、「完全に無理」という言葉は、私の辞書にはありません。
「(どっちに転がるか)半々やな」と思いました。
目的がかないそうにないから、ダメだからと撤退するのではなく、八方塞がりな状態を「どうすれば」変えられるかと考え抜いて出した答えは、「とりあえず、お客さんになってうどん食べよう」でした。
多くの人は「1回の失敗」であきらめる
何度無視してもやって来る面倒くさい営業ではなく、純粋に一人の客としてうかがったので、ご主人には何のリスクもありません。
ご主人は私を普通に迎えてくれました。
完全無視されていたはずの私の話相手に、ほんの少しだけなってくれました。
そしてその後も、あきらめずに営業は続けました。
しばらく経ったある日、店に入った私の顔を見るなり、「伊庭さんには負けたわ」と、ご主人は苦笑いしながら話しかけてきたのです。
「取り引きしている業者があるから、あきらめてほしくて冷たくしてたんよ」
「普通は、二回くらいであきらめるのに……」と言い、求人広告を出していただける方向に話が進みました。
忘れたころに、当初の目的がポーンとかなったわけですね。
営業を成功させたいという思いはブレずに持ち、やり続けた。
何度も訪問するという行為を続けた結果、お相手の信頼を獲得するに至ったのです。
でも、どちらも努力や根性で続けたわけではなく、ちょっとした工夫と、「続ける」だけで目的が達成できたのです。
「ホントにこんなにうまくいくのかな?」と半信半疑の方もいらっしゃるかもしれませんね。
少し古いデータではありますが、こんな話があります。
成功哲学の提唱者であるナポレオン・ヒル氏は、男女3万人に「人は何回チャレンジしたらあきらめるか?」を調査しました。
何回であきらめると思いますか? あなたなら何回であきらめますか?
回答結果は、平均で1回以下。つまり、多くの人が1回の失敗であきらめたり、挑戦する前にあきらめている、ということ。
人は意外とあきらめやすい存在なのです。
裏返していえば、あきらめずにやり続けることはそれだけでアドバンテージになります。
もっとも、「それができないから苦労している」という声があるのも承知しています。
「あの時、サボらなければ」
「誘惑に負けずに続けていれば」
ひょっとすると、自分の人生はもっとよい方向に変わっていたのではないだろうか、という後悔の念は、誰しもが持っていると思います。
心理学をベースにした「TKKの法則」
何度も挫折を経験して、そのうち「自分は生まれつき意志が弱いから、続けられないのは仕方がない」そう思い込んでしまうのも仕方がないことです。
しかし、私は断言します。
続けられないのは、意志の弱さや、あなたの性格に問題があるからではありません。
「続ける」ための方法を知らないだけなのです。
私は、心理学や経営学など国内外のさまざまな知見を研究し「やり抜く」ために必要な法則を発見しました。
それが「TKKの法則」です。
T → 楽しく
K → 簡単にする
K → 効果を確認する
という意味です。
TKKができれば、あきらめずに続けることを習慣化できます。
最初の「T」、「楽しく」を実践するためにまず重要なのが、「何のために」続けなくてはいけないのかを見直すことです。
ここで、ある逸話をご紹介します。
ひたすらレンガを積む仕事をしている3人の職人に「何のためにレンガを積んでいるのか」と問うたところ、3人は別々の答え方をしました。
職人A「親方から命じられてレンガを積んでいる」
職人B「レンガを積んで塀をこしらえている」
職人C「多くの人が祈りに来る教会を作っている」
AやBの答えであれば、飽きてしまっても仕方ありません。
しかし、Cのように俯瞰して自分の仕事の意義を見出せば、「続ける」ことが苦にならないでしょう。
他にも、「楽しく」する工夫はいろいろあるのですが、この記事ではまず一番大事な「何のために」を押さえていただければ、と思います。
次は「K=簡単に」です。「続ける」ためには、簡単なのがベストです。
自分がダイエット中だったとしたら、どちらを選びますか?
A.体重計を棚に置き、使うたびに出す。
B.体重計を目に付くところに置く。
Bのほうが、体重計に乗る頻度が増え、増減に目配りしやすいでしょう。
ダイエット中の私も、朝起きて、身支度する場所までの動線に体重計をセッティングしています。朝起きたら必ず通る場所なので、体重計に乗って計測するのが習慣化されました。
いかに「わざわざ」を減らすか、と考えていくといいでしょう。
少ないエネルギーでコスパよく、それが「K=簡単に」のねらいです。
ジョブズがいつも同じ服を着ている理由
スティーブ・ジョブズ氏や、フェイスブックを立ち上げたマーク・ザッカーバーグ氏がプレゼンをしているときの服装を、意識して見たことはありますか。
そう、彼らはいつも同じ恰好。服を選んだり考えたりするのにかけるエネルギーや時間を無駄と考えていたからだそうです。
一つに決めれば、迷ったり、悩んだりする煩わしさから解放されますし、やり続けられます。
最後の「K」は、「効果を確認する」です。
私がかつて在籍していたリクルートでは、目標も人事評価もすべて「クォーター制」を採用していました。
クォーター制とは1年を4半期に分けて3カ月ごとに目標等を設定するもので、グーグルやメルカリをはじめ多くの企業で採用されています。
当時を振り返って感じるのは、在籍時の同僚や先輩に目標達成志向の方が多かったということです。
リクルートは営業1人ひとりに3カ月単位の営業目標が設定され、達成すると社内で表彰されました。
目標自体も具体的な数値で細分化して設定されていたので、自分自身で達成度を把握しやすいというメリットもありました。
3カ月ごとに、やったこととやり残したことの両方が評価されましたが、
「もっとできそうじゃん」
「次いけるねえ」
と、とてもポジティブな評価面談が行われていました。
こういった企業風土が、「絶対に達成できるし、達成します」と宣言できる目標達成志向の人材を育んだのだと感じています。
「効果を確認する」大切さの裏付けは、心理学でも、
・人は、自身の進捗を確認できる頻度が増せば増すほど、創造的な仕事の生産性を長期的に高めやすくなる。
・自分が取った行動に対する結果が見えるようになると、脳は「もっとやりたい」という気持ちを持つ。
といったことなどが実証されています。
こんなちょっとしたことが、続けることにつながるのです。
(伊庭 正康 : らしさラボ代表)