「乳房肉腫」の症状・原因・乳がんとの違いはご存知ですか?医師が監修!

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乳房肉腫は乳房にできる肉腫で、乳腺を取り囲んでいる間質と呼ばれる部位に悪性腫瘍ができます。発症するケースは非常に稀であり、まだ不明点の多い病気でもあります。

乳房にできる悪性腫瘍であることや乳房にしこりができるという点では乳がんと似ていますが、乳房肉腫と乳がんは異なる病気であることを最初に押さえておきましょう。

では乳房肉腫と乳がんは何が違うのでしょうか。この記事では乳がんの違いとあわせ、乳房肉腫を発症する原因やどのような症状が出るのか、治療法などについて解説していきます。

乳房肉腫の原因や症状

乳房肉腫とはどのような病気ですか?

乳房肉腫とは乳房にできる肉腫のことで、肉腫は全身の骨や脂肪・筋肉などの軟部組織に発生するがんの総称です。血管肉腫・間質肉腫・悪性線維性組織球腫など、様々な種類があります。
肉腫は予後不良といわれていますが、その中でも血管肉腫は予後があまり良くありません。症状には個人差があり、肉腫の部分に痛みを伴わない場合が多くあります。そのため、肉腫が大きくなってから異変に気づき、発見が遅れるというケースも少なくありません。
しかし、症例によっては出血や壊死などの症状が出るケースもあり、多様性が見られるのが特徴です。

乳がんとは違うのですか?

しこりができるという点では乳がんと共通する部分もあります。しかし、がんと肉腫は由来する組織もしくは模倣する組織が異なります。がんは上皮性組織、肉腫は非上皮性組織です。
上皮性組織とは皮膚・胃や腸などの粘膜のことを指します。一方、非上皮性組織は筋肉・骨・繊維・脂肪・血管・神経などを指します。乳がんは上皮性組織である乳管・小葉からがん細胞ができ、進行とともに繊維組織・リンパ管・血管へと広がることで発覚するケースが多いです。
しかし、乳房肉腫は非上皮性組織である脂肪組織や血管から細胞が増殖し、肉腫となります。そのため、乳がんのようにリンパ節へと転移するケースは稀であることも特徴として挙げられます。

乳房肉腫の原因は?

乳房肉腫には原発性乳房肉腫と続発性乳房肉腫があります。原発性乳房肉腫は原因が不明です。肉腫自体も発症する原因が分かっていませんが、遺伝子の異常が多く報告されていることから遺伝子の変異によるものではと考えられています。
続発性乳房肉腫は、がんなどの治療のために行った放射線が原因です。放射線照射後からの観察期間が長いほど発症しやすくなります。原発性乳房肉腫が40歳以下の若年層に多いのに対し、続発性乳房肉腫は60歳台~70歳台と発症年齢が高いのも特徴です。

乳房肉腫の症状を教えてください。

乳房肉腫は痛みがなく、急速にしこりが大きくなっていくという特徴があります。境界明瞭で少し硬めの乳房内の腫瘍として発見されることが多いです。
見た目の変化はありませんが、血管肉腫の場合は皮膚が青みがかったり、赤い斑点が出たりする場合もあります。続発性乳房肉腫の場合は赤紫色の斑点など、皮膚に変化が見られます。

乳房肉腫の発生率はどのくらいですか?

乳房肉腫には様々な種類がありますが、その発生率は1%にも満たないのが特徴です。肉腫自体の発生率が低く、さらに乳房への肉腫となれば極めて稀なケースに分類されます。乳がんが増加傾向にあるのに対し、肉腫の発生率は年間1,000万人中45人程度となっています。

乳房肉腫の検査や治療

乳房肉腫の検査ではどのようなことが行われますか?

乳房肉腫の検査では、他のがんや肉芽腫との鑑別を行わなければなりません。マンモグラフィーなどのレントゲン検査・超音波検査・画像診断などでは鑑別が困難であり、複数の検査を行うケースも多くあります。
過去の報告では、CT・MRI・血管造影検査・細胞診所見などを行ったものの異常や悪性所見が認められず、最終的に組織診を行うことで診断が確定したケースもあります。
組織診とは、肉腫の部分から組織を採取し、色をつけて検査する手法です。これにより、肉腫を形成する組織を分析して診断へと至ります。

乳房肉腫の治療方法を教えてください。

治療の基本は、外科的な切除です。乳房の部分的な切除、もしくは全ての切除が望ましいとされています。しかし、乳房肉腫は非常に稀な病気であるため、治療方法が確立していないのが現状です。そのため、治療方針が医療機関ごとに異なります。
ただ、乳房肉腫は乳がんとは異なり、放射線療法や抗がん剤治療などの有用性が明らかになっていません。そのため、基本的には切除が主流となっています。がんの際に頻出しやすいリンパ節への転移は稀であるとされており、がん治療ではよく行われるリンパ節郭清と呼ばれる治療はほとんど行われない点が特徴です。
乳房肉腫が再発した場合には再度外科的な切除を行いますが、転移が進んでしまった場合には緩和ケアが基本となります。その場合には、抗がん剤治療を検討することになるでしょう。

乳房肉腫の予後

乳房肉腫は進行しやすいのですか?

乳房肉腫は悪性度が高く、進行も早い病気です。発症初期にみられる症状は、肉腫の発生による乳房のしこり(腫瘤)です。発症後は急速に腫瘤が増大し、周辺の組織へ浸潤した場合には皮膚が赤くなる発赤や、皮膚の厚みが増す肥厚などの変化が見られます。
また、さらに進行すると腫瘍の出血や壊死が起こる場合があります。初期に見られるしこりができても痛みなどの症状はありません。そのため発見が遅れてしまい、診断時にはすでに浸潤や転移が進んでいる可能性もあります。
乳房肉腫などの血管肉腫は、その大きさが予後を左右するといわれています。欧米では5cm以上だと予後が良くないとされているため、もし小さいものであっても乳房にしこりを感じ、皮膚にも変化が現れた場合には速やかに病院を受診しましょう。

乳房肉腫の予後は?

乳房肉腫の予後は不良であり、再発する可能性もあります。再発するか否かを左右する要因の1つは、他のがんや肉腫などと同様に肉腫の切除状況です。先述した通り、基本的には切除手術を行います。部分切除を行う場合もありますが、腫瘤の周辺に浸潤している可能性も考えられるため乳房の全切除手術が推奨されています。
肉腫の完全摘出ができた場合には再発する確率を下げることができるでしょう。しかし、乳房肉腫を根治することは非常に難しく、摘出手術後の再発率は高いのが現状です。また、乳房血管肉腫の場合は肉腫が転移することもあり、特に肺・肝臓などに転移するケースが多いとされています。
肺に転移した場合、嚢胞と呼ばれる風船のような袋ができてしまい、これが破綻すると呼吸困難に陥ります。血流が多い嚢胞の場合には、血液がたまる血気胸になってしまうこともあるでしょう。予後が良好であったとしても、急に他の臓器への転移が発覚し、急速に進行してしまうのが血管肉腫の怖いところです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

乳房肉腫は極めて稀な病気のため、症例数も少なく、未だ原因の特定や効果的な治療法が確立されていない疾患です。また、急速に進行するため早期発見・早期治療が求められる病気でもあります。
乳房にしこりを感じる場合に考えられる病気は乳がんが代表的ではありますが、乳房肉腫の初期症状とも考えられます。乳房に違和感を覚える場合には速やかに病院へ受診しましょう。

編集部まとめ


乳房肉腫は乳がん同様に乳房にできる悪性腫瘍ですが、発生率は低く非常に稀な疾患です。

発症する原因や有効な治療法など分かっていないことも多く、放射線療法などの有用性が明らかになっていないため、肉腫がある乳房の切除が望ましいとされています。

発症後は進行が早く、早期発見・早期治療が求められる病気です。

初期症状として見られる乳房のしこりは乳がんも考えられるため、少しでも乳房に違和感を覚えた場合には早めに病院へ受診しましょう。

参考文献

軟部肉腫(希少がんセンター)

乳腺悪性葉状腫瘍(希少がんセンター)