継いだ大名家には100億円もの負債があって、このままでは切腹するしかない!? 絶体絶命の状況の中、まじめに借金を返そうと奮闘する若殿・小四郎をコミカルに生き生きと演じるのは、俳優の神木隆之介さん。


『大名倒産』上(浅田 次郎)


『大名倒産』下(浅田 次郎)

「小四郎はあの手この手いろいろ考えて、工夫する人なんです。失敗を恐れずにぶつかったり転んだりしながら、動いて、人を巻き込んでいく。結局、人の魅力ってそこだと思うんです。転ぶと痛いけど、手に土がつく。それと同じで、何かがついてくる。挫折すると人の痛みがわかるようになるし、新しい出会いがあるかもしれない。経験することで強さを獲得していく…それが、僕が原作『大名倒産』を読んで感じた小四郎の魅力です。
神木さんは、芝居の工夫ももちろん凄いけど、なによりも「悲壮」にならない。彼が演じると、じとーっとしたウエットな痛々しさが無いんですよね。小四郎は彼以外いない! というくらいピッタリでしょ」

対するのは、佐藤浩市さん演じる小四郎の父、先代藩主の一狐斎。借金返済どころか、必死に金策で走り回る小四郎にすべてを押し付け、「大名倒産」を目論む。

「時代劇の良い原作はないかと探しているときにこの本と出会ったんですが、『大名倒産』というタイトルは本当にキャッチーですよね。みんなが大好きなお金の問題を扱っているし、なにより、小説の中で描かれている幕末の状況がいまの日本とリンクしていた。借金問題や年金問題を抱えていて、東京オリンピックの件でもよくわかったように、偉いひとの会議には未だ女性も若者もいない……制度も慣習も踏襲踏襲でまったく合理化されないまま、次の世代に先送り。変えなきゃいけないけど、「わきまえろ」と言われて変わるわけがないですよね。結局、しんどいのは庶民、一般国民……そういうことが、『大名倒産』という物語の中には違う形に置き換わってすべて入っているんです。だからこそ、今の世に問うべき作品だと強く思いました。この思いとテーマをコメディで伝えられたらみなさんに届くかなと。映画って大衆芸術だし、僕は多くの人に観てもらうことを目指しているからこそ、わかりやすくしたいんです。浅田次郎さんは、小説ファンだけでなく、広く大衆に届く小説を書いていらっしゃる。僕の目標です」

原作を読まれて、もっとも映像化したかったシーンはありますか?

「僕が一番泣けたのは、実は、小四郎の兄の新次郎と、小池越中守の娘のお初、この二人の恋物語でした。新次郎はうつけ(・・・)で、家督を継ぐ能力もないと見なされたハンディキャップがある存在。娘の幸せを一途に思う父親の小池越中守は当然「わしは初を不幸にしたくない」と反対する……こういう状況は今の日本でも変わらないですよね。家族というものはこうでないとならない、ハンデのある人と結婚すると幸せになれない、って周りが「幸せ」を決め付けようとするけど、でもそれは大きなお世話なんですよ。どんな人だろうが自分の幸せは自分で選ぶべき。浅田さんは「人間は不幸の分だけ幸せにならねばならぬ」と書いてらっしゃいます。映画『大名倒産』の裏設定は「幸福論」だと僕は考えてるんです。小池越中守に自分の想いを告げる、お初の言葉にぜひ注目して下さい。」

前田哲(まえだ・てつ)
98年、相米慎二監督のもとで、オムニバス映画『ポッキー坂恋物語 かわいいひと』で劇場映画デビュー。21年には『老後の資金がありません!』『そして、バトンは渡された』で報知映画賞監督賞を受賞。主な監督作品に『パコダテ人』(02)、『棒たおし!』(03)、『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』(07)、『ブタがいた教室』(08)、『猿ロック THE MOVIE』(10)、『極道めし』(11)、『王様とボク』(12)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)、『ぼくの好きな先生』(19)など。23年は本作に加え『ロストケア』『水は海に向かって流れる』と立て続けに監督作が公開となる。

映画「大名倒産」公式サイト
https://movies.shochiku.co.jp/daimyo-tosan/