陸上・日本選手権女子5000m決勝で優勝した田中希実【写真:奥井隆史】

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陸上・日本選手権

 8月のブダペスト世界陸上などの代表選考会を兼ねた陸上・トラック&フィールド種目の日本選手権最終日が4日、大阪・ヤンマースタジアム長居で行われた。女子5000メートル決勝では、23歳・田中希実(New Balance)が15分10秒63で2連覇。14年ぶりに4連覇した2日の1500メートルと合わせ、史上初となる両種目での2年連続2冠を達成した。勝負を仕掛けるか迷ったレース中盤。不安を打ち消しながら攻めたことが、世界のメダル争いを想定できるほどの自信に繋がった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 レースが終わった時、「自分で納得できる勝ち」を手に入れたい。そんな1本だった。

 序盤、田中は渡邊菜々美に次ぐ2番手。真後ろに日本記録保持者の廣中璃梨佳につかれた。中盤に集団真ん中付近に入る。いつ、誰が出るのか。探り合いが続いた。3000メートルの前に勝機が見えた田中。しかし、出るか迷った。

「後ろにつかれるんじゃないか。凄くビクビクしながら走っていた。今まで自分から動かしたのに自分の首を絞めることが多かったので」

 ガス欠になった終盤で抜かれる恐れがある。ふと出てしまった迷い。「勝機が見えたのに出ないのはずるい。力を試したい」。決意を固め、攻めた。3000メートルからロングスパート。5人が先頭グループをつくり、残り3周を過ぎてさらにペースアップ。ラスト400メートルでまた加速し、突き放した。

「ついてこられる不安はあったけど、すぐに気配が消えたので今までの自分と違う。力がついたという手応えを得ることができた。参加標準記録(14秒57分00)を狙うには厳しいペースだったけど、ロングスパートで強さを見せたいと思っていた。ラスト1周を60秒で回れたのは自信になります」

 攻めた結果、終盤も戦えることを知り、また一つ自信を深められた。どんなレースも意図を持ち、ぶつかっていくのが勝負師の信条。ヒリヒリとした世界に身を置くからこそ成長がある。挑戦せず、余裕を見せて優勝しても何も得られない。4月にプロ転向した覚悟を走りで証明した。

「余裕があるのに『絶対に負けない』というところから仕掛けるのは、自分が疲れている立場だったら一番嫌だと感じる。自分がされたら嫌なことはあまりしたくない。正々堂々と。『負けるかもしれない』という不安があるところで自分自身にもチャレンジしてみたかった。(残り550メートルから仕掛ける)プランと違ったけど、常に自分と対話しながら走れた」

世界陸上へケニア合宿「メダル争いをイメージしながら練習してもいいのかな」

 昨年は本職ではない800メートルにも出場して2位。今年は1500メートル、5000メートルに絞った。「3冠を狙う大会にしてもよかったけど、やっぱり一戦、一戦に。1500メートルと5000メートルという世界に出ていける種目で明確に自分の力を確かめたかった」。その上できっちり2年連続の2冠だ。

 海の向こうでは、2日にフェイス・キピエゴン(ケニア)が1500メートルで世界記録(3分49秒11)を樹立。東京五輪で連覇し、昨年世界陸上も制した女王がさらに前に進んだ。田中は「(1500メートルの)優勝後にニュースを見ました。もっと大きな目標があるのが嬉しい。これで満足せずもっとチャレンジができる」と歓迎する。

 2種目とも今大会での代表内定はならなかったが、期間内に参加標準記録を切れば内定。世界ランクでも世陸切符獲得の可能性が残っている。今後はケニア合宿などを経て、7月のアジア選手権、8月のブダペスト世界陸上に向かう。今まで自信を持てずにいた日々もあったが、世界陸上のメダル争いにも触れた。

「(5000メートルで)いかに入賞を目指せるかが最低限。メダル争いにも絡んでいけるか。まだメダル争いは現実的にイメージできないけど、イメージしながらこれから練習してもいいのかなと思う。凄く自分の力に自信を持てた大会になった。ラスト2000メートルくらいのペースを(レース全体の)平均にするのが世界。最後まで世界と戦えるように力をつけたい」

 自ら動いたから収穫が大きくなった日本選手権。真夏のブダペストへの挑戦は続く。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)