チャットAIや画像生成AIなどの生成AI技術の開発は日進月歩の勢いを見せており、検索エンジンに組み込まれたり、ブラウザから画像を生成できるようになったりするなど、日常生活にも生成AIが登場しています。そんな中、テクノロジー系の話題を扱うブログ「Technomancers.ai」の執筆者の一人であるデロス・プライム氏が、「日本はAI技術に全力を尽くす動きを見せている」と指摘しています。

Japan Goes All In: Copyright Doesn't Apply To AI Training

https://technomancers.ai/japan-goes-all-in-copyright-doesnt-apply-to-ai-training/



プライム氏は、2023年4月24日に行われた衆議院決算行政監視委員会での質疑における永岡桂子文部科学大臣の答弁に注目しました。永岡文部科学大臣は、立憲民主党の城井崇衆議院議員から「AIによる学習についての日本の法制度」について問われ、「我が国において、非営利目的であろうと、営利目的であろうと、複製以外の行為であろうと、違法サイトなどから取得したコンテンツであろうと、その方法を問わずAIの学習のための作品利用は可能である」との回答を述べました。決算行政監視委員会の様子は以下のムービーから見ることが可能で、1時間18分頃から答弁が始まります。

【#国会中継】衆議院 決算行政監視委員会第二分科会 〜令和5年4月24日〜 - YouTube

日本では2018年に著作権法が改正され、「『情報解析』に必要な限度においては原則として著作物を自由に利用できる」という内容が追加されており、永岡文部科学大臣の答弁もこの改正内容に基づいたものとなっています。なお、法的な部分については、経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」、「ものづくりスタートアップのための契約書ガイドライン」検討会メンバーとして参加したSTORIA法律事務所の柿沼太一弁護士が以下の見解を発表しています。

Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権|知的財産・IT・人工知能・ベンチャービジネスの法律相談なら【STORIA法律事務所】

https://storialaw.jp/blog/8820

Midjourney、Stable Diffusion、mimicなどの画像自動生成AIと著作権(その2)|知的財産・IT・人工知能・ベンチャービジネスの法律相談なら【STORIA法律事務所】

https://storialaw.jp/blog/8883

プライム氏は、永岡文部科学大臣の答弁を「大胆な姿勢」と評価。さらに、「英語圏ではほとんど報道されていませんが、日本政府は著作権への懸念、特にアニメやその他の映像メディアに関連した懸念が日本のAI技術の進歩を妨げていると考えているようです。これに応えるように、日本は競争力を維持するために、全面的に著作権を使わないアプローチを選択しています」と述べています。

また、プライム氏は、日本の半導体企業「Rapidus」がAI向け半導体の世界で脚光を浴びていることを紹介しています。Rapidusは2023年4月に日本政府から2600億円の補助金を受けており、自動運転車やAIに欠かせない先端半導体の国産化を目指しています。プライム氏は「こうしたニュースは、AI技術の世界でリーダーになるという日本の野心的な計画の一端を示しています」と主張しました。

先端半導体 「Rapidus」新工場に2600億円補助 正式発表 経産相 | NHK | 経済安全保障

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230425/k10014048251000.html

プライム氏は「日本のすべての人がこの決定に賛成しているわけではありません。アニメやイラストなどのクリエイターの多くは、AIの登場によって自分たちの作品の価値が下がるのではないかと危惧しています」と指摘。一方で、学術界や経済界が、日本がAIの分野で世界的優位に立てるようにするため、AIに関するデータの扱いについて規制を緩和するように政府へ圧力をかけていると主張しています。

プライム氏は、「日本の経済成長は1990年代以降低迷しています。日本はG7の中でも一人あたりの所得が最も低い数値を記録していますが、AIを効果的に導入すれば短期間で国のGDPを50%以上押し上げる可能性があります。長年にわたる経済成長の低迷を経てきた日本にとって、AIの推進は刺激になる見通しです」と、論じています。



またプライム氏は、AIにとって重要なのは「利用可能で高品質なトレーニングデータが多いこと」だと指摘。日本語の学習データ量は英語のものに比べると大幅に少ないものの、日本には世界的に人気のあるアニメコンテンツがあるため、トレーニングリソースは豊富に存在するとプライム氏は主張しました。

プライム氏は「世界的に見れば、日本の動きはAI規制論に一石を投じるものです。現在の議論では、開発途上国がグローバルな枠組みを無視して優位に立つという『ならず者国家』を想定したものとなっています。しかし、日本はそれと異なる動きを見せています。世界第3位の経済大国である日本は、AIの研究開発を妨げないと述べているのです。さらに、AI技術を活用して、欧米諸国と直接競争する準備を整えているのです」と述べ、日本がAI技術でアメリカやヨーロッパを出し抜こうとしているのだと主張しました。