「吸収不良症候群」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

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吸収不良症候群は消化・吸収に関わる臓器に生じた何らかの疾患や、臓器の切除などによって、食べたものに含まれる栄養素が適切に吸収されずに起こる病気の総称です。

体に必要な栄養素が十分に吸収されないために栄養障害が起こり、その結果下痢・脂肪便・体重減少・浮腫などの様々な症状が現れます。

生命活動の元となる栄養の吸収に問題があると身体に様々な支障をきたしますので、この記事で吸収不良への理解を深め、予防にもお役立てください。

吸収不良症候群とは?

吸収不良症候群とはどのような病気でしょうか?

吸収不良症候群は消化・吸収を行う臓器や、消化活動を助ける臓器の働きが、何らかの原因で低下することによって起こる病気の総称です。
小腸で栄養素の吸収が行われることが多く、ほとんどの吸収不良は小腸粘膜に異常が生じたことに起因します。このように小腸粘膜障害が原因で吸収不良症状が現れる病気を原発性吸収不良症候群と呼びます。
また、栄養素の吸収の前段階として必要な消化が十分に行われないことも吸収不良の原因の一つです。さらに消化には膵臓・肝臓・胆のうからの消化液を利用します。十二指腸では、分泌された消化液が食物と結びつきます。このような小腸以外の器官の疾患に起因する吸収不良を、続発性吸収不良症候群と呼んでいるのです。

どのような症状がみられますか?

吸収不良の症状は欠乏している栄養によって、下痢・脂肪便・体重減少・るいそう(栄養失調)・貧血・倦怠感・腹部膨満・浮腫など多岐にわたります。
脂肪が消化管で十分吸収されず便に過剰に含まれた状態の脂肪便は、脂っぽく・柔らかく・異常な悪臭を放ち・便器に浮くのが特徴です。またタンパク質が欠乏すると浮腫や皮膚の乾燥・脱毛が、ビタミンや鉄欠乏からくる貧血からは、疲労や筋力低下が生じることもあります。
また、栄養バランスを考慮し量的にも十分な食事を摂取しても、体重が減るといったことも起こります。

吸収不良症候群の原因を教えてください。

吸収不良の症状は、食べたものの消化の過程と栄養素の吸収の過程において、様々な原因によって引き起こされます。消化に影響を及ぼす要因には消化酵素・胆汁の産生不足、胃酸の過剰な分泌の他、小腸において常在菌以外の細菌が増殖する腸内細菌異常増殖症候群(SIBO)などがあります。
また、手術で部分的に胃を切除した場合に、食物が消化酵素や胃酸と十分に混じりあわない症状が出ることもあるので注意が必要です。血液の中に栄養素を吸収する過程で影響を及ぼす要因には、感染症やセリアック病などの小腸の粘膜を傷つける病気、脂肪吸収の必須経路である、腸からのリンパ液の流れに影響を及ぼすリンパ腫などの病気があります。
また、手術で小腸の大部分を切除している場合も、吸収面積が減少するため吸収不良の原因となります。

吸収不良症候群だと痩せるのでしょうか?

体にとって必要不可欠な栄養が体内に十分に取り込まれないような胃腸の疾患は、体重減少の主な原因となります。
またタンパク質の吸収がうまくいかないときには、栄養状態により骨格筋が減少して痩せる場合と、痩せずに浮腫が発生する場合があります。

吸収不良症候群の診断基準と治療方法

吸収不良症候群を疑う場合は何科を受診しますか?

この症候群は生きていくには必要不可欠な臓器に問題が生じて、吸収機能に支障を来たす病気です。
そのため、下痢・脂肪便・体重減少などのこの症候群を疑わせる症状に気づいたら、まずは消化器内科を受診してください。

吸収不良症候群の診断基準を教えてください。

医師によるカウンセリング・病歴・症状の評価、並びに各種検査によって診断が行われます。診察と検査の結果、慢性の下痢・脂肪便・体重減少・るいそう(栄養失調)・貧血・倦怠感・腹部膨満・浮腫、または栄養の欠乏を示すその他の徴候がみられれば、吸収不良が疑われます。
高齢者においては吸収不良の症状がはっきりと現れず、小児と比較して診断が難しいことも特徴です。また、血液検査からは、血液中の蛋白濃度・アルブミン・総コレステロール値の低下など、栄養状態を反映する値が低下していないかどうかを診断基準にします。

検査方法を教えてください。

最初に診断を確定するために血液検査と便検査が行われます。その結果吸収不良を引き起こす病気があることが確認されたら、原因特定のために生検・画像検査・膵機能検査しっかりと行います。
血液検査では、血液中の栄養素やコレステロールの数値をチェックします。また便検査では便に含まれる脂肪量を測定する他、顕微鏡や肉眼で便を観察することで、寄生虫・卵・未消化物の確認が可能です。血液検査・便検査の結果、吸収不良を引き起こす病気があることが確認される場合、原因を診断するために生検・画像検査・膵機能検査が行われます。生検は内視鏡を口から小腸まで挿入して直接組織を採取する方法で、小腸の粘膜の異常を発見するのに有効な検査です。画像検査にはバッテリー駆動のカプセル型のカメラを飲み込むカプセル内視鏡検査や、CT(コンピュータ断層撮影)検査、 バリウムX線検査などがあります。
膵吸収不良の原因が膵臓の消化酵素分泌機能の低下によるものと考えられる場合に行われるのが、膵機能検査です。口から小腸までチューブを挿入したり、消化に膵臓の酵素を必要とする物質を飲んで尿の成分を測定したりと身体値の負担が大きい検査ですが、最近ではより簡単かつ容易に測定する検査も採用されています。

どのような治療方法がありますか?

この症候群を引き起こしている疾患や病態を特定することが治療の第一歩です。原因となる疾患が解明されたら、それぞれの疾患に対応した治療法を行います。また、原因が分からず根本的な治療ができない疾患に対しては、対症療法が行われます。
これらと並行して低栄養状態改善のために行うのが、栄養療法です。消化吸収障害が軽度の場合は、食事療法と消化酵素の投与を行います。
また、消化吸収障害が重度で低栄養状態を伴う場合は、中心静脈栄養・経腸栄養といった治療が必要です。中心静脈栄養では静脈に細いチューブを挿入して体内に栄養を送り、経腸栄養では口もしくはカテーテルから腸に栄養を送るといった治療が行われます。

吸収不良症候群を放置するリスクと予防方法

吸収不良症候群は治りますか?

原因となる疾患の治療を進めつつ、低栄養状態改善のための栄養療法も同時におこなうとで改善へと向かいます。
しかし、原因となる疾患の治療が困難な場合や、原因が特定できないために根本的な治療ができません。対症療法を行う場合、また、手術で腸の一部を切除したことに起因する場合などは完治は困難でしょう。

吸収不良症候群を放置するとどうなるのでしょうか?

下痢・脂肪便・体重減少・るいそう(栄養失調)・貧血・倦怠感・腹部膨満・浮腫といった症状は、原因に消化器系の疾患が存在します。
そのため、症状に気付いていながら放置していると、原因である消化器・膵臓・肝臓・胆のうなどの臓器の疾患が進行し、低栄養状態が引き起こす症状も悪化する恐れがあります。

吸収不良症候群を予防する方法はありますか?

原因となる疾患は多岐にわたり、予防できるものとできないものがあります。
あらゆる病気は食事や睡眠、運動などの生活習慣を整えることでかかりにくくなりますが、セリアック病のような遺伝的な要素が強い病気や、手術により小腸の一部を切除したことなどに起因する場合は予防することは難しいでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

この症候群は、生命活動に欠かせない栄養素が十分吸収されないことで様々な症状を引き起こし、QOLの低下も招きます。またその原因としてあらゆる消化器系の疾患が関係しており、放置すると進行する恐れがあります。
下痢や体重減少、倦怠感などの栄養不良による症状に気付いたら早めに消化器内科を受診してください。

編集部まとめ


吸収不良により日々の食事から十分な栄養を吸収できないと、生命活動に支障を来たし、健康的な生活を維持できません。

また、吸収不良をもたらす原因として消化器系の疾患が存在することも念頭に置き、栄養不良の自覚症状が現れたら早めに医師に相談することを心掛けましょう。

参考文献

吸収不良症候群

栄養に関する基礎知識(国立循環器病研究センター)