愛車の顔を別の車の顔にするカスタムがある?

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愛車の見た目を自由にカスタムできるとしたら、どの部分に手を加えるでしょうか?車に詳しくなくてもすぐに思い浮かぶのは、車高を変えたり、ホイールを交換したり、スポイラーなどのパーツを追加したり……といったことでしょう。

ではもし、愛車の顔を完全に別の車のものに変えることができるとしたら、どうでしょうか?

この手法は「顔面スワップ」と呼ばれ、実際にプロのカスタムショップや、熟練のDIY愛好家が技術を駆使して行なっていたカスタムのひとつでした。

顔面スワップとは、車の外観を別の車種のフロントエンドやリアエンドに変更するカスタマイズ手法です。車のフロントグリルやヘッドライト、バンパーなどの顔面部分を別の車のものに入れ替えることで、自分だけのオリジナルな車を作ることができました。

当時、顔面スワップが流行っていたのはなぜ?

画像は「シルエイティ」
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1990年頃から一部マニアの間で流行を見せた顔面スワップですが、特に有名な組み合わせとして、日産 180SX(ワンエイティ)のフロントを、S13シルビアのフロント周りを移植した「シルエイティ」などが挙げられます。

顔面スワップが流行っていた理由はいくつか考えられます。

まず、斬新さと個性的な外観が注目を浴びた時代だったからです。当時の車好きは、他の車と差別化するために個性的なスタイリングを求めていました。

顔面スワップは、元の車種とは異なるエレガントなデザインや、力強いフロントエンドを実現し、車の個性を際立たせる手段となりました。

また、顔面スワップは、ある車種のパフォーマンスやドライビングエクスペリエンスを持つ車の外観を別の車に与えることができます。

たとえば、セダンのように実用性が高いボディに、スポーツカーのフロントエンドを組み合わせることで、よりスポーティな外観と実用性を両立させることができました。

さらに、顔面スワップをすれば、車を買い替えなくても新車のような新しい外観を作り出すことができます。

加えて、自分だけのオリジナルな車を作ることができるため、オーナーたちは、個性的な車を作ることができるという魅力に惹かれたのです。

廃れた理由①制約や規制が増えたから

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顔面スワップは、一時的なトレンドとしてのピークを迎えましたが、現在ではほとんど見られなくなりました。

当時、カスタムショップで顔面スワップを実施していたオーナーは、顔面スワップの減少について、次のように話します。

「昔は顔面スワップが自動車愛好家の中でかなり流行っていました。しかし、現在では全くと言って良いほど見かけなくなったのには、いくつかの理由があると感じています。

まず、法的な制約や規制が増えたことが一因です。顔面スワップは、車の外観に関する法的な要求や、規制に抵触する可能性があります。

車の安全性や視認性に関わる部分を変更することは、法律上の問題を引き起こす可能性があるため、多くの地域で制限が設けられました。

このような制約があることで、顔面スワップの実施が困難になり、需要が低下したと考えられます。」

廃れた理由②メーカー純正装備のせいでカスタムの自由度が少なくなったから

対歩行者プリクラッシュセーフティの作動画面(トヨタ)

さらに、自動車メーカー自体のデザインの進化も影響しているといいます。

「現代の自動車デザインは、流線型で独自性を持ち、エアロダイナミクスや安全性に配慮したものが一般的です。

メーカーが独自のデザインを追求し、ブランドイメージを確立することで、顔面スワップの需要が減少したと言えます。

これに加えて、カメラやセンサーなどがフロントに取り付けられるようになったため、顔面スワップによりそれらの搭載技術が使用不可になってしまいます。

かつてはフロントのパーツ交換も容易でしたが、現代の車はそのようにはいきません。

クルーズコントロールのセンサーや、安全センサーなど、様々な機能が装備されていることから、顔面スワップが非常に難しくなっています」

総じて言えば、顔面スワップが流行した時代には、個性と斬新さを追求するカスタマイズが求められました。しかし、現代の自動車業界では、法的な制約やメーカーのデザインの進化、カスタマイズのトレンドの変化により、顔面スワップはほとんど見られなくなったというわけです。

かつては、自分だけのオリジナルな車を作ることができる顔面スワップが、カスタムカーの中でも特に人気がありました。顔面スワップが流行った当時と現在では、車に求められる価値観が大きく変わったことも、顔面スワップが衰退した理由と言えます。