「ポイツ・イェガース症候群」は「大腸がん」や「胃がん」のリスクがあるの?

指先や唇に黒いシミはありませんか。小児期で発症することが多いポイツ・イェガース症候群は、胃腸にポリープが多発する病気です。
Peutz氏とJeghers氏らが確認・報告したことからその名がつけられました。聞き慣れない病名ですが、国内では推定600~2,000人近くが罹患しています。
その症状と原因、治療方法から遺伝リスクまですべてわかりやすく解説していきますので、お役に立てましたら幸いです。
ポイツ・イェガース症候群の症状と原因
ポイツ・イェガース症候群はどのような病気ですか?
PJS(Peutz-Jeghers syndrome)は食道を除く胃や腸に、過誤腫性ポリポーシスという多数のポリープが発生する病気で、口腔・口唇・指・足裏などに色素沈着がみられることが主な特徴です。ポリープは小腸にできやすく、大きくなると出血・腸閉塞・腸重積の原因となります。患者数は5~20万人に1人の割合と比較的発生頻度が少ない病気で、合併症として胃・大腸・乳房・膵臓にがんができやすいこともわかっています。国や人種問わず発症し、再発しやすい病気です。
症状を教えてください。
見た目に現れる症状として、主に口唇・頬粘膜・指先・足裏などに1~5mmほどの黒褐色または茶褐色の色素班が確認できます。その形は縦長のものが多く、乳幼児期に発生しその後増加し、成人すると目立ちにくくなる場合がありますが頬粘膜は消失しにくいです。身体的な症状として小腸にできたポリープが大きくなると、血便・貧血・黒色便の症状がみられます。15mm以上になると腸重積になる可能性が高まり腹痛や嘔吐もしやすくなるため、無症状でも8歳頃までを目安にサーベイランスを行い、内視鏡的手術でポリープ切除をすることが望ましいです。
発症する原因を教えてください。
STK11という遺伝子が関わっています。PJSは約半数が遺伝的要素で、がん抑制遺伝子であるSTK11の変異が原因で起きる常染色体優性遺伝性疾患です。遺伝子の変異体をバリアントといい、精子や卵子を経由して受け継がれるDNAの塩基配列変化のことを生殖細胞系列バリアントといいます。PJSは、この生殖細胞系列バリアントが原因といわれており、PJS患者の94%からこのバリアントの検出が報告されています。
似た病気との見分け方はありますか?
皮膚の症状が似た病気がいくつか存在します。中でも代表的なLaugier-Huntziker-Baran症候群は、約半数の患者の爪に色素線条がみられます。PJSと同じように口唇や口腔内・指先に色素班が現れますが大型で淡い色素が特徴で、消化管ポリポーシスの症状はみられない疾患です。中高年の女性に多く、遺伝性ではないことが確認されています。McCune-Albright症候群も色素班は大型で数が少なく、カフェオレ色などPJSと比較するとサイズや色調に違いがみられます。
色素班は似ていても、身体的に現れる病状が異なるのです。このことから、PJSの色素は小さく濃いことと消化管ポリポーシスが認められることが大きな違いです。いずれにしても、ご自身での判断は難しいため病院の受診をおすすめします。
どのような方がなりやすいのでしょうか?
遺伝性のある病気で出生時から幼児期までに発症する傾向があり、ご両親どちらかがPJSの場合、同じバリアントを受け継ぐ確率は男女関わらず約50%です。遺伝以外で発症する方も約半数いらっしゃり、STK11とLKB1の遺伝子が突然変異し機能を損失することが原因で、これに当てはまる方が罹患しやすいといえるでしょう。
ポイツ・イェガース症候群の診断と治療
どのような検査で診断されますか?
一般的に内視鏡検査やX線消化管検査・組織学的検査を行います。お体に負担の少ないCT・MRI検査・カプセル内視鏡検査などもあります。PJSと診断されるのは次にあげる特徴が認められた場合です。口唇や四肢末端の色素沈着
消化管ポリポーシス
常染色体優性遺伝
PJSは稀な疾患の為、診断が複雑でいかなる初期症状もしっかりと確認する必要がありますので、臨床遺伝医や専門の遺伝カウンセラーに紹介されることがあります。また、生殖細胞系列の遺伝子検査については5~10mlほど採血をして、血液中の白血球からDNAを抽出しSTK11などの遺伝子に変異がないか調べます。
治療方法を教えてください。
10~15mm以上のポリープは消化管内視鏡検査でポリープ切除を行います。ダブルバルーン内視鏡は、小腸を中から観察しさらに小腸ポリープの治療も行うことが可能な治療方法です。口や肛門から挿入し全小腸観察が可能になり、ポリペクトミーなどの処置が同時にできるようになりました。内視鏡治療を繰り返し行うことで、小腸ポリープの数と腸重積のリスクが減るため、外科的開腹手術の必要性も減らせるというメリットがあります。
内視鏡治療が難しい場合や腸重積の方は外科的切除治療が一般的になります。色素班に関しては美容的観点から、レーザー治療も有効です。Qスイッチアレキサンドライトレーザーで治療後、色素班が目立たなくなり、経過後も色素の増加がみられずにお過ごしの方も多くいらっしゃいます。
ポイツ・イェガース症候群は治りますか?
PJSはポリープ切除を行った後もまた新たにポリープが再発する病気で、今のところ完治させる治療法が確立されていない希少な疾患です。小児期に発症しその後成人になるまで、治療の継続が必要になるケースが多い慢性疾患でもあります。がん遺伝子パネル検査で病的バリアントを検索し、患者に有効な薬剤を特定できる可能性もあります。ポリープ切除をすることでがん化のリスクを低下させ、腸重積や開腹手術の回避にも繋がりますので定期的に検査を受けることが望ましいです。
ポイツ・イェガース症候群のがん化リスクと遺伝について
ポイツ・イェガース症候群はがん化のリスクはありますか?
PJSは合併症のリスクが高く食道を含む全消化管、肺・乳腺・卵巣・子宮・精巣にがんが高頻度で発生する傾向があります。発がんリスクは大腸がん39%・胃がん29%・小腸がん13%・食道がん0.5%と報告されています。小児期も発がんリスクがあり、最小年齢だと7歳で罹患しているため注意が必要です。特に50歳以降は発がんリスクが高まり60歳以上になると半数になんらかのがんが認められていますので、1~2年おきに早期発見のためサーベイランスを推奨します。
早期発見ができると治癒する可能性が高くなります。
ポイツ・イェガース症候群は遺伝するのでしょうか?
発症者の約50%は男女関係なく遺伝するというデータがあります。病的バリアントを有する患者本人において、早期発見・治療・サーベイランスで罹患率と死亡率を下げることが可能です。STK11遺伝子の生殖細胞系列のバリアントを有する場合や、PJS特有の色素班が確認できた際は、8歳頃までに内視鏡によるサーベイランスを1度は行うことを推奨します。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
発症率が比較的低いPJSは認知度も低いため、初めて耳にしたという方も多いかと思います。難治性疾患にあたり特効薬がないのが現状ですが、半数が遺伝性ですので患者さんによっては早めに予測ができることと、罹患の可能性があれば早めに検査ができる病気です。がん化のリスクもふまえて、早期発見がとても大切になってきます。医療の進歩により以前よりもお体に負担が少ない検査ができ、色素班もレーザー治療で改善できるようになりました。今後のさらなる医療技術の進歩に期待したいですね。
編集部まとめ
ポリープは大人になってできるイメージがあるかと思いますが、PJSは小児期から発症することが多く稀な病気です。
消化管の状態が皮膚表面に現れやすいので、体は無症状でも異変に気づける可能性があります。どのような病状かを知っているだけでも、いざというとき対策がしやすくなります。
PJSによく似た病気もありますのでネットなどの情報だけで判断せずに、早めに医師に相談しましょう。早期発見・早期治療が大切ですね。
参考文献
小児・成人のためのPeutz-Jeghers症候群診療ガイドライン(2020年版)
⼩児・成⼈のための Peutz-Jeghers 症候群診療ガイドライン(2020年版)