落胆のモナコGPからわずか4日。F1サーカスはスペインのバルセロナへと移動し、角田裕毅もリベンジの舞台へとやってきた。

「ハモンイベリコ(生ハム)は最高ですね。ここはたくさんあるので、ヨーロッパ全体のなかで一番好きですね」

 リラックスした表情の角田は、モナコで悩まされたブレーキの問題もきちんと見直し、再発を防止するための対策を採ることも決めたようだ。


角田裕毅に定着しつつあるエースの風格

「ウエットコンディションでは、ドライコンディションの時ほどハードにブレーキングできないのでブレーキに熱を入れることができず、全然効かなくて......。ブレーキングでプッシュできないのでウエットコンディションではタイヤが冷えてしまい、それでどんどん状況が悪化してしまった。

 この問題はFP1から出ていて、予選でもブレーキを温めるために、ほかのクルマより1周多くビルドラップをやらなければならなくて、パフォーマンスにも影響していたんです。それが決勝では雨でさらに出てしまった、ということです」

 アルファタウリは昨年も日本GPの予選など、たびたびブレーキに熱が入らない問題に悩まされてきた。

 昨年からF1ではブレンボが供給するブレーキディスクとパッド、キャリパーに共通化されたが、アルファタウリはオーバーヒートを恐れるあまり、やや保守的に冷却性能の高いディスクを採用する傾向にあったようだ。これに対し、チーム全体としてよりアグレッシブなアプローチをすることで、これを防止する方針だという。

「原因はわかってはいて、ただ単にマテリアルが合っていなかった、というだけです。温度域によって異なるマテリアルを使っていますが、今まではオーバーヒートさせないようにマテリアル選びをちょっとコンサバに行なっていたんですけど、今後はアプローチを変えてもう少しアグレッシブに行こうと思っています」

 もちろんこれによって、より強くブレーキへの熱入れや高い温度域での管理が求められるようになるため、ドライバーとしてもエンジニアとしても新たなチャレンジになる。しかしそこに踏み込まなければ、いつかはまた同じ問題が再発することになる。だからここで、ネガティブな要素は断ち切っておこうというわけだ。

【バルセロナは総合力の勝負】

 前戦モナコでは新型フロアとボディワークを投入しAT04をさらに進化させたが、中低速コーナー中心のモナコではその性能を評価するのは難しかった。Q3進出を果たしたが、同じくQ3に進出したアゼルバイジャンと同じく、メカニカル性能による低速コーナーの強みを生かしての結果だったからだ。

 第3戦オーストラリアではフロア改良でハードブレーキングから低速コーナーへの進入安定性を改善し、第5戦マイアミではフロントウイングとサイドポッド改良で全体的な空力効率の向上に注力。そして前戦モナコでのフロア刷新により、さらなる空力効率向上を狙ってきた。

 ただし角田は、マシン改良はまだまだだと断言する。ドライバーの感触として、コース上でともに走る直近のライバルたちのマシンと比べても劣っている部分がハッキリとわかるからこその指摘だ。

「正直に言って、マシン特性はそれほど大きく改善されているとは思っていません。マシンバランスは悪くないんですが、基本的には最大ダウンフォース量が(ライバルに比べて)かなり不足しているのでコーナーでスライドしますし、ストレートではドラッグが大きすぎます。そこは間違いなく改善が必要な点です。

 それと、特に予選パフォーマンスに関して言えば、ブレーキング時にマシンのピッチングが大きく、それによってマシンが不安定になります。決勝ではそこまでブレーキングで攻めることがないので問題になりませんが、そこも将来に向けた改善点(なので今回のアップデートでの改善は見込めない)です」

 バルセロナ・カタルーニャ・サーキットは幅広い速度域のコーナーがあり、マシンの総合力が問われるサーキットと言われてきた。今年は最終シケインがなくなり高速コーナーの連続となったため、100km/hを下回るのは1箇所だけとなって低速域は減った。

 だが、それでもこれまでにレースが行なわれてきた6つのサーキットに比べれば、格段に総合力勝負となることは間違いない。

【今年の角田はミスを犯さない】

 200km/hオーバーの高速コーナー2から1kmのロングストレートへのアプローチとターン1へのブレーキング勝負で、今年はバトルやオーバーテイクが増えることが期待されている。

「いい変更だと思います。もっとオーバーテイクもしやすくなるだろうし、エキサイティングなコースレイアウトになると思います。まぁ、いつもどおりやります。アップデートの効果を確認するには最適なサーキットだと思いますし、データを取りながらQ3とポイント獲得を目指して頑張りたいと思います」

 角田自身も言うように、モナコGPで投入したアップデートがうまく機能したとしても、AT04はバルセロナで厳しい戦いを強いられるだろう。当然ながらライバルたちもアップデートしており、モナコでは投入を見合わせたチームもこのバルセロナには投入してくる。

 だが、そんな絶望的な状況でも予選でQ2やQ3に駒を進め、予想を上回る走りを見せてきたのが、今年の角田だ。

 決勝でもミスを犯さず、レース全体を俯瞰で見て攻めるべき時は攻め、守るべき時は守る。そんなドライビングでポイントを拾い上げてきたのが、今年の角田だ。

 マシンの総合力のみならず、ドライバーとチームの総合力も問われるこのバルセロナで、またそんな奇跡のようなレースを期待している。