にごりワインとおばんざいにほっこり癒やされる代官山の自然派ワインバー

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2022年にオープンした代官山の「toco」は、おばんざいとナチュラルワインが楽しめるワインバー。かつて同僚だった2人が料理とワインで、ゆるやかな時間を提供してくれる。

〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

おばんざいとナチュラルワインの店

内観

代官山の駅近くに、グレーの石畳に小さな白亜の2階建ての建物が集まった商業施設がある。「toco(トコ)」は、この場所に同じ施設内の「Baro」の姉妹店として2022年2月にオープンした。コンセプトは「おばんざいとナチュラルワインの店」。2階にある店の扉を開けると、白い割烹着のようなブラウス姿の女性2人がカウンターの中で、くるくると立ち働く様子が目に入って、ほっこりした気持ちになる。

左からシェフの澤野ひとみさん、店主の齋藤志織さん

2人の名前は店主の齋藤志織さんとシェフの澤野ひとみさん。彼女らは代々木八幡にあるベトナム料理店「ヨヨナム」で働いていた同僚。齋藤さんが店をオープンするにあたって、再び手を組むことになった。かつて一緒に働いていたこともあって、息もぴったりだ。

前菜、温菜、おつまみがあり、食事も充実しているので1軒目としても利用できる

tocoで出される料理は“おばんざい”とはうたっているが、必ずしも和食ではなく、ほんのりスパイスや魚醤が使われていたりして、自然派ワインにぴったり。料理とワイン、店内の雰囲気がのんびりと癒やしの時間を与えてくれる。

おばんざい盛り✕微発泡ロゼワイン

tocoのおばんざい盛り 2人前1,520円、ハーフ1,060円(写真は2人前)

tocoに来たら、ほとんどの人が注文するのが「tocoのおばんざい盛り」。おひたしやぬか漬けなど、ぱくぱく食べられる野菜料理が4、5種類並べられている。酢や唐辛子がピリッと利いた味付けが多く、自然派ワインがおのずと飲みたくなるようになっている。たくさんの野菜で食事を始められるのがうれしい。

ファビオ・ジェアのグリニョスカ2020(グラス1,600円)

おばんざい盛りに合わせたいのは、イタリアの微発泡ロゼワイン。「おばんざい盛りは最初に頼まれる方が多いので、微発泡のスパークリングを選びました。軽やかなロゼワインは野菜全般にとても合いますよ」と齋藤さん。ほどよい果実のボリューム感と酸味が、さまざまな味付けの野菜をやさしく包み込んでいた。

レモンバター肉じゃが✕オレンジワイン

魚醤とレモンバターの肉じゃが(1,490円)

tocoでは季節ごとに温菜が4種類用意され、メインディッシュとして食べられる。春のおすすめは、「魚醤とレモンバターの肉じゃが」。日本の醤油と砂糖で味付けした肉じゃがよりも、さっぱりした中におだやかなコクがある。豚肉から出た旨味を吸ったスープも絶品の味わい。

ヤン・マティアス・クラインのミュラータイム・サンダーストラック2021(グラス1,350円)

おすすめは、ドイツのややにごったオレンジワイン。「オレンジワインとしては渋みが強くなくさわやかなタイプでさっぱりとおだやかな肉じゃがにちょうどいいですね」と齋藤さん。最初は桃の香りを強く感じるふくらみのある風味だが、時間が経つに連れてグレープフルーツのようなさわやかな味になり、レモンバターの利いた肉じゃがにぴったりだった。

八つ橋チーズマロンペースト✕ほの甘赤ワイン

八つ橋とカマンベールの栗味噌ペースト(740円)

最後に何か少し食べたいというときに人気なのが「八つ橋とカマンベールの栗味噌ペースト」。ニッキ風味の八つ橋の上に白味噌とマロンペーストをあわせたものと、チーズ、ラムレーズンをのせて甘じょっぱいおつまみに仕上げられている。

ジャン・クリストフ・ガルニエのレ・ヌエット2022(グラス1,350円)

こちらにおすすめなのは、フランス・ロワール地方の赤ワイン。「八つ橋のおつまみは、ニッキの香りと辛みがあり、そこへクリーミーな甘みとしょっぱさが加わっているので、ブドウの果実味の甘さを爽やかに足してくれるような赤ワインを選びました」と齋藤さん。スパイスを感じる大人のおつまみと自然派ワインのピュアな甘みが満腹のお腹に満足感を与えてくれた。

齋藤さんの「私が恋した自然派ワイン」

グレープスヒュッテのIbuki2021(グラス1,400円)

福島・会津出身の齋藤さんは地元で造られた自然派ワインをあげてくれた。

「私の出身地近くの会津美里町で新しくワイン造りをされているグレープスヒュッテというワイナリーのシャルドネです。まだ醸造設備をお持ちではないので、宮城県のファットリア・アルフィオーレで委託醸造して、野生酵母で発酵し酸化防止剤を加えない自然なワイン造りをされています。

福島でワイン造りをされる方は増えてきましたが、自然なワイン造りをされている方は初めて。少し醸したにごりのあるワインは、やわらかで開けたてからおいしく飲める素直な味わいがあります。これからも応援していきたいですね」

ゆるやかな自然派ワインをラインアップ

tocoでは、ゆるやかで飲み心地のいい自然派ワインがセレクトされている。地域は特に限定していないが、フランスや日本、ドイツ、オーストラリアなどのワインが多い。ボトルワインは約90種類(7,000〜12,000円)、グラスワインは10〜12種類(1,200〜1,600円)用意されている。料理に合わせて齋藤さんにグラスワインをお願いしてみよう。

土日の夕暮れ時をゆったり過ごすのがおすすめ

外観。d棟の2階にtocoはある

今回は、締めに八つ橋を紹介してもらったが、もう少し食べたいという人には「玄米焼きおむすび」(440円〜)と「麦味噌の具沢山豚汁」(690円)を注文するのがおすすめ。これを目当てに、2軒目や3軒目として利用する人も多いそう。

tocoへ向かう階段

隠れたおすすめの時間帯は、土日の夕方。tocoの周辺には高い建物が少ないので、開店の夕暮れ時から暗くなるまでの時間を、空を眺めながらゆったりと過ごすことができる。平日でも週末でも、ほっこり気分になりたいと思ったら、足を運んでみよう。

※価格はすべて税込、チャージ料330円


<店舗情報>
◆toco

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章