セックスレス夫、妻に拒まれるよりツラい“さらなるどん底”へ。岩田剛典の哀しみの表情がいい|ドラマ『あなたがしてくれなくても』

岩田剛典。この人の演技は、今、日本の男性俳優でもっとも素晴らしいなと感じる。
『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、毎週木曜日よる10時放送)第5話での“名演”は、シンプルだけれど、それ故に完璧だ。新名誠役にかける岩ちゃんの想いと工夫もひとしお。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、最終話へ向けてちょうど折り返した本作で、湧き出るような岩田剛典の演技を解説する。
◆顔芸のバリエーション
岩ちゃんの顔芸が、すごすぎる。『あなたがしてくれなくても』の新名誠役は、岩田剛典の相当な演じ込みを感じる。同じ営業部の吉野みち(奈緒)との不倫(あるいは純愛)的な関係性が、ドラマの展開とともに紆余曲折する中、新名の台詞が明らかに減っているのがわかる。
台詞が減った分だけ、ここは見せ場とばかりに、岩田の顔芸的な表情の演技が粒立つ。喜怒哀楽、基本4つのバリエーションを、それぞれリズムをつけながら、表情豊かに演じる。
仕事の忙しさにかまける妻・新名楓(田中みな実)にあいそをつかせ、夫婦関係の溝が深まる第4話から5話にかけて、表情のバリエーションが深化する。喜と哀で潤んだ瞳をする岩田の表情は、特に、これぞ真骨頂だと言わんばかり。
◆“潤み典”が爆発
第5話のラストは、ふたつの相反する感情表現が見事だった。翻って献身的に振る舞おうとする楓を避け、新名は、どんどんみちに気持ちが傾く。でもみちを強く求めるようになればなるほど、新名の感情は、から回る。
会社を退勤したあと、エスカレーターで、新名は流星群を見るイベントのチケットを2枚予約する。購入ボタンを押して、満足気な新名が、嬉しさのあまり瞳を潤ませて、ぐっと感情をこめた笑顔を見せる。みちが喜ぶ顔を想像すれば、なおさらのこと。
そのあと、待ち合わせたみちをすぐに誘うと、彼女は、なんと即答で断る。道ならぬ不倫の途中、ひとり取り残された新名のダメージは、かなり大きい。さっきまでの喜びは、どこへやら。哀しみのバロメーターを振り切るくらい痛切な表情をする潤み典(岩田剛典の潤んだ表情)が、ここで爆発する。
◆岩ちゃん史上最高の名演
第6話へ向けて、ドラマ全体のちょうど折返しになるクライマックスの熱演だったが、実はその前にも、岩田はとてつもない名演を見せていた。
それは、慣れない料理をかいがいしくする楓に新名が対峙する場面でのひと幕。あまりにつれない態度の新名に、いったいどうしてしまったのかと楓が頭を抱える。すると新名が、「じゃあ言うけど」とややきつい口調で言い出そうとした瞬間だった。楓のスマホに着信が……。
おそらく仕事の電話に違いない。でもさすがにこのタイミングではまずい。着信音がなった拍子に新名は、楓からスマホのあるソファのほうに視線を動かす。鳴りやむと、静かに視線を彼女のほうに戻す。この岩田の演技を見て、筆者はこれまでの岩ちゃん史上最高の名演に立ち会った気分だった。
◆世界的巨匠監督が絶賛するに違いないシンプルな演技とは
ある地点からある地点へ視線を動かし、また同じところへ戻す。この場面での演技は、驚くほどシンプルな動きだ。シンプルであるが故に、それは想像以上に難しく、高度な演技のセンスが必要になる。
ここで、『サイコ』(1960年)などで有名な世界的巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督の話題を。ヒッチコック監督は、単なる視線の動きをシンプルにできない俳優をとにかく嫌った。俳優からしたら、できるだけ感情豊かにキャラクターを演じたいから、シンプルな動きにも何かしらのアクセントをつけたいもの。
そのアクセントがむしろ邪魔になる。AからBへ視線を動かすだけでいいところを内面の変化に合わせた無駄な動き(例えば、目を泳がせたり)によって台無しにしてしまうのだ。だからきっと、新名役の岩田のシンプルな演技を見たら、ヒッチコック監督も絶賛したのではないかと思うのだが。