デビュー25周年を迎えたaikoさんが今語ることとは?

人生100年時代。キャリアも私生活も、何度でも花を咲かせている人たちがいる。ライター芳麗さんによる新しい時代の人物伝。今回は、今年デビュー25周年を迎えたaiko。第一線のアーティストとして立ち止まることなく、走り続けてきた彼女。

前編では、なぜそこまで一途に音楽に心身を捧げられたのかを、デビューまでの半生から紐解いた。中編では、ここ数年で訪れた人生の大きな転機によって、自身に訪れた心の変容を語ってもらった。

この記事の前編:デビュー25年、歌手aikoが「まだ序盤」と語る真意

取り巻く環境は変わっても

3月末、aikoは新アルバム『今の二人をお互いが見てる』を発表した。デビュー以来、長らくの付き合いだったプロデューサーのもとを離れ、セルフプロデュースとなって2作目となる。プライベートでは結婚するなど、取り巻く環境は変わったが、音楽の作り方は変わらないという。

「楽曲はすべて私自身のこと、ノンフィクションです。だいたいは日常の中で、感じたことや思ったことから生まれます。特に楽曲が浮かぶのは、明け方かなぁ。眠る前、一人で部屋で遊んだり、いろんなことを考えたり、妄想したり(笑)。そんな時間に曲ができます」

一人の時間はaikoにとって必要不可欠なもの。気さくでフレンドリーな人柄だが、人付き合いはまったく活発ではない。

「単純に一人でいるのが好きっていうのもあるんですけど。アーティストは孤独であるべきだとも思っています。私の理想ですね。しょっちゅう飲み会とかでウェイウェイしてたら、良い楽曲が出来ない気がするんです」


最新アルバム『今の二人をお互いが見てる』

孤独がaikoにしかない聖域を作り、そこから歌が生まれる。

「私のようなシンガーソングライターは、歌が自分そのものです。音楽は、私の体の中から出てくるものだから、他の人の影響を受けすぎたくないんですよね。

だから、人に会うことや心を明け渡すことを制限しちゃうし、歌以外の仕事も、誰かの曲をプロデュースするのも難しく感じます。コラボとかもビビって出来ないんですよね」

aikoがコラボをしない理由

コラボしない理由を尋ねると、彼女は考えながらこうつぶやいた。

「アーティストとかキャラクターなんかもそうですけど、そのままで十分、魅力的なのに、コラボしすぎやなって思うことがあったりするんです。ありのままでいいのに、そんなに装飾する必要あるのかなって(笑)」

彼女にとって音楽は自分が自分であることを表現するものだから、外側からの装飾は必要ないということか。

コラボにあまり興味を抱けないのは、子どもの頃から生粋の音楽ファンだったaikoならではの思いもある。少女時代、孤独だったaikoを救ってくれたのは、聴き手と1対1で向き合って、自分の大切なものを打ち明けてくれるようなアーティストだった。

「私、自分のデビュー前からKANさんのことが大好きなんですけど、KANさんにはあんまりコラボしてほしくないって思っていたんです。KANさんだけの声が聞きたいし、KANさんのことが知りたい。1対1で向き合いたいから、誰かとの関係性はいらんって思ってたから(笑)。自分がデビューしてからは、ファンだった時の自分の夢を叶えているんです」

数少ないコラボ相手だった東京スカパラダイスオーケストラやラジオ番組中に一緒にカブトムシを歌って話題になったKing Gnuの井口理など、心の支えとなるアーティスト仲間はいる。けれど、実際にプライベートを共にしたり、語り合ったりすることは滅多にない。

「井口くんも、一緒に歌って仲良くなれたと思ったけど、あの後は、2ターンくらいでLINEのやりとりが終わってます。音楽があるからこそのつながりです(笑)。

ただ、今までミュージシャンの方々やスタッフさんとも、ほとんどお付き合いがなかったから、この業界の情報とか常識をまったくと言っていいほど知らなくて。数年前までは、ホント、音楽を作る以外のところで何が起こっているのか、いろんなことに気づけなかったところはあると思います」

前述したように、ここ数年、aikoにはいくつかの大きな変化があった。

1つは、長年、彼女のアルバムのプロデューサーを務めていた人物が現場を離れセルフプロデュースになったこと。

「私は、音楽さえやれたらよかった。自分が良いと思う音楽を作れて、ツアーでファンのみんなに会えたら、それでよかったから。ある程度、好きにされても、まあ、良いかと思ってしまっていて。まさか、こんなに悪いことしているとは思わなかったけど(笑)。

でも、この考えは、大人として無責任やったなとすごく反省しています。今回のことがあって、音楽のことだけじゃなくて、プロモーションとか全体のことも、自分で把握して、ジャッジしてやっていこうと思うようになりました」

現在は、アルバム制作におけるミュージシャンやスタッフとの直接のやりとりはもちろん、時間が許す限り、プロモーションや経営などのさまざまな会議にも参加するようになった。

「自由に能動的に動けるようになったら、いろんなことがより良くなったり、スムーズに決まったり。これまで知らなかったことを知って、こんなにも世界は広いんだなと気づけたし、まだまだ、面白いことできそうだなと。今はとても良い環境で音楽をやれています」

結婚という大きな転機

時をほぼ同じくして、もう1つの大きな転機が訪れた。2020年、コロナ禍の中で結婚。翌2021年に、それを発表したのだ。折に触れ、結婚願望がないと語っていた彼女だが、何か心境の変化があったのだろうか。

「何だか結婚……しましたね(笑)。そもそも、結婚を大ごととは捉えてなかったというか。願望もなかったけど、拒絶感もなかったんです。結婚と恋愛はそれほど違わないし、一生添い遂げないとダメだとも思ってなかったんですけど、大切な人に出逢えて良かったです」

「ファンの人と結婚しました」と語っていたが、厳密に言えば、「彼は友達の友達であり、aikoのファンでもあった人」なのだという。音楽と一途に向き合い続けるaikoを心から尊敬して、今も新曲の発売をいちリスナーとして心待ちにしている人。

おそらく、彼女は今の等身大のaikoとともに、aikoが歩んできた道のりや、aikoの音楽も深く愛してくれる人と結婚したのだと感じた。これからも音楽を愛し抜き、全力で走り続けるaikoを支えてくれる人に違いない。

今日で最後かもしれない

「私が一人でいたい時間や音楽を作る時も自然に大切にしてくれます。『寝る前は人の大事な時間だから』って言って、そっとしておいてくれるんです」

大きな痛みを伴う経験の後に訪れた、新しい幸せは、彼女に何をもたらしたのだろう。

「いろんなことがあって、前向きになりました(笑)。私は病んでたわけじゃないけど、生まれながらに強烈な不安症やし、考えすぎる性格です。そこが変わったわけじゃないけど、家族や、スタッフもそばに信頼できる人がいるおかげで、負の思考の連鎖がなくなって、闇落ちしづらくなったというか。ありがたいです。人は人で変わるんですよね」

だからと言って、自分の中の不安や孤独感が完全に無くなったかといえば、それは絶対になくならないのだとも。

「これはもうサガですね。たとえ結婚して一緒に住んでいても、今日で最後かもしれないと真剣に思うんです。毎晩、眠る前に『もう会えないかもしれない』と不安になってしまうから、おやすみ前には全力でバイバイしてから眠ります(笑)」

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この記事の前編:デビュー25年、歌手aikoが「まだ序盤」と語る真意


芳麗さんによる連載9回目です

(芳麗 : 文筆家、インタビュアー)