〜 2022年「全国新設法人動向」調査 〜


 2022年(1‐12月)に全国で新しく設立された法人(以下、新設法人)は14万2,189社(前年比1.6%減)で、2年ぶりに減少した。2021年は前年の反動もあり、14万4,622社と過去最多を更新した。2022年は減少したものの、過去2番目の14万社台を維持した。
 都道府県別では11府県で増加し、このうち4県が東京近郊だった。リモートワークなど働き方の変化が影響した面もあるとみられる。働き方の多様性も法人設立に影響を与えているようだ。
 コロナ禍でビジネスモデルが大きく変わり、コロナ禍が直撃した飲食業、宿泊業、建設業などは減少した。一方、税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士など、資格を生かした“士業”が増えた。また、農事組合は前年比45.0%減と大きく減少し、宗教法人は3年連続で減少した。

※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象約400万社)から、2022年(1-12月)に全国で新しく設立された全法人を抽出し、分析した。



 休廃業・解散は4万9,625社(前年比11.8%増)、企業倒産は6,428社(同6.6%増)で、ともに増加した。コロナ禍での企業の新陳代謝は加速している。
 コロナ禍の当初、持続化給付金や家賃支援給付金など返済義務のない支援に加え、新型コロナ特例リスケジュール、実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)など、様々な資金繰り支援が実施された。
 こうした支援から新設法人も高水準をたどったが、アフターコロナに向けて支援は順次縮小し、2022年は企業に自立(自律)・自走を求める流れが加速した。支援体制の変化は、市場活性化に向けた退出(倒産、休廃業・解散)と参入(新設法人)に新たな動きを促している。
 都道府県別で増加したのは、青森県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、長野県、三重県、京都府、島根県、愛媛県、高知県の11府県だった。リモートワークの浸透により、勤務地や取引先との距離の問題を低減させ、ワーク・ライフ・バランスを求める風潮も後押しした可能性がある。また、これまでに取得した資格での独立も増えている。
 コロナ禍で、仕事への取り組み方が少しずつ変わり始めたかも知れない。


新設法人の商号 「LINK」がトップ

 2022年の新設法人で最も多かった商号は、「LINK」の52社(前年54社、前年1位)だった。「結びつき」や「連結」、「絆」などを意味しているとみられる。また、唯一無二やトップ、組織の一体感などを連想する「ONE」は44社(同36社、同8位)、相手を助ける意味を持つ「アシスト」(同51社、同2位)と、上昇と訳される「RISE」(同45社、同3位)がそれぞれ40社だった。
 前年との増減でみると、増加数トップは無限大などの意味を持つ「INFINITY」の15社増(17社→32社)。一方、減少トップは日の出などに訳される「サンライズ」の19社減(39社→20社)だった。

産業別 建設業が大幅に減少

 産業別は、10産業のうち8産業で減少した。農・林・漁・鉱業が9.1%減(2,900社→2,636社)で減少率が最も大きかった。以下、建設業の7.1%減(1万6,950社→1万5,744社)、運輸業の4.9%減(2,689社→2,555社)と続く。いずれの産業もコロナ禍で打撃を受けたほか、後継者難や人手不足に直面しており、2022年の新設法人数はこれを反映した結果となった。
 一方、卸売業は9.3%増(5,979社→6,540社)と1割近く増加した。また、情報通信業は0.2%増(1万4,058社→1万4,095社)と僅かだが増加した。
 構成比では、サービス業他が42.1%(5万9,876社)と4割以上を占めた。情報通信業(9.9%、1万4,095社)や小売業(9.0%、1万2,797社)などを含めて、第三次産業が新設法人の過半以上を占めている。



業種別 飲食料品製造業が12.4%減

 産業を細分化した業種の増減を分析した。2022年の設立数が1,000社以上で、増加率が最も大きいのは各種商品卸売業の15.0%増(1,487社→1,711社)だった。以下、機械器具卸売業の12.9%増(1,341社→1,514社)、繊維工業の11.1%増(1,331社→1,480社)、各種商品小売業の6.7%増(1,250社→1,334社)と続く。
 減少率では、飲食料品製造業の12.4%減(2,199社→1,925社)が最大。以下、農・林・漁・鉱業の9.1%減(2,900社→2,636社)、建設業の7.1%減(1万6,950社→1万5,744社)など。

新設法人率 都道府県別で沖縄県が13年連続トップ

 2022年の新設法人数を「国税庁統計年報」に基づく普通法人数(最新データは2021年度)で除した都道府県別「新設法人率」を算出した。
 トップは沖縄県の7.53%。新設法人率の算出を開始した2010年以降、13年連続で全国トップを守った。以下、東京都の6.84%、福岡県の5.82%、大阪府の5.64%、千葉県の5.28%と続く。
 一方、新設法人率が最も低かったのは、秋田県の2.68%。次いで、山形県の2.74%、岩手県の2.78%と東北各県が続く。人口減少率(総務省人口推計、2021年10月〜2022年9月)が大きな地域ほど、新設法人率が低い傾向にある。

法人格別 合同会社の増加率が鈍化

 法人格別の社数は、株式会社が9万3,364社(前年比2.7%減、前年9万6,025社)で、全体の65.6%を占めた。前年は10.8%増加したが、一転して減少した。
 設立コストが安く、株主総会が不要など経営の自由度が高いなどの理由で設立が相次いでいた合同会社は、3万7,062社(前年比0.3%増、前年3万6,934社)だった。10%以上の増加が続いていたが、増加率は鈍化した。
 税理士法人は344社(前年比19.4%増、前年288社)、社会保険労務士法人は271社(同6.6%増、同254社)、行政書士法人は187社(同3.3%増、同181社)、弁護士法人は127社(同3.2%増、123社)で、士業の増加が目立った。
 また、医療法人は1,316社(前年比16.9%増、前年1,125社)で大幅に増加した。業種を細かく見ると、歯科診療所が20.7%増(419社→506社)、無床診療所が14.8%増(639社→734社)など。


 2022年の全国の新設法人は14万2,189社(前年比1.6%減)だった。 2年ぶりの減少とはいえ、2007年に調査を開始以来、過去2番目の水準にある。
 一方、2022年の休廃業・解散は4万9,625社(前年比11.8%増)、倒産は6,428社(同6.6%増)で、ともに増えた。政府は経済活性化に向け「GX・DXなどを進めるための企業参入と退出の円滑化」の検討を進めている。新設法人数は高水準を維持しており、企業の「新陳代謝」の議論がさらに活発になることも予想される。
 新設法人の法人格では、税理士法人の19.4%増(288社→344社)、医療法人の16.9%増(1,125社→1,316社)、社会保険労務士法人の6.6%増(254社→271社)など、医療分野や士業の増加が目立った。この動きはコロナ禍を背景に、起業を目指す人の意識の変化として注目される。
 また、経営者保証に依拠しない融資やスタートアップへの投資のインセンティブ強化など、多様な取り組みが加速している。これが新設法人の動向にどのような影響を与えるか注目される。
 新設法人を産業別でみると、建設業は7.1%減(1万6,950社→1万5,744社)、運輸業は4.9%減(2,689社→2,555社)だった。コロナ禍と物価高、人手不足などで苦境に陥った業種の新設法人の減少は、ある意味、自然な流れともいえる。だが、新築やインフラ更新、物流などへの影響は大きく、後継者難や人手不足への対策も含め、業界への新規参入を促す環境の醸成も必要になっている。