巨大な箱舟に動物たちと一緒に乗り込み、神が起こした大洪水を生き延びたというノアの物語「ノアの箱舟」は、旧約聖書などに登場する有名な物語です。そんなノアの箱舟に登場する「大洪水」は本当に起こったものなのか、地形学者が解説しています。

Did Noah's flood really happen? | Live Science

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ワシントン大学の地形学教授であるデビッド・モンゴメリー氏は、「地質学で確実に分かっていることは、地球規模の洪水は決して起きていないということです」と語ります。ノアの箱舟では周りの山々を覆うほどの水で地上が満たされたといわれていますが、モンゴメリー氏は「文字通り、世界の最高峰の山々を覆うような地球規模の洪水が起こったとする仮説は、地球上にそんなに水はないということから否定できます」と述べました。

アメリカ地質調査所によると、仮に「天」が開いて大気中の水が雨となって一度に降り注いだとしても、海面はわずか2.5cm程度しか上昇しません。



しかし、「天」にある水以上のものを考えたら少し結果は変わってきます。NASAによると、世界中の氷河と氷床がすべて溶けたとしたら、海面は約60メートル以上上昇することになり、もう少し水が増えることになります。さらに、学術誌「Nature Geoscience」に掲載された2016年の研究では、地殻の上部約2kmに約2260万立方kmの地下水が貯まっており、これは陸地を高さ180mの水で覆うのに十分だと推定されています。

こうした要素はあるものの、世界には海抜数千メートルの都市もあり、地球上で最も高い山であるエベレストも海抜8849メートルあることは事実。その上、地質学者は過去の岩石の記録に地球規模の大洪水を示す証拠を見いだせていません。

しかし、ノアの洪水の原因が地球規模の洪水ではなく、地域的な洪水であると考えれば、それほど突飛な話でもありません。例えば、海洋学者のウィリアム・ライアン氏らは「7500年前頃に地中海が当時孤立していた黒海に流れ込み始め、黒海周辺で大規模な洪水が発生したが、これがノアの洪水の起源である可能性がある」との仮説を提唱し、実際の出来事が寓話(ぐうわ)的に口伝されていったのだと論じています。



学術誌「Quaternary Science Reviews」に掲載された論文では、洪水が起こったとしても、ライアン氏らが提唱したものよりはるかに小規模なものであったと論じられています。このように、ノアの箱舟の物語のインスピレーションになったものには議論の余地がありますが、地域的な出来事からインスピレーションを得たと思われる洪水の物語は世界中に他にもたくさん存在します。モンゴメリー氏は「ノアの箱舟物語にインスピレーションを与えた、地質学的にもっともらしい洪水がいくつか発生した可能性があるのでしょう」と説明しました。